危機一髪
ユーリと熊型のモンスターとの距離がモンスターの攻撃範囲に入る前にユーリが動いた。
姿勢を低くし、自ら熊型のモンスターの元へと踏み込む。
モンスターは少し意表を突かれた感じになったのか、少し戸惑ったように見えたがすぐに体勢を整え両手で攻撃を繰り出す。
「危ない!!」
俺は咄嗟に叫んだが、ユーリは低い姿勢から跳躍しその攻撃を躱すと同時にショートダガーで熊型のモンスターの肩辺りを切りつける。
ダメージはさほど与えていないが、熊型モンスターは目の前で素早く動くユーリを鬱陶しく思ったのか、標的をユーリに変えた。
後ろからバトルアックスの男が加勢するがユーリを狙っていたかと思ったら急に標的を変え不意をついた一撃で男は吹き飛ばされる。
そして続いて右、左とユーリに向かって熊型モンスターは攻撃を繰り出すが、ユーリはショートダガー使いである利点のスピードを生かしてそれを躱してはショートダガーで切り付ける。
しかし、熊型のモンスターは格上だ。パワーもさることながらスピードもある。
今はユーリの集中力が持っているけどずっとこれが続くとは限らない。
早く……早く動くんだ俺の身体っ!!
俺が痛む身体を無理矢理動かし立ち上がった時、ついに熊型のモンスターの攻撃がユーリを捉える。
「きゃあ!!」
「ユーリィィィイイイイッ!!!」
俺は軋む身体を無理矢理活動させ、ユーリの元へと向かう。
「大丈夫かユーリ!!」
「だ、だいじょう……ぶ。ちょ……っと油断し……ちゃった」
「喋らなくていい!! 早くポーションを!!」
ユーリのHPゲージは大幅に削られレッドゾーンまで入っている。俺はすぐさまコマンドを操作しアイテムBOXからポーションを二つ取り出し一つを「さあ早く飲んで」と言ってユーリの口に当て飲ます。そして取り出したもう一つを自分で飲む。
「グォォォオオオオオ!!」
そうしている内に背後から熊型のモンスターの咆哮が聞こえる。
ユーリは先ほどの痛みの衝撃と熊型のモンスターの咆哮よって、一時的に身体を硬直させ完全に動けなくなってしまった。
でも、ポーションによってHPゲージは回復している。
よし、とりあえずは大丈夫そうだ。
「ユーリ、ここで待っててくれ!」
「ハヤト君……」
俺はユーリを木にもたれかかせ熊型のモンスターの方へ向き直る。
熊型のモンスターは俺を認識したのか赤く光る眼で俺を見据える。
「お前の相手は俺だぁぁぁあああああ!!」
俺は声を出して熊型のモンスターへと駆け寄り肉薄する。
そして、一撃に二撃と剣を振るう。
しかし、相手もボス級とはいかないまでも普通のモンスターとは一線を画す強さを持っている為、一筋縄ではいかない。
俺の攻撃の合間をついて反撃してくるしこれだけダメージを与えてもHPゲージはまだあと一本ある。
「うぉぉおおおお!!!!!」
俺は相手の攻撃を躱しながら剣を振るいダメージを与え続ける。
「っ!?」
相手の攻撃を躱したかと思った瞬間にその軌道が変化し上から下へと俺の方へと向かってくる。
俺は咄嗟に剣を盾に足を踏ん張りその衝撃に耐える。
「ぐっ……っ!!」
俺は攻撃に耐えたもののHPゲージが削られオレンジゾーンへと入る。
さらに、熊型のモンスターのパワーが強く手を弾くことが出来ず身動きが取れない。
どうする……このままじゃ……。
俺が思案している最中、熊型のモンスターは反対の手を振り上げた。
くそっ! このままじゃヤバイ!!
その時だった。
俺の左手側から大きな炎球が飛んできて熊型のモンスターを吹き飛ばした。
俺はその炎の玉がとんできた方へ視線を送る。
「はぁ……はぁ……良かった、間に合った……」
そこには肩で息をしながら呟くノアの姿があった。
あの威力……並プレイヤーの威力じゃないぞ? いったい……まぁいい、それより今はあの熊型のモンスターを倒さないと!!
モンスターの方を見るとHPゲージがレッドゾーンにまで削られていた。
そしてフライヤさん達の方も見てみるとあっちの方もあとちょっとというところまでHPゲージを削っていた。
よし、これならいける!
そう思った時だった。