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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第一部
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#009「大物」【万里】

#009「大物」【万里】


 女の子なら誰もが一度は王子さまに憧れるものだけど、ここまで本気になるのは珍しいんじゃないかしら。

 ビニールに包まれたバームクーヘンを化粧箱から取り出しながら、万里は戸惑いを浮かべていた。

 この前、テレビのおもたせ特集で見たけど、たしか宮内庁御用達なのよね、これ。お友達の家にお邪魔するくらいで持っていく品ではないと思うんだけど、社長令嬢は庶民と感覚が違うのね。

 万里は包みを開けると、バームクーヘンの上空で包丁を縦横に動かしながら、眉根を寄せた。

 寿くんと安奈ちゃん、それから私と松子たちで六等分で良いかしら。でも、松子たちが食べてるときに寿くんが無いのも可哀想ね。……よし。八等分にして、残った一つは誠にあげよう。

 キッチンで万里が思案してる頃、リビングでは小学生二人がババ抜きをして遊んでいた。

「これがおすすめよ、寿くん」

 三枚のトランプのうち真ん中の一枚を頭一つ飛び出させながら、少女は寿に手札を近づけた。

「同じ手には乗らないよ、安奈ちゃん」

 寿は向かって右側のトランプを取ると、渋い顔をした。

「私だって、同じ手は使わないことよ。そちらから見て右のトランプを取る癖があることは、さきほど把握したんだから」

 あらあら。安奈ちゃんのほうが一枚上手みたいね。

 お盆を持ってリビングに入った万里は、テーブルの上にバームクーヘンとホットココアを並べた。

「心理戦は一旦お休みして、おやつにしましょうね」

「わぁ、美味しそう。いただきまーす」

「いただきます」

 トランプを投げ出し、右手でバームクーヘンを掴もうとする寿を見て、万里が注意する。

「フォークを使いましょうね、寿くん。安奈ちゃんを見習いましょう」

 それを聞いた安奈は、フォークを皿の端に置き、指でバームクーヘンの一番外側を薄く剥がしてみせた。

「ティータイムくらい、かたいことは抜きにしませんか。お互いに不愉快に思わない程度にリラックスするのが、本当のマナーですよ」

 さよう、ごもっとも。将来、立派な女王になるわ、この王女さま。

 テーブルの上には、ハートのクイーンのトランプが、ジョーカーとキングに挟まれて並んでいた。


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