その頃、城の中では
さて、ローゼがグリュ=ガルパネンの怪物を倒し、時間も動き出した、ちょうどその頃、
「……大丈夫でしょうかセラフィーナ殿」
「ああ、ヘンリ様。わてくしのことなど気になさらずに、ご自身のお志をお忘れにならぬよう……」
城の中に入り、すでに地下道深くまでもに到達したセラフィーナとヘンリであった。
「いえ。先程も貴殿の助けが合ったから、このヘンリの命があったようなもの……そんな貴方を捨ててはおけません」
「ヘンリ様……」
城の中で襲ってきた怪物を撃退するとき、ヘンリの死角から襲ってきたネズミの死体をセラフィーナが踏み潰して撃退したのだが、その際に足を捻ったようだ。
まあ、たぶん、セラフィーナが撃退してなくても、ヘンリがなんとかしたと思うが、身を挺して自分を守ってくれた女性にクラっと来ている貴公子である。
「身に余る光栄でございます(チラッ)」
上目遣いでウルウルとした瞳で見つめる。
胸をぐっと押し付けるのも忘れない。
清廉潔白を売りとする伯爵家の跡取りとして、女っ気なく厳しく躾けられたヘンリなど、これでイチコロである。
「セラフィーナ……」
ヘンリの目もウルウルで、うっかり名前に敬称をつけ忘れるが、
「あ、それ良い。良いよ!」
呼び捨てされて喜ぶセラフィーナ。
「?」
なんで喜こばれているのか、いまいち理解できないヘンリ。
「あたいを……じゃなくて、わてくしを呼び捨てにしてくださいましたわ」
「あ……すみません。セラフィーナ殿……とんだ失礼を」
女性に敬称を忘れるなど、伯爵家の跡取りとしてあるまじきこと、とあせりまくるヘンリ。
だが、
「じゃなくて……ではなくて……そうではありませんヘンリ様」
「?」
「……この後も、殿なんていわずに、名前だけで呼んでもらえないかな」
「それは……つまり……」
「『殿』も、『さん』もなしで……セラフィーナって……呼んで」
と言うやいなちや、ぎゅっと抱きつかれ、顔を真赤にする貴公子ヘンリ。
ああ、こりゃ、悪い女に、純情な青年が籠絡されてしまったな、といった様子だが、
「好き……」
気づけば、セラフィーナの顔も随分と真っ赤になっているのだった。
まるで初恋を得た少女のように……