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油断

「ユーリ後ろ!!」

「了解!!」


 ユーリも含め、他のプレイヤーも段々と動きが良くなって連携もスムーズになり、苦戦らしい苦戦もなく俺たちは翌日も順調に森の中を進んでいる。

 出てくるモンスターは狼型が一番多く、他にはウサギ型のモンスター、はたまた蜂といった昆虫型モンスターも出てきたりしたけど、魔法や命中力アップのスキルによって問題なく倒せている。


「やったねハヤト君!」

「まあまあだな! でも油断はするなよ!」

「ぶぅ~もっと褒めてくれてもいいのに……」

「まぁ一撃で倒せるようになったらな」

「そんなのハヤト君とフライヤさん達くらいだよ!」


 フライヤさん率いるギルド『聖なる夜明け』から参加しているプレイヤーは強く、だいたいのプレイヤーが一撃でモンスターを倒している。この辺りのモンスターがそこまで強くないとは言え一撃で倒すのは並みのプレイヤーでは難しい。

 他のプレイヤーの中にも一撃で倒している者もいるけどやはり『聖なる夜明け』プレイヤーが目立っている。

 そんなプレイヤーが多くいるギルド『聖なる夜明け』はそれだけ精鋭ぞろいって事だろう。

 そして、フライヤさんを中心とした『聖なる夜明け』のプレイヤーは前衛として進行方向の前でモンスターの対処をしている。

 また、魔法使い達も優秀で魔法の威力は高い。

 その中でもあのノアは威力が高いように思える。

 正直意外だけど、ここは予想が外れて良かった。

 この調子だと犠牲者も出さずにレイクシティに辿り着けるかもしれない。


「さあ先を急ぐぞ。フライヤさん達が進んでいる」


 俺の言う事にユーリは若干、不満そうな表情を浮かべたが渋々と言った感じで俺についてくる。

 そうしてその後も俺達は歩を進め、森の出口付近までやってきた。


「確かそろそろ森を抜けるはずだけど……あれは……」


 森を出ればもうすぐその先にレイクシティがある。

 俺たちはこのまま森を抜けるはずだったけど、前方でフライヤさん達が止まっている。

 そして、その先に何か影が三つ見える。


「……全員戦闘準備だ!! 第一陣は我々『聖なる夜明け』が受け持つ!」


 フライヤさんはその影を確認すると大声で叫んだ。

 その言葉にプレイヤー全員に緊張が走る。

 本来レイクシティの近くにある森には特別なモンスターはいなかった。

 でも明らかにあれは違う!


「そんな……うそ……あんな大きな熊型モンスターなんて見た事ない……」


 俺たちの行く先を防ぐように立ちはだかる影……その姿が確認できる距離になると、分かったのは大きな熊型のモンスターと言う事だ。

 熊型のモンスターはバージョンアップ前にも何種類か出てきたことはあるけど、目の前に立ちはだかるのは見た事ない大きさだった。

 本来ならいるはずのないモンスター。

 それが三体。


 あの悪夢の日以降、マップにも変化があったからモンスターも変わっていても不思議はない。

 でも、よりによってこんな時に……。


「グォォオオオオオオオ!!!!!」


 向こうも俺達も確認したのか咆哮を上げ戦闘態勢に入る。

 その声は自分より弱いプレイヤーを一時的に委縮させる効果があるのか、ユーリを含めたレベルの十分ではないプレイヤーは身動きが取れなくなっている。

 くそ、このモンスターはやはり並ではないのか!?


 そして、現れたHPゲージは三本。

 迷宮やイベントやクエストのボスと言ったモンスターはHPゲージが五~十本くらいあったりする。

 それが三本。

 ボス級までとはいかないまでも、普通のモンスターとは一線を画す強さを持っているはずだ。

 それを三体同時に相手しなければならないなんて……こっちのプレイヤーの半数近くはまだレベルが十分とは言えないってのに。


「魔法準備!! 詠唱に入れ!! まずは、我々『聖なる夜明け』があのモンスターを引き留める!! レベルが低いプレイヤーは魔法使い達の周りで護衛を! こいつらはボス級ではない! だからエリアは封鎖されていないはずだ! 周囲から違うモンスターが現れる可能性もある! 警戒するように! レベルの高いプレイヤーは我々の後ろに待機! 頃合いを見て援護してくれ!!」


 フライヤさんはそう叫ぶと『聖なる夜明け』のメンバーを引き連れ、熊型モンスターに向かって突撃を開始する。

 対する熊型モンスターも臨戦態勢に入って二本足で立ちフライヤさん達を迎え撃つ。


「ユーリ!! 大丈夫か!?」

「え、えぇ、動けるようにはなったわ」

「よし! じゃあ俺はフライヤさん達の援護へ向かう! ユーリは魔法使い達を!」

「分かった! ハヤト君、気を付けて!!」


 ユーリの言葉に頷いた俺はフライヤさん達の元へ向かう。

 もう誰も死なせない!


「くっ!」


 俺の目に熊型のモンスターにバトルアックスを止められたプレイヤーが苦悶の表情を浮かべているのが映る。

 どうやら、熊型のモンスターの力が強くバトルアックスを掴まれ身動きが取れないようだ。そうしている内に、熊型のモンスターはバトルアックスを持っている右手と反対の左手をかざし爪で攻撃しようとしている。


「させるか!!」

 

 俺はスピードを上げ、熊型モンスターの懐へ潜り込むとその左手めがけて剣を振るう。

 『グォォォオオオ!』という叫びと共にHPゲージが削られる。

 そして、俺の攻撃を受けた熊型のモンスターは自分を傷つけた者を確認するように俺の方を向く。


「すまない! 助かった!」

「礼はいい! それよりこいつを倒すぞ!」


 俺が叫ぶと同時に熊型のモンスターは俺に向けて右手で払うように攻撃してくる。俺はそれをバックステップで躱し距離を取ると、自分の攻撃が当たらなかった熊型のモンスターは俺に向けて突っ込んでくる。


「こっちも忘れんなよ!!」


 さっきのバトルアックスの男が背後から熊型のモンスターに一撃を入れる。

俺を狙おうとしたところを、無防備な背後から一撃をもらった熊型のモンスターは、その衝撃を受け前のめりに倒れHPゲージが減っていく。


「今だ!!」


 俺の言葉に呼応するように男はバトルアックスを振い、俺も距離を詰め熊型モンスターに剣を振るう。

 熊型のモンスターはこいつを含めて三体。

 でも、こいつらはボス級でない為、エリアは封鎖されていない。

 もし、こいつらの他にも同じ強さのモンスターがいるとしたらユーリ達に危険が及ぶ。

 早く……早く倒さないと!!


「危ない!!」

「っ!?」


 脳裏に浮かぶユーリの姿に意識がいっていた俺は攻撃に集中するあまり、熊型のモンスターの反撃動作を見落としていた。


 ヤバイ! このままだと直撃する!?


 熊型のモンスターは俺達の攻撃にダメージを受けながらも倒れたまま右手を振りかざす。

躱せないと判断した俺は剣を盾にしてガードの体勢を取る。


「グハッ!!」


 剣を盾にしてもその威力は防げず、身体に衝撃で痛みが走り、さらに俺は吹き飛ばされ背中から木にぶつかる。

 そして、その衝撃で俺のHPゲージは削られ半分を切りオレンジゾーンへと入る。

 くそっ、想像はしていたけど思ったよりパワーがある。もしかしたらHPゲージが減る事で何かしらのスキルが発動したのかもしれないがこのパワーは危険だ。


 俺はすぐさま立ち上がろうとするが、さっきのダメージで体が言う事を効かない。

 これがバーチャル・ドライブが次世代型ゲーム機と言われる所以だ。

 五感で感じることが出来る為、ダメージを受ければ受けるほど脳に信号が送られ身体が動かしにくくなる。

 これはあの悪夢の日以降よりリアルに感じるようになった。


「おい、こっちに来やがれ!!」


 バトルアックスの男が熊型のモンスターに攻撃するが、モンスターはそれを払いのけ俺の方へと向かってくる。

 俺の方がねらい目だと思ったのだろう。

 動け……動くんだ!


 俺は身体を動かさそうとするが、まだ体が言う事をきかない。

 そうしている間にも熊型のモンスターは俺の方へと近づいてくる。


「ハヤト君!!」


 俺の異変に気付いたフライヤさんが叫ぶが、フライヤさんも熊型のモンスターと戦っていて余裕がないようだ。

 他のプレイヤーもダメージを受けていて思うように動けない者、熊型のモンスターと交戦している者でこちらへ来れそうにない。

 魔法使い達は俺の方とは違うところに一緒にいる二体の方を中心に援護していて、こちらのモンスターに放たれる魔法は少なく、熊型のモンスターの意識はそちらに向かなかった。


 俺はこんなところで死ぬのか……?


「ハヤト君!!」


 俺が一瞬死を意識した瞬間、目の前に人影が飛び込んでくる。

 それは見慣れたプレイヤー……ユーリだった。


「ユーリ!! 危ない!! 下がれ!!」


 俺は叫ぶがユーリは俺を見て微笑んだ後、俺と熊型モンスターとの間に入りショートダガーを構える。

 ダメだ!! ユーリの力じゃあいつを抑えられない!!


「ユーリっ!!」


 熊型のモンスターとユーリの距離が近づいていく。

 やめてくれ……俺はまた……。


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