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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第一部
12/232

#011「ジャズ同好会」【竹美】

#011「ジャズ同好会」【竹美】


 その光景を見たとき、一瞬、頭の中が真っ白になり、思わずその場でフリーズしてしまった。

 竹美が部室のドアを開けたとき、風華はドラムスティックをカップ焼きそばに突っ込もうとする寸前だった。

「えっ。何してるの、風華」

 事態が飲み込めなかったので、それだけ言うのが精一杯だった。

「割り箸が無くって。ストックが無いのを忘れてて、レジでもらい損ねちゃったのよ」 

 あぁ、なるほど。それで、愛用のドラムスティックで代用しようとした訳ね。でも、ちょっと、いや、だいぶ無理があるわよ。

「フォークをあげるから、とりあえずスティックで食べるのはよして」

 竹美はレジ袋からプラスティックのフォークを出し、風華に渡す。

 永井先輩はパン派なので、カテラリーを必要としない。パンと紙パック飲料だけでよく身体が保つものだ。食欲が湧かない体質なのかしら。

「サンキュー。私も、ちょっと厳しいかなぁと思ってたのよ。でも、竹美は良いの」

「良いの、良いの。二本もらったから」

 竹美はレジ袋からもう一本のフォークを出して風華に見せ、次いでパスタとサラダを出してテーブルに並べた。

 永井先輩がいたら、ひと口あげようと思ったんだけど、今日も来てないみたいね。

「教授もコメントが辛いよね。また調べ直さなきゃ」

 風華はカップ焼きそばをスパゲティーのようにフォークに巻きつけ、大口を開け、ひと口で食べた。竹美は、ビニールやテープを剥がし、蓋を開けた。

 風華と違って、永井先輩とは学年も、学部も、最寄り駅も違う。会いたくないと思えば、簡単に避けられてしまう。このまま、会わず終いになってしまうんだろうか。

「付箋みたいに、その人物に貼られたレッテルが視認できれば、簡単に貼ったり剥がしたりできて便利だと思わない、竹美」

「身体中に付箋を貼ってたら、かさかさして鬱陶しいだけじゃない。――いただきます」

 竹美は小さく手を合わせ、サラダから食べ始めた。

「それもそうか。それに、背中に張られたら難儀ね。うーん。よく考えたら不便だわ。このアイデアは没ね」 

 永井先輩はサックス、風華はドラムスで、私はピアノ。恋愛のこじれは抜きにしても、このトリオで続けていきたいと風華はいう。前はベースも居たけど、中退して抜けてしまったから、ここでサックスまで抜けられると困るのだという。私も、あの澄んだ音色を、もう一度聞きたい。 

 その後、夕方まで練習したが、二人の前に永井が姿を現すことはなかった。

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