カナタ救出戦
「あんな事するなんて……」
隣でノアが呟く。
サラが年の離れた弟って言ってたけど、おそらくは中学一年か下手したら小学生かもしれない。まだ、顔にあどけなさが残る男の子が縄で縛られていて身動き取れないようにされている。
そして、その周りにいるプレイヤーは俺と同じくらいの年齢かそれ以上だ。
そんな、大人や大人に近いようなプレイヤー達があんな子をこんな風に扱うなんて……狂ってる。
「カナタは漆黒の執行者に捕えられてから、クライドやリーダーが不在時はああやって身動き取れないようにされるんだ。もちろん、私がいる間はそのどちらかが必ずいる」
サラは「助けたくても助けられない自分に腹が立っていた」と言って、奥歯を噛みしめる。
そうだろうな。
目の前で弟があんな風にされているのに、何もできないもどかしさ……サラも相当悔しい思いをしてきただろう。
「ハヤト君、あんな風に縛られているのは痛いだろうし可哀そうです。早く助けてあげましょう」
隣でノアが言うのに合わせて、ラウルも頷いている。
その言葉にサラは驚いた表情を浮かべた。
おそらく、PKの手伝いをしていた自分の弟に、そこまで思ってくれるなんて思わなかったのだろう。
「サラ、行くぞ。準備しろ」
「あ、あぁ、分かっている」
そう言ってサラはティルフィングの柄を持ち、その手に力を入れた。
その様子を見て、俺もエアリアルの柄を持つ手に力を入れる。
それと同様にラウルもバトルアックスを構え、後方を見ながらこちらの様子を伺い、道案内させた男を見張る。
そして、一連の準備が整うとノアは詠唱を始めた。
「――……ファイヤーウォール!」
ノアが詠唱を行うと、中にいたPKプレイヤーを取り囲むように炎の壁が出現する。
「な、なんだ!?」
「何が起こっている!?」
「敵か!?」
「クライドさんはどうしたんだ!? まだ戻ってこないのか!?」
そう言った感じで、中はパニック状態に陥っている。
今がチャンスだ!
「サラ! 行くぞ!」
俺の言葉に無言で頷くと同時に、サラは駆け出した。
そのスピードはスキルを使っていなくても十分速く、サラの能力の高さを示している。
俺はそのサラに続いて、空間へと駆ける。
「なんだ!?」
「やっぱり敵か!! 向かい討て!」
「で、でも、クライドさんやサラさんがいないのに……」
「このままだと死ぬぞ!!」
『ここままだと死ぬ』という言葉に反応して、何人かのプレイヤーはノアの作り出した炎の壁から飛び出してくる。
ちっ……おとなしくそのままにしてくれていたら良かったのに。
しかし、ノアの魔法、ファイヤーウォールは一種の包囲魔法の為、直接触れなければダメージを受けないが、それに触れるとダメージを受ける。ファイヤーウォールは強力な為、飛び出してきたプレイヤーは、その炎の壁を破るのにHPが三分の一程、削られている。
最初にノアにこの魔法が使えると聞いた時はびっくりしたのと同時に、やはりノアは並のプレイヤーではない事を認識した。
俺とサラはノアの作り出した炎の壁とでも表現すべきところから飛び出してきたプレイヤーを吹き飛ばしながら突き進む。
残っているプレイヤーはそうレベルが高くないため、俺とサラの動きについてこれず、俺たちの攻撃をよける事も出来ず、攻撃を受けた衝撃で動きが止まり、さらにそこへノアが再度、ファイヤーウォールで壁を作る。
俺とサラは出来るだけプレイヤーを殺さないように気は使っていたけど、それを確認している余裕はなかった。
そして、混乱ひしめく中を、俺とサラは奥へ、カナタの元へと進む。
「サラ姉ちゃん!」
「カナタ!」
俺が炎の壁から出てきたプレイヤーに対応していると、サラがカナタの元へとたどり着いたみたいで声が聞こえてきた。
そして、その方を見ると、カナタは空間の一番奥で縛られいていた為、見た感じは傷はなく、無事に助ける事が出来たようだ。
中にいたプレイヤーは途中でサラに気づいたみたいだけど、パニックになっていたのと、ノアの魔法によってカナタを人質にする事まで考えが回らなかったのか、したくても出来なかったようだ。
サラはカナタへと駆け寄ると、急いで縄を解いて、カナタを抱きしめた。
「サラ姉ちゃん……」
「カナタ……」
二人は嬉しそうに抱き合い涙している。
……二人とも良かったな。
でも……。
「サラ、カナタ!! クライドやリーダーという奴がいつ戻ってくるか分からない! ここは危険だ! 早く離脱するぞ!!」
俺の言葉にサラはハッと我に戻ってカナタの肩を両手で引き離し、目を見た。
「カナタ逃げよう!」
「でも逃げたら……」
「大丈夫! この男は私よりも強い! だからきっと逃げられる!」
サラがそう言って俺の事をカナタに言うと、ナタはビックリしたような顔をしたけど「サラ姉ちゃんより強いなんて……でも、サラ姉ちゃんが嘘つく訳ないもんね」と言って俺の方を見た。
「助けてくれてありがとうございました!」
そう言ってカナタは俺に頭を下げる。
礼儀正しい子だな。
「礼はここを抜けてからでいい! 早く逃げるぞ!」
本当は漆黒の執行者を全員捕えて壊滅させたいけど、今はそんな余裕もないし俺たちだけじゃ難しい。
外ではフライヤさん達が待機しているけど、クライドやリーダーと呼ばれているあの黒いローブの男がいつ戻ってくるか分からない。
俺の言葉にサラとカナタは目を合わせ頷くと、すぐさま出口の方へと駆けだす。
その姿を見た俺は、炎の壁から出てくるプレイヤーに対応しながら叫ぶ。
「聞け! この外には俺たちの仲間が待機している! お前たちにもう逃げ場はない! おとなしくしていたら命を奪う事はない! だからじっとしていろ!」
俺がそう叫ぶと、炎の壁の中で動揺が走る。
「そんなバカな……クライドさんやリーダーは……?」
「まさかやられたのか……?」
「いや、そんななに簡単にやれる訳ないだろ!!」
「だったらなんでここが襲撃されているんだ?」
「それは……」
俺の言葉を確かめるすべもない為、口々に中で言い合いをしている。
実際、俺の言っている事は半分は正解で半分は違う。
フライヤさん達が待機してはいるけど、それは俺たち……サラを見張る為だ。
一応、PKプレイヤーほ捕縛したら連行するのは手伝ってくれる手筈になっているけど、それは俺が報告してからだ。
クライドやリーダーと呼ばれる黒いローブの男がいつ戻ってくるか分からない以上、後でこいつらを連行するにはリスクが伴うし難しいだろう。
今こうやって混乱して、俺たちが脱出する時間が少しでも稼ぐことが出来たらそれでいい。
「良く聞け! 次に炎の壁から飛び出してきたら瞬時に殺す! 俺たちはお前たちを捕まえる為に来たけど、これ以上刃向うなら容赦しない!!」
さらに追い打ちをかけるような俺の言葉に動揺が広がる。
それは、しばらく様子をみて炎の壁からプレイヤーが出て来そうにないのを確認すると、目でサラとカナタ、そしてノアとラウルに合図すると、みんなが頷き俺達はその場を後にした。
あとは、このまま街まで帰るだけだ。
クライドや黒いローブの男が戻ってくる前に……。
「もうすぐだ! 急げ!!」
戦闘を行く俺は、出口の光を確認するとみんなに叫ぶ。
もう少しだ、もう少しで抜けられる
そして、俺は光の差すところへ飛び出す。
「よし! 後は街に――っ!?」
俺がみんなに言葉をかけようとしたところで、殺気を感じ後方へ飛ぶ。
「なかなかやるようだな!」
俺の視界に映るのは、進路を阻むように少し長めの髪で茶髪の黒い鎧を着た男……忘れる訳がない、あの男だ。
「クライド……」
更新遅くなり申し訳ありません!
次回更新予定は8月1日(月)です!




