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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第一部
13/232

#012「自立した女」【松子】

#012「自立した女」【松子】


 夜中の高揚感で断言した事項は、決まって早朝の冷静さで取り消しする落ちが待っている。

「だからね。駄目な男だから、好きになるんじゃないの。好きになった男が、たまたま駄目なだけよ」

 寿くんが寝静まり、小梅が子供部屋に篭っているのを良いことに、リビングではお母さんと竹美と私で、缶ビール片手に喋繰り合っている。

「名言風に言って正当化しないの、このモラトリアムガール。とにかく、よしなさいよ、そんな不良債権」

「青いわね松子。算盤を弾いて損得勘定をしてるうちは、形だけの恋よ。採算を度外視して感情で突き動かされるようになってからが、本当の恋の始まりなのよ」

「そう。お母さん、たまには良いこと言うわ」

 竹美と万里はハイタッチをしようとして、そのまま、あさっての方向へすれ違う。

 やれやれ。二人して何をやってるんだか。焦点が合ってないのに、変に据わった目をしてるんだから。

「要するにギャンブルと同じという訳ね。依存性が高い割りに、長く続けるほど不利益が嵩むシステム」

 松子が缶をテーブルに置いて断定口調で言い切ると、万里と竹美が反発して噛み付く。

「仕事モードを切りなさい、松子」

「その通りよ、このワーカホリック」

 誰も好きで仕事一筋になってるんじゃないわよ。私が稼がなかったら、いろいろと困るじゃないの。

  *

「なるほど、ドイツ銘菓ね」

 秋子の提案を聞いた松子は、次々とエー四用紙を吐き出すコピー機をチラチラ見つつ、顎に片手を当て、青白い蛍光灯のほうを見た。

 まさかバームクーヘンを食べた翌日に、そんなアイデアを聞かされるとは思わなかったな。

「はい。この街はドイツとの姉妹都市ですし、外為の宣伝も兼ねられるんじゃないかと思いまして。あっ、ほら。海岸通りのほうには、大使館がありますよね」

「あれは大使館じゃなくて領事館よ、秋子ちゃん」

「あれ、そうでしたっけ。大使館と領事館は、どう違うんですか」

 あの無責任男なら、これも勉強だから自分で調べたまえとか何とか御託を並べて、そそくさと逃げるところだろうけど、私は違うわ。えーっと、たしか。

「大使館は外交使節が滞在する場所で、治外法権や何かが通用する場所。領事館は査証の発行や何かの領事事務を行なう場所よ。銀行で言えば、大使館がお偉いさんがいる本店で、領事館が支店よ」

「へぇ。そうなんですか」

 メモにボールペンを走らせ、熱心に書き込む秋子。

 そうそう。メモは、そうやって有効に使いましょう。ひとつ、お利口になったわね。

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