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・ PIERROT ・  作者: 高砂イサミ
第24章
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審判 -3-


 アンティークが着替えを終えたのと、サトルがヨシタカの部屋に現れたのが、ほとんど同時だった。

「遅くなりました」

「あ、お前! こんな時にどこ行ってたんだよ!」

「すみません、行くところがあったもので……」

 アンティークを見た瞬間に、サトルは言葉を失っていた。

 真っ白なドレスに身を包んだアンティークは、照れたような気配で、サトルに意識を向けた。

『どうかな、これ。似合う?』

「……アン……!」

 万感を込めたつぶやきは、最高の賛辞だった。アンティークは嬉しそうに笑った。

『ありがと、サトル』

「良かったなアンティーク。……なんか天使みたいだな。本当に綺麗だ」

 セイジも満足していた。裁縫に関してなら、ヨシタカは掛け値なしに天才的だと思う。

 当のヨシタカもまた、じっとアンティークに見入っていた。

「いや~、我ながら最高の出来だねッ! アンティークちゃんも気に入ってくれたみたいだし、言うことなしだ☆」

『ヨシタカさんも……どうもありがとう』

「なんの、おやすいご用さ☆ ウヒヒッ☆」

「よし。これでやることはやったな。いつユエが来ても大丈夫だ」

「バカ……大丈夫ってことはないでしょ」

 やっと決心がついたらしく、カナがおそるおそるの体で部屋に入ってきた。セイジは諸々を込めて苦笑した。

「じたばたしたって仕方ないからな。あとは気楽に待つだけだろ」

「そうなんだけど! あんたのその脳天気さって、本っ当にすごいよね……!」

「――セイジ。1つ、聞いてもいいでしょうか?」

 不意に、サトルが固い声を発した。見据えられたセイジは、笑みを収めた。

「何だよ?」

「あなたは、ユエが現れたとして、彼女をどうするつもりでいるのですか?」

『サトル……?』

「どう、って……」

「うまくアオイの札も壊せたなら、その後は? そのまま放っておきますか? ユエのことですから、そのうちまた同じようなことをしでかすかもしれませんよ?」

「……。言っただろ。殺しはやらないぞ、俺は」

 意図を悟ったセイジは不機嫌に言い捨てた。

 その怒りは、サトルに向けたものばかりではなかった。

「そりゃ、何か方法があるんだったら……あいつを無力化して、これ以上悪さができないようにしてやりたいけど……!」

「……方法さえあったなら、それを実行しますか?」

 さらりと、サトルが言った。セイジははっと顔を上げた。

「できるのか!?」

「可能性はあります。過去の実話ですが……大きな術を立て続けに使い、そのために、力の大半を失ってしまったまじない師がいました」

「許容オーバーになるくらいの力を一気に使わせてやればいいってことか?」

「……ユエの許容量なんて、どれだけあるか分からないのに?」

 「そんなことができるのか」とカナが暗に云った。ユエの力の大きさ、恐しさはよく知っているのだろう。

 サトルがうなずいて、カナにも目を向けた。

「私達だけではもちろん不可能でしょう。ですが今、団長室に『5つの間』の5人が集まっているはずです。アオイは無理としても、4人の力を借りることができれば、あるいは――」

「え? ……あ!『運命の間』って、団長室のことか!?」

「はい。あくまで『ユエの』団長室ですが」

 セイジは迷わなかった。カナとサトルを順に見て、宣言する。

「そういうことなら、善は急げだ。あいつらがいるうちに、団長室に乗り込むぞ!」

「ふーん? 君達、『運命の間』に行っちゃうんだ~?」

 ヨシタカが横から口をはさんできた。エリが少し悲しそうにセイジを見上げてくる。

「お兄さん達も行っちゃうの?」

「大丈夫だって、また戻ってくるよ」

『今度は一緒にお歌、歌う約束だもんね?』

「ビッグのおじちゃんも……帰ってくる?」

 別れ際、幼いながらに何か感じるところがあったようだ。セイジは腰をかがめ、エリの頭に手を置いた。

「あいつに会ったら、『さっさとエリのところに帰れ』って、言っといてやるよ」

「……うん。ありがとう!」

 エリはごしごしと目元をこすり、セイジに笑顔を向けた。

「あのね、おじちゃんがセイジお兄ちゃんによろしくって。それと、できればララちゃんに会ってあげてねって言ってたよ!」

「ララに? ……ああ、分かった。戻ってきたら必ず会いに行くよ」

「きっとだよ」

 なぜララなのかと不思議に思いつつ、セイジはエリと指切りをした。アンティークとエリが握手をしたところで、ヨシタカがまたセイジをのぞき込んできた。

「セーイージーくん☆ ちょっとお願いしてもいいかなぁ?」

「な、なんだよ今度は」

「オレもアンティークちゃんと、握手がしたいんだけど☆」

「断る!」

「もうちょっと考えようよ」

 ヨシタカは、口調はともかく、普段と違うまじめな顔になった。

「そしたら最後に、とっておきの情報をあげちゃうよ。『運命の間』に関することだ。どうだい?」

「情報……?」

『ヨシタカさん、本当に?』

 アンティーク本人が、前向きな反応をした。セイジはその肩をぽんとたたいた。

「無理しなくていいんだぞ……?」

『で、でも……握手くらいなら……』

「OKかい!?」

 ヨシタカの目が輝いた。アンティークから若干怯えた気配がするので、セイジはこぶしを握る。他に何かしようとすれば容赦なくぶん殴るつもりだった。

 が、ヨシタカは意外にも、普通にアンティークの手を握っただけだった。

「……君はやっぱり、オレが出会った中で最高のお人形ちゃんだ。ドレスを作れて光栄だったヨ☆」

 アンティークと目を合わせて満足げに笑い、ヨシタカは未練なく手を離した。

「さて、約束だ。6番目の間についてだったね? “A”が言ってたんだけど、あれは元々団長の娘――カナのために用意された部屋らしいよ☆」

「えっ……」

 思わぬところで話を振られ、カナが目を見張った。ヨシタカがまたおかしな角度まで首を傾けた。

「当然だろう? 選ばれたのは5人じゃなく、本当は6人なんだ。『首』のための間があったっておかしくもなんともないさッ」

「だけど、『運命の間』は団長室って話じゃないのか?」

「そこがミソだね☆ ユエいわく、『あの子があたしを超える踊り子になったら、6番目の間を引き渡してあげるつもりよ。そのときに首の包帯もとってあげるの』だそうだ☆」

「……っ」

 カナがぞっとした様子で首の包帯を押さえた。ヨシタカの口真似はあまりに真に迫っていた。

「とにかく、本気で行くつもりなら気をつけなよ? このサーカス団には、絶対に近づいちゃいけないって言われてる場所が7ヶ所あるんだ。そのうちの1つが『団長室』だからね。ただでたどり着けると思わない方がいいよ☆」

「なんだその七不思議みたいな噂は。……ま、簡単にいかないのは百も承知だ」

 セイジはさっと身をひるがえした。

「いい加減行かないと。あいつらがいつまで団長室にいるかわからない。……いろいろとありがとな、ヨシタカ!」

 セイジは部屋を飛び出し手行った。カナとサトルもすぐに後を追う。

 手を振って見送ってから、ヨシタカは肩をすくめた。

「あーあ。行っちゃったね☆」

「うん……」

「さあて、こっちも準備が必要かな。……君、エリちゃんとかいったっけ? ちょっと手伝ってくれないかなあ?」

「え?」

 ヨシタカが扉の前に立って手招きした。エリは首をかしげながら、ヨシタカに駆け寄った。



         ++++++



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