身体 -1-
つぎはぎのカラダ
――呪いの象徴
++++++
「……」
「……」
「……ど、どこからつっこんでいいかわかんねぇ……!」
セイジはひとまず、ビデオカメラの電源を切った。それから黙りこくっている2人の様子をうかがう。
「今のは、『5つの間』ができる前のサーカス団……だよな?」
「はい……10年前の光景です。間違いありません」
先に復帰したのはサトルで、カナはまだ呆然としている。セイジはカナの肩を揺すった。
「カナ、そろそろ戻ってこい。……お前やっぱり札のこと知ってたんじゃないか。どーりで札の話が出ると変な顔するはずだよな」
「あ……だ、だって、実物見たわけじゃなかったし……」
「とにかく札がどういうものかってことはわかったな。にしても……このビデオ撮ったのって誰だ? “A”か?」
もう1度観ようという気にはなれず、ビデオカメラを床に置く。
「なんかすっげー、複雑な気分だ……」
「あの猫覚えてる……なんか変だなとは思ったんだ。鳴かないし、体硬いし」
「『猛獣の間』で見た黒猫に、ちょっと似てなかったか。あれもロボット……?」
「そういった考察はまた後にしましょう」
サトルが遮って、カナを見た。
「何か他に思い出せることはありませんか。ユエがあの札を今も持っているのか、それともどこかに隠したのか。それによって私達のとるべき行動は変わります」
「そんなの……わからないよ。あの後くらいから、ユエとはあんまり会わなくなったんだ……」
カナは床に視線を落とした。
つかの間あって。不意に、セイジは勢いよく立ち上がった。
「思い出した――『玩具の間』に入る前、俺ホームページに書き込みしてたんだ。札のこと知ってる奴いるかって」
言いながらもう歩き出しているセイジに、サトルが声をかける。
「どこに行くのですか」
「悩んでる間に動こうぜ。とりあえず、もう1度リアラのとこに行ってパソコン見せてもらおう。ビデオはもう少し借りててもいいかな。……あ、そういやヨシタカにたのまれてた人形のこともあった」
「ちょっと……セイジ」
「ほら行くぞ。時間もったいねーよ」
まずサトルが、続いて釈然としない顔のカナが、セイジの後を追った。
『左腕』通路に出る。と。
そこには故障したはずのララがいて、セイジ達を待ちかまえていた。
「ララ? お前もう治ったのか?」
「リアラが呼んでる。セイジのこと呼んでるよ♪」
すっかり元気になったようで、ララはセイジ達のまわりをぐるぐると2周した。それからぴたりと立ち止まり、サトルの正面で首を仰向ける。
「……リアラ、いじめるな!」
「!」
「あーあ。嫌われたな、サトル。リアラに無理言ったりするから」
セイジが言うと、サトルは思案するように口元を隠した。
「おかしいですね、ララにこんなプログラムは入れてないはずなんですが……」
「それだけリアラのことが好きなんだろ」
「ですが……」
ララがつんと横を向いた。と思うや、セイジにとりついて手を引っぱった。
「早く。セイジ。リアラ、今だけ仕掛け止めてる」
「え?」
導かれるまま『ひとさし指』の扉を開くと、そこはただ淡い黄色の壁に囲まれた空間だった。正面には、それこそおもちゃのようなかわいらしい小屋が建っている。
サトルがいぶかしげに目を細めた。
「リアラが自分からこの仕掛けを解いたのは初めてです。何か急ぎの件でしょうか……」
それを聞いたセイジは、足を速めた。
「――リアラ、どうした!?」
「あ……セイジさん」
奥の部屋で、リアラはパソコンの前に座っていた。変わった様子はないが、少し困った顔をしていた。
「何かあったのか」
「ごめんなさい、呼びつけちゃって。……どうしてか分からないんだけど、私のパソコンにセイジさん宛のメールが届いたの……」
サトルとカナも追いついてきた。リアラがもう1度同じ説明をし、セイジとサトルが揃ってパソコン画面をのぞいた。
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From:くま
To:セイジ
約束の人物がもう来てる
君も早くおいでよ
ウヒヒッ☆
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「……………」
「私のメールアドレス、どうして知ってるのかな。なんだかちょっと怖くて……」
「いや、うん。俺、こいつ知ってると思う……」
不安そうなリアラに、セイジは引きつった笑みを向けた。
「心配すんな。あんたに害はないはずだ」
「……変態人形遣い?」
後ろでカナが激しく嫌そうな声をもらした。セイジ達の妙な空気に、リアラは一層戸惑った風だった。
「あ、あの……?」
「ほんと気にしないでくれ……変なヤツだけど、悪いヤツじゃない、はず――」
言いかけたところで、セイジは気づいた。
「って、え? ……『くま』!?」




