レクイエム -2-
ユエの様子を確認した後、しばしの沈黙を経て、セイレーンがため息をついた。
「話し合うというのは、あれでは確かに無理ね……」
「試しにつついてみたいって気もしますけどネ」
「危険だ。今は比較的落ち着いているが、どんなきっかけでどう変わるか分からない。最悪……その場で戦いになってしまうのではないか?」
コウを諌めたビッグもまた、難しい表情をしていた。
「ありえるわ。あの状態のうちは刺激しない方がいいのかもしれない。――長期戦になりそうね」
「ここで様子見ながら待つんデスカ」
「あの……それなら、1度ここから出てしまってもいいんじゃないかな? セイジさん達にもこのこと、教えてあげた方が……」
リアラがおずおずと提案した。セイレーンが、首を振った。
「それも選択肢のうちだけれど、その後で、もう1度ここに入れる保証がないわ。様子が分からないまま、万一ユエが急な破壊行動をとったら? そうなったら歯が立たないどころじゃない……サーカス団そのものにも一般の団員にも、被害が出かねないわ」
セイレーンは息を継いで、恐縮気味のリアラに苦笑を向けた。
「可能性がゼロではない限り、あらゆる想定をしておかないといけないのよ。分かってくれるわね?」
「は、はい……」
「あ。じゃあこういうのはどうデショウ」
コウが手を挙げ、にっこりと笑んだ。
「僕がここに残りますカラ、みなさんは先に戻ってクダサイ。そんで状況が変わったらお知らせすればいいんデショ? これで万事解決デス」
「……あなたが? 1人で?」
一斉に怪訝な視線が集まった。その中でアオイが口を開く。
「残ってどうするつもりだ」
「どうって……のんびり見張り役に徹しマスヨ。動物の世話は人に頼んできましたし」
「……」
「なんデスカ? なんならその間、ユエさんを慰めときマスカ?」
「コウ。……僕は承諾できない」
アオイは歩み出て、コウの正面に立った。
「僕達がいなくなったら、お前は――1人でユエを殺しにいくつもりだな?」
ざわりと、空気が波立った。
紅い眼が猫のように細められる。軽い口調は変わらないまま、声がわずかに低くなる。
「いやだなあ。誰がそんなこと言いマシタ?」
「お前がユエとの繋がりを早く断ち切りたいことは、分かる。だが無謀だ」
「……そう言うお前は、ユエさんともう1度契約を結び直したいとか思ってないでしょうネ」
「それは……」
「やめるんだ。ここで非難し合っていても仕方がない」
ビッグが間に割って入った。そしてその目が、コウに向けられる。
「ユエは強大な力と不死の身体を持っている。お前ももちろん知っているのだろう。残すのならば、最低2人だ」
「……。やっぱ裏切り者は信用できないってことデスカ?」
つまらなそうにコウが言うと、ビッグは苦笑した。
「そうではない。お前を心配しているんだ。同じ『5つの間』の仲間なのだからな」
「……コウさん……」
リアラにまで気遣うような顔をされて、コウがうっと詰まる。
セイレーンはそれを眺めながら、思案するように、唇に指を当てた。
「でも、結局それしかないのかしら。誰が残るかという問題はあるけれど……」
その時だった。
「あ……っ!」
リアラが悲鳴のような声を上げ、自分の身体を抱いた。
「どうした、リアラ?」
「……いや……何か、嫌な予感がする……!」
リアラは血の気を失っていた。ビッグが手をかけると、細い肩は震えていた。
「まさか……サトちゃん……!」
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