交換条件と懐かしい顔
最上位冒険者
世界で100人程度いてその半数は亡くなっているものの、その武勇伝は後世にも残っている程のいわゆる伝説のようなものばかり
モカもそんな武勇伝を持ってたりするが、今は話すのはやめておこう
「バルトさん、でしたっけ?何で最上位冒険者が賊なんてやってんですか?」
「あん?……俺達の軍団は戦場を仕事場として、数多くの戦場で勝利を収めたんだ。指揮官は俺で、まぁ何とかやってたわけよ。これ、俺が最上位の理由な。それで、だな。先日雇われた主人が、報酬を払わずに死んだんだよ。だから親族とかに貰おうって事で会って話しをしたんだが、息子がしたことだからびた一文払う気は無いってなもんよ。これには軍団全員キレて、王に刃を向けた。俺達は街全体から追われて、日々の暮らしもままならなくなったからな。こうして賊やってんだよ。まだ小せぇ街でも、街は街だからな」
少し悩んだ後、答えてくれた
な、なるほど。随分イメージ通りの冒険者感が強い人達だこと。この人達、人手として使えないかな
「あのー、話し合いに切り替えましょうか。商談、でもいいですけど」
「どうした、いきなり」
「いえ、戦う必要は別に無いんじゃないかなぁって、思いましてね。バルトさん達は物が欲しい。俺達は、まぁ今は見逃して欲しいって感じですかね」
「まぁ、そうだな。まだ金はあるからそりゃ食いもんとかが欲しいな。んで、とりあえず条件言ってみ」
「そうですねぇ。次の街フラムでお望みのものを買ってくるという条件で俺達の街までの護衛、でどうです?」
「お前らが逃げる、もしくは物を渡すのを拒否した場合は?」
「俺がまぁ、人質ってことでどうです?街に入る時は俺だけバルトさん達と外で待つってことで。幸い仲間がいますしね」
「んー、よし。まぁいいだろう。あいつら止めるから、ちょっと来い」
「はいはい」
◇◆◇◆◇◆
俺達は馬車から結構離れてしまっていたようで、少し時間がかかった
馬車に戻ってみると、そこには死体の山が!
ごめん死んではなかったわ。気絶してるだけみたい
「ん?タクミ、そいつが頭だろう?何を仲良くやってる…って、バルトじゃないか」
「あ?……あ、モカ師匠?」
「久しぶりじゃないか!何年ぶりだ?大きくなりやがってこのこの~!」
バルトさんを脇に抱えて頭をグリグリするモカ
それに、バルトさんモカの事を師匠って言ってたな
「ちょ、師匠!恥ずかしいから離せ!」
「ん?そうだな。しかし、何やってるんだこんなところで」
「さっき自分で言ってたじゃねぇか。俺がこの賊の頭だよ」
「そうか。まぁ弟子の始末は師匠が務め、というやつだな。剣を抜け。その腐りきった性根ごと斬り捨ててやる」
「話を聞け。なぁ、タクミっつったか?仲間って師匠もいたんだな。てか、師匠に説明してやってくれよ」
だいぶ参っているようだ。モカも何だか楽しそう
「モカ。この人達は今から護衛になってもらうことになったから、手を出しちゃダメ」
「?」
剣から手を離し、首を傾げる
「実は……」
簡単に説明すると、納得と承諾を得た
「……本当はタクミを人質に、というのは反対なのだがな。ワタシではダメなのか?」
「師匠じゃ自力で抜けてくだろうが」
「それもそうだが、しかしなぁ」
心配そうにこちらを見つめるモカ
「大丈夫。バルトさんはいい人だし。約束さえ守ればいいんだよ。今後も仲良くしていきたいしね」
モカは変わらない主張に困ったような笑みを浮かべた
「分かった、任せておけ。最悪ワタシが皆殺しにしてやるからな」
「そうならないことを祈るよ」
本気でやってしまいそうな目をしていた
弟子でも何でもお構い無しの様子
「そうだバルトさん。人質としてそっちにいる間、稽古でもつけてくれません?」
「いいのか?」
モカを見てそう言う
「構わんよ。ワタシだけの技術だけではなく、他の者からも学んだ上で、自分に合う型を作るのがワタシの師匠の教えだ」
ワゴウにいるという師匠の事か
「そういう事なら教えんでもないが、対価は貰うぜ?」
ニヤッと笑うバルトさん。無理難題じゃなければいいんだけどね
「なぁに、質問に答えるだけさ」
何だ、簡単なことでよかった
「聞きてぇことは2つで、まず1つ目。お前らの旅の目的は?」
「取り敢えずは素材集めと力をつけるのと名声を集めること。最終的には、とある少女が見たと言う光景の阻止」
お互い真面目な顔をして話しをする
「とある少女?っと、まぁそこはいい。聞きたいことが増えたから聞くが、その光景の詳細は?」
「言っていい?」
後ろにいるモカ達に聞く。頷かれた
「神と天使による世界の滅亡」
「……それは、信じられるのか?」
「分からない。だが、可能性があるってだけで動くには十分だ。それに伴って、現在は魔族特区の街を攻めようとしている8つの街を止める方向に動いているがこれは間に合わないと思う。なので、次善の策で奴隷を含めた俺達の戦力アップと装備の充実。冒険者達の育成という目標を立てている」
「そうか。ま、目的は分かった。んじゃ次」
「師匠と、付き合ってんの?」
その言葉で、真剣な雰囲気だったのが一瞬にして気の抜けた雰囲気になってしまった
「え、何ですかいきなり」
「いや、だってよぉ。あの師匠に男とか、考えられねぇんだって。知ってるか?師匠を口説こうとした男が次々に玉砕。しつこい奴は決闘挑んで勝てたら嫁入りでもなんでもしてやるとか言って叩き潰す。そんな人が、なぁ」
「な、何年前の話をしている!昔の話だろう!」
めっちゃ顔赤いんだけど、可愛い
「えぇっと、付き合ってると言っていいのか。とりあえずモカは、俺が幸せにするって約束してるんで。って、こんなこと言うの恥ずかしいっすね」
そう言うと、モカの顔がさらに赤くなっていた
「タクミも!真面目に返さなくていいじゃないか!」
「え、いやでも約束だしね」
「そうだがっ!」
「そうかぁ、師匠にもついに男が」
泣きそうなバルトさん。え、そんなにアレだったの?
「バルトさん。人質の時モカの昔の話、聞かせてください!」
「任せろ!」
「やめんか貴様らぁ!」