表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第一部
11/232

#010「鉢合わせ」【小梅】

#010「鉢合わせ」【小梅】


 熱心な読者は、度が過ぎると、時として舌鋒鋭く作品を批判するものである。かくいう英里も、ご多分に漏れない。今週のオジョタンについて、ひとこと物申している。なので私は、言い分を認めつつも作者を弁護している。

「さすがに、吹雪の中で短パンは寒いって。山荘の中では、いつもの格好だったんだから、それで良しとしなきゃ」

「わかってないわね。そこで妥協しちゃ駄目なんだって。太腿と膝小僧は正義なんだから」

 では、ロングコートと長ズボンは悪なのだろうか。

 英里と小梅がショタ談義に花を咲かせていると、例によって、窓の向こうから吉川が姿を現した。

「よっす。何が正義だって」

 窓のレールの上に腕を乗せ、吉川は話に割り込もうとした。

「今日も汗だくね、吉川くん」

「だから、吉川くんには関係ない話よ。話したところで、体育会系の筋肉脳には到底理解できないから、あっちへ行きなさい。シッシッ」

 英里は吉川に向け、片手を軽く二度ほど振った。

 そんなドラ猫みたいに邪険にしたら吉川くんが可哀想よ、英里ちゃん。

「理解できないかどうか、話してみなきゃわかんないぜ」

「話さなくたって、無駄かどうかは判断できるわよ。跳んだり跳ねたりで年中発情期の野兎ぼうや」

「ちょっと、英里ちゃん。それは言いすぎよ」

 かくいう英里だって、ショタに対しては帽子屋のように狂ってるじゃない。団栗の背比べよ。

「それじゃあ一つ、跳んで退散するとしましょうか。またな」

 吉川は両手を頭の上に乗せて兎の耳を真似ると、二、三度両足跳びをしてから走り去っていった。

「それで話を戻すけど、いつなら都合が良いのよ。私のほうは、いつだってスタンバイ出来てるわよ」

 また、その話か。何としてでも寿くんに会いたいのね。ここまで来ると、もう執念を感じるわ。

  *

 それで何度も話題をずらしたんだけど、その度に軌道修正されて戻ってくるもんだから、相手の要求を呑むことにしました。こういう駆け引きには向かないわ、私。

「この通路の奥が私の家よ」

「フフフ。この先にショタが居るというわけね。興奮してきたわ」

 二人は黒光りする乗用車の脇を抜け、旗竿地の奥へと進んでいった。

 手前のお宅、ハイヤーでも頼んだのかしら。ボンネットにエンブレムのある高級車だわね。

 小梅が玄関を開けようと手を伸ばすと、ノブを掴む前に扉が開き、中から安奈が出てきた。

「それでは失礼します。ごきげんよう。――あら」

 安奈は扉を閉めて振り返り、小梅と英里の姿に気付いた。

「この子が寿くんってことは無いわよね」

 ひそひそと疑問を投げかける英里に、小梅が応える。

「違うわよ。きっと寿くんのお友達よ。――こんにちは。寿くんのお友達かしら。私は、従姉の鶴岡小梅。こっちは、私のお友達よ」

「松本英里よ。よろしくね」

「はじめまして。観音院安奈です」

 安奈は松本に近付くと、瞳を射抜くように見詰め、ハキハキと宣言した。 

「念のため、申し上げておきますけど、寿くんの恋人の座は譲りませんからね」

 どうして英里が恋のライバルだと思ったのかしら。ショタを狙ってるのは確かだけど、恋人の座を脅かす存在ではないのに。さて。勘違いで恋敵に認定された宣戦布告を、どう切り返したものだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ