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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第二部
113/232

#106「再び」【金子】

#106「再び」【金子】


 休みを、日数ではなく時間単位でカウントするようになったら、忙しさがピークに達してる証拠だ。

「記入と捺印が済んだ届出用紙と、本人確認に使う身分証明書と、それから、戸籍謄本も必要なんだっけ」

「いや、市外に本籍を移したことが無ければ必要無いって書いてあったから、取らなくて良い、はず」

 金子と誠は、市役所で額を突き合わせながら、二人で茶色い用紙に文字を埋めている。

 比べたくないけど、森宮さんと違って頼りないな。仕方ない。細かいことは、窓口で聞くとしよう。

「二回目なのに、全然覚えてないものね」

「確定申告と一緒だよ。毎年やってたって、次のときには記憶から抜け落ちてるものだ」

 まぁ、初めて提出したときは、まさか再提出すると思って無いものよね。

「五番の番号札でお待ちのかた、どうぞ」

 白髪交じりの七三分けで、ボストンフレームの銀眼鏡を掛けた還暦過ぎの男が、覇気の無い声で呼びかけた。男は、伊丹と書かれた名札を首から提げている。

「あっ、はい。――順番が回ってきてしまったわね」

「あぁ。とりあえず、これを見せて、あと何が足りないか教えてもらおう」

 二人はペンを置くと、戸籍係と書かれた窓口に向かった。

 うーん、頭が働かない。いくら暇がないとはいえ、さすがに夜勤明けは身体に堪えるわ。隈ができるくらいで済めば可愛らしいものだけど、支障が出そうなら、明日の昼勤は休まなくちゃ。シフトに穴を開けたくないけど、寝不足で看護に当たって医療ミスを起こしたら、洒落にならないものね。

  *

「おーそーいー」

 市役所一階、ロビー。ベンチの端を両手で掴み、足をブラブラと前後に動かしながら、琢は口を尖らせて不平を漏らした。

「まだ十五分も経ってないよ。もうちょっと、大人しくして待ってみようね」

 隣に座る寿が、琢を宥めようと声を掛けるが、琢の機嫌は直らない。

「むっ。兄ちゃんは、待たされて平気なのかよ」

「そりゃあ、僕も退屈だけどさ。でも、良い子にして待ってないと、レストランに連れて行ってもらえなくなるよ。それでも良いの、琢くん」

「それは、嫌だけどさ。あー、つまんない」

「困ったな。……あっ、竹姉ちゃんだ」

 寿は、戸籍係から番号札を受け取った竹美に向かって、大きく手を振った。


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