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・ PIERROT ・  作者: 高砂イサミ
第13章
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玩具の少女 -4-


「……様子がおかしい」

「おい、どうした?ララ?」

「……」

 笑い声さえ止んだ。カナが嫌な目つきでセイジを見上げてきた。

「あんたがこんなちいさなコ相手に本気になるから……」

「え、俺のせい!? おいララ!! どうした!?」

 開いたままのララの目の前で、手を振ってみる。そこでセイジは恐ろしいことに気がついた。

「い、息……してないぞ……?」

 さすがにカナも青ざめた。

「幼女虐待」

「お、お前もだろ!? ど、どーすりゃいいんだ……!」

「とにかく寝かせる?」

「そうだな!」

 セイジとカナは、同時に、ララに触れた。


   ――私が5つの間に選ばれた! ……信じられない。

   今まで訓練サボってばかりだったけど、これからはがんばろう!


   空中ブランコのフライヤーが足りないみたい。

   ビッグさんに、やってみないかと誘われた。

   私にできるかなぁ? 明日……やってみよう。


「これはララの……想念か……?」

「……本当にこの子の?」


   ――体中が痛い。全然動かない。

   そうだ、誰かにブランコから突き落とされたんだ。

   私の身体、どうなっちゃったの?


   ――噂話を聞いた。

   私は実力もないのに5つの間に選ばれたから突き落とされたんだって。

   誰か……助けて……



       ――あんた、数合わせなの わからなかった……?――



「…………数合わせだ……!?」

 セイジは本気の怒りをあらわにした。カナはわずかに身を竦ませながらも、セイジの袖を引っぱった。

「今はそれどころじゃない。この子、なんとかしないと」

「わかってる……!」


「――ララ?」


 不意に、違う声が割り込んだ。2人はぱっと振り返った。

 ここが最後の部屋かと思っていたのだが、まだ奥があったようだ。隅の方に、壁とほとんど同じ色のドアがあり、そこから少女の顔が半分だけのぞいていた。

「お前……誰だ?」

「……あ! 思い出した、あんたが『玩具の間』の!」

 カナが声を上げ、金髪の少女はにこりと微笑んだ。

「はい、リアラです。嬉しい、カナさん知っててくれたんだ」

「ん? “リアラ”ってどっかで……っていや、そんなことより!」

 セイジはララを抱き上げた。

「ララが動かないんだ! なんか、息もしてなくて……お、俺らのせいかも……!」

「まあ」

 リアラがこちらの部屋へ入ってきた。カクカクとした妙に不自然な動きだ。しかもよく見れば、その顔の半分は、鉄の仮面のようなもので覆われている。

 まるで彼女自身が“玩具”のようだった。

「……ああ、水をかぶったの? それでショートしちゃったのね」

 ララを近くで見るなり、リアラが言った。セイジは大きく目を見開いた。

「へ?」

「心配しなくていいです。修理しておくから。これくらいならよくあることです」

「しゅ、修理?」

「ララは人間じゃなくてロボットなの。驚かせてごめんなさい」

「ロボット!?」

「私ちょっと身体が悪くて、あまり動けないの。だから私の代わりにララに案内をお願いしたんだけど……ごめんなさい……」

 リアラが、心の底から申し訳なさそうに小さくなった。カナやセイレーンほどに気は強くないようだった。

 それはともかく。セイジは「案内」の一言が引っかかり、問い返した。

「俺達が来ること、わかってたのか?」

「ええ、だってずっと応援してきたんだもの」

「ずっと?」

「私は動けないから助言くらいしかできなかったけど、力になりたかったの……」

「助言……?」

 首をひねったセイジは、ふと思い当たり、思わずリアラを指さした。

「まさかお前――『R』か!? 掲示板で情報くれてた『R』だろ!?」

 するとリアラは、嬉しそうに笑った。

「私でも、少しは役にたてたかな?」

「少しなんてもんじゃないさ、俺がどんだけ心強かったか……」

「私はわからない。なんでセイジなんかに手を貸すの?」

 カナが腕組みをした。セイジは水を差されてむっとする。

「おい、どういう意味だそれは」

「『5つの間』の5人はユエに近い位置にいる。ユエ側の人間といっていい。そんな奴がセイジに手を貸しても、なんのメリットもない」

「……ユエ様は、私がすることなんて気にも留めないから」

 リアラは悲しそうにうつむいた。

「私は……おまけみたいなものだもの……」

「お、おいおい」

「だけどそれだけじゃない。セイジさんに手を貸したのは、恩返しがしたかったから」

 それだけはきっぱりと言い切ったリアラに、セイジは自分を指さした。

「恩返し? 俺なんかしたか?」

 リアラはふるふるとかぶりを振った。

「セイジさんじゃなくてサトちゃんに……」

「サトちゃん?」

「ごめんなさいセイジさん。ユエ様のこと、私からは何も言えないの。私のことは……そっとしておいてくれないかな?」

 セイジは、頭をかいた。

「まあ……『R』には充分すぎるほど助言してもらったしなぁ……」

「押しが甘い」

 カナがふくらはぎを軽く蹴ってきた。セイジはふり返ってカナのひたいを弾いた。

「やめろっての。……これ以上迷惑かけられないだろ」

「甘いことばっか言って、どうなっても知らないから」

「本当に、本当にごめんなさい……」

 深々と頭を下げてから、リアラはセイジからララの身体を受け取ろうとした。

「あ、いいよ、俺が運ぶ。そっちの部屋でいいのか?」

「!ごめんなさい……ありがとう」

「ったく……」

 リアラが先に立ち、カナもため息混じりについてくる。そして本当に最後の部屋へ、足を踏み入れた瞬間――

 セイジは思わぬものを見つけ、叫んだ。

「それ……ビデオカメラか!?」

 パソコン台にちょこんと鎮座しているハンディカム。

 それはずっと探していた、アナログタイプのものだった。



         ++++++



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