↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第二部
PR
114/232

#107「春分」【万里】

#107「春分」【万里】


「昨年の秋以来ね。お久しぶり。ご機嫌いかが、博さん」

 万里はバケツに掛けた雑巾を手に取ると、軽く絞って墓石を拭いていく。

「この前来たときから、また色々とあったのよ。大きな変動が起きる予感がするって言ったでしょう。シックスセンス的中よ」

 墓石を拭き終えた万里は、バケツの縁に雑巾を掛けた。そして花立に柄杓で水を入れ、仏花の束を二つに分けて挿した。

「毎度おなじみ、菊と樒と彼岸花。今日は、ひと束だけしか残ってなかったわ。お花屋さんが、私が来ると見越して、売らずに置いてあったのかも。ふふっ。自惚れすぎかしら」

 万里は蝋燭を燭台に固定し、マッチを擦って火をつける。そして、炎を線香の束に移すと、軽く振って消し、それを香炉に寝かせて置く。そして、両手を胸の前で合わせ、静かに瞼を閉じて拝んだ。

 あれから年末に、松子は坂口さんに、竹美は永井さんにプロポーズされてね。松子は、まだ家にいるんだけど、竹美は、もう永井家に引っ越したの。それで、一週間前に入籍してきたんだけど、そこに偶然、誠も居合わせてね。えっ。どうして誠がそこに居たのか、ですって。実は、誠は誠で、入院先の看護師さんと再婚話を進めてたのよ。向こうにも男の子が一人居るんだけど、彼と寿くんと相性は悪くなくてね。臆病な内面の裏返しで虚勢を張る癖があったんだけど、寿くんの優しさに触れて、改まってきたそうなの。波及効果、その二よ。

 万里は目を開けて半歩下がり、その場にしゃがみ込み、右手の墓誌を見ながら呟く。

「ただ、小梅は相変わらず漫画ばかり描いてるの。何か熱中できることがあることは良いことよ。だけど、もう少し生身の人間にも関心を持って欲しいというのが、私の本音ね。せっかく、仕事のこととか生活のこととか気にせず、異性とお付き合いできるチャンスなんだもの。どうしたら、興味を持つようになるのかしら。お節介を焼かないほうが良いのかしら。でも、あんまり放っておくのも考えものだし。……子育てって、難しいわ。面白いけど」

 万里は立ち上がり、墓石に視線を戻す。

「娘を取られたからって、坂口さんや永井さんを恨まないでちょうだいよ。博さんだって、亀山家から私を取ったんだからね」 

 万里はバケツを手に取り、玉砂利をザクザクと踏みつつ外柵の外へ出ると、一度だけ振り返り、再び前を向いて本堂のほうへ歩いて行った。

 変動は大きかったけど、まだまだ序の口のような気がするわ。小梅のことに限らず、これまで地下に眠っていた根っこが、これから続々と地上に顔を出してくるでしょう。

 万里はバケツと雑巾を用具棚に戻すと、ふと上を見上げ、流れる雲を目で追った。

 目黒さんのことは触れなかったけど、別に言う必要ないわよね。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。