侵入
「「「「っ!?」」」」
まるで興味のないように、呟くクライドの言葉に俺達四人は驚きを隠せない。
特にサラは奥歯を噛みしめ、今にも飛び込んでいきそうな様子だけど、今はまだ様子を見るべきだと思い堪えているようだ。
ラウルも同じく、人の命を軽く見ているクライドに怒りを覚えたのか、奥歯を噛みしめ堪えていて、ノアは信じられないといった様子で口に手を当て驚いている。
俺もクライドの命を軽く見ている言葉に怒りを覚え、脳裏にレイクシティに着く前に漆黒の執行者が襲撃してきた時の事が浮かび、怒りが感情を支配する。
落ち着け……落ち着くんだ俺……!
「えっ!? 殺すんですか!? でも、リーダーは生かしとけって……」
「それはサラがいたからだろ? あいつは弟の為ならなんでもするからな。……でも、サラの奴はもういねぇ。だったら用なしだ」
そう言ってクライドは男に弟を殺すように指示を出す。
くっ……どうする? このままじゃ……。
「待てクライド!!」
すると、サラがこのままだとマズイと思ったのか、出て行ってしまった。
確かにこのままではまずかっただろうけど……。
俺はどうしようか迷ったけど、少し様子を見る事にした。
でも、何があってもすぐに動けるように警戒し、ノアとラウルにも何かあったらすぐに動けるように言った。
「……サラか」
男と話していたクライドはサラの声を聞き、少し不機嫌そうにサラの方を向く。
「そうだ、私はこうやって任務を終えて戻って来たってのに、なんだか聞き捨てならない事言ってるじゃないか」
「冗談だ、冗談。まぁおまえがそう簡単に死ぬはずはないか」
「当たり前だ。私はカナタが生きている間は死ねない」
「そらご苦労なこった。まぁ、おまえと弟君は運命共同体だからな。そう、簡単に死ねないよな。でも、本当に弟の事が好きな奴だな。もしかして、弟とできてるのか?」
そう言ってクライドは一人で笑う。
サラは悔しそうにその顔を見ながらも何も言わない。
今は耐える時だと思ったのだろう。
ノアとラウルもクライドの態度に怒りを覚えている様子だし、俺も聞いてても腹が立つ。サラならもっと腹が立つだろうに……。
「それでサラ、その凄く強いっていう奴が持ってた武器とアイテムは?」
笑っていたクライドは真剣な表情に戻るとサラに聞く。
そして、サラはというと突然のクライドの言葉に一瞬戸困惑した表情を浮かべる。
サラは弟が殺されるかもしれないと思って飛び出しただけで、俺たちは本来、意表を突く形でノアの魔法で襲撃し俺がおとりになっている間にサラが弟を探して救出する、もしくは、バレずに弟を救えそうだったらそうするつもりだった。
だから、クライドと言葉を交わすことなんて予定になかったし受け答えの事なんて考えていないだろう。
「……」
「……どうした?」
クライドが少し怪しむような感じでサラを見据える。
やばいぞ、ここで戦闘か……?
「……置いてきた」
「はぁ? 置いて来ただ?」
「そうだ、置いて来た」
「おいおい! なんで回収しねぇんだよ? ……裏切りか?」
そう言ってクライドはサラを見据える。
「どっちが裏切りだ。私はあいつを倒すのに時間がかかった。それでおまえが私が死んだと勘違いしてカナタをどうにかしないか心配になってそれどころじゃなかったのさ。そして急いで戻ってきたらこの始末さ。ほしけりゃ自分で取ってこい。まぁ急がないとあいつらが取り逃がした奴が他の仲間を呼んでくるかもしれないけどな」
そう言って顎でクライドの横にいるプレイヤーを示す。
サラはあたかも本当のように話すけど、実際は違う。
サラも苦しい言い訳だと思って言っているのだろう、さっき組んだ腕に力が入っているのが分かる。
「……ちっ、仕方ねぇ。おまえに取ってこいと言いたいところだけど、確かに今の俺の行動を見てたら行かないか……俺が行ってくる。おまえはリーダーが来るまで見張ってろ」
クライドがそう言うと、さっきまでクライドと言い合っていたプレイヤーは胸を撫で下ろし安堵の表情を浮かべる。
そして、クライドは俺たちのいる方とは違う方から、さっき俺とサラが戦っていた場所へと向かって行った。
「サラさん生きてたんすね! 良かったすよ! さっきまでクライドさんが俺たちをほって、あの男と戦いに行くって言って聞かなかったんですから。でも、あの男を倒すなんてさすがサラさんっすね!」
クライドが見えなくなるまで見送っていた二人だが、クライドが見えなくなると男が口を開いた。
男はそう言ってサラに話しかけるが、サラは無表情のまま聞いている。
「サラさん……?」
「……すまない」
「えっ?」
男がサラを不思議に思い、覗き込んだところへサラは「すまない」と言って鳩尾へ拳を叩き込む。鳩尾に衝撃を受け蹲っている男にサラは剣を振りかざした。
「ぐっ……サラさん、何を……」
「死にたくなかったら大人しくしろ」
サラはそう言いながら剣先を男に突きつけ、俺たちの方を見て手招きする。
その様子を見ていた俺とノア、ラウルの三人はすぐに駆けつけ、ウインドウを開き、コマンド操作して、アイテムボックスからPKプレイヤーを捕縛する為にと、フライヤさん達が駆け付ける時に用意していた縄を具現化させる。
この縄は特殊な素材で出来ている為、縛られると縛られた者はいくら力で破ろうとしても出来ないようになっているらしい。フライヤさんに曰く、レイクシティにPKプレイヤーに襲われた時、そして俺から懺悔の涙で漆黒の執行者に出会った話を聞いていつかこういった事があるかもしれないと思っていたようだ。
PKプレイヤーと言えど、同じ人間だ。無抵抗ならば殺す事は好ましくないだろうし、もし殺さずに捕縛できるならって思って用意していたらしい。
「さぁカナタがる場所へ案内しろ」サラが男に案内するようにそう言うが、男は知らぬ顔をした。その様子を見たサラは剣先を眉間に突き付け「道案内するか今死ぬかどっちがいい?」というと男は首を左右に振り「なら案内しろ」とサラが言うと首を縦に振り、歩き出した。
一連のサラの行動を見ていると今のサラにとってカナタの存在がどんなに大きなものかが分かる。今のサラはカナタの為ならなんだってするだろう。俺がユーリを失ってから自暴自棄になっていた時に懺悔の涙の話を聞いた時に似ている。もしこれでカナタが死んだりしたらサラは壊れてしまうだろう。
だから、絶対カナタを救わないといけない。
それにユーリとも犠牲者を減らすように約束したしな。
「行こう」
そう言うとノアとラウルも頷き、俺たちは洞窟の奥へと進んでいった。
洞窟は一本道で、所々にアイテムによって照明があり、視界は確保されていた。
そして、しばらく進むと大きな空間があり、そこに漆黒の執行者のプレイヤーが三十名程いた。その数は多かったけど、サラ曰く、ここにいるプレイヤーはレベルが平均より低い為、襲撃する際は三人~五人で組んで襲撃するそうだ。それも、まずはサラが一人で姿を現し、油断したところで、サラがおおかたのプレイヤーを瀕死直前まで追い込む。そして、相手が慌てたところで襲撃させていたようだ。
だから、ここにいるプレイヤーに手強い奴はいないし、俺たちだけでも十分制圧可能だと言っていた。
そこで、俺たちはラウルに後方の確認を頼み、ノアの魔法によってパニックになったところへ、俺とサラが突っ込み、PKプレイヤーを制圧するという手はずでいく事にした。
「サラ、カナタはどこにいる?」
俺はサラにカナタがどこにいるか聞く。
カナタの場所と顔を分かっていないと戦闘中に何かあっても対応できない。
すると、サラは目を細め見渡し、カナタを探した。
「あそこだ」
サラが指差すのは洞窟の一番奥、他のプレイヤーと離れたところにいる縄で縛られている黒髪で色白の男の子がいた。




