人形 -1-
にんぎょうがいれば ぼくはいらない
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時は少しばかり遡る。
セイジとカナが、ヨシタカの部屋を訪ねていった頃――
アオイはモニター室を出てからずっと、館内をさまよい歩いていた。セイジ達から1度完全に目を離してしまったため、彼らが今までに巡った道筋をたどり直して捜している。
その間に何人もの団員とすれ違った。大抵の者はあさっての方を見て足早に去った。たまに目が合った者がいれば、悲鳴を上げて逃げていく。アオイはそれらを淡々と眺め続けた。
順番では、次は『獣調練場』だ。立ち入ったことなど数えるほどしかないが、危険な場所ということはよく知っている。大鎌を持ち直し、ゆっくりと、扉を開く。
同時に、獣達がざわりと殺気を放った。
「ん? ……ああ、アオイか」
一番手前の檻の中で、ライオンと一緒にコウがこちらを見ていた。
「何をしている」
「いや、猛獣士志望だって奴がいたんでエサやり頼んでおいたんですケド、目を離した隙にいなくなっちゃいまして。逃げたんだか骨も残さず食べられたんだか……さて、どっちでしょうネ」
コウはどうでも良さそうに笑ってから、落ち着かせるように、唸り声を上げるライオンの首を抱いた。
「で、そっちこそ何か用デスカ?早いとこドウゾ……お前に染みついてる死臭のせいで、こいつら大興奮デスヨ」
「……人形を捜している」
「人形?」
「リストNo,44『セイジ』が抱いていた、アンティークという人形だ」
コウはぴんとこない様子だった。セイジにもアンティークにもすでに会っているはずだが、この分ではもう忘れているのだろう。
「ここにもいないようだな」
「僕に聞かれても困りマスヨ。それくらい分かるデショ? それにしても……自分でものを考えられない『人形』に探し物をさせるとは。ユエさんも相変わらず、意地が悪――おわっ!?」
鎌を檻の中に突き入れた。手加減はしなかったつもりだが、コウは大げさな悲鳴にそぐわぬ的確さで刃の頭を押さえた。
「ユエを侮辱することは許さない」
「あーびっくりした……お前も相変わらずみたいデスネ」
「『アオイ』のことはまだ覚えているのだな」
アオイは鎌を引き抜いた。
「……コウ。お前は今、どれだけ『とられた』?」
問えば、コウはふいと横を向いた。
「そんなことはユエさんに聞いてクダサイ」
「お前が軽視している事からとっているはず。しょっちゅう自分の名前を忘れるお前は、よっぽど自分がどうでもいいのか……」
「好きじゃないんデスヨ、ユエさんにつけられたこの名前」
「……」
「とにかく、探し物なら他を当たってクダサイ。……ああそうそう、『右腕』の奥の部屋に、あやしげな人形遣いがいるらしいデスヨ。人形のことには詳しいんじゃないデスカ? 少なくとも僕よりはね」
「そうか」
アオイはコウに背を向けた。
――が、もう1つだけ、確認しておく気になった。
「あの“約束”は……まだ覚えているのか」
返事がなかった。首だけ回して見やると、コウはなんともいえず渋い顔をしていた。
「本当にどいつもこいつも……『覚えてるか』とか『忘れるな』とか……!」
「答えろ」
「ハイハイ。忘れてませんヨ。……まだね」
コウが投げやりに言い捨てた。アオイは、うなずいた。
「お前を殺せるのは『アオイ』だけ」
「お前を殺せるのも僕だけデスヨ。……そんじゃ、さっさと出てってクダサイ。こいつらをこれ以上興奮させると後が面倒なんで」
アオイは今度こそ、調練場を後にした。
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