第63話 完全共有
夜の要塞。
警報が鳴る前に、
帝国兵は気づいた。
白い影。
滑走。
音もなく、
ただ斬り伏せていく。
アルテミス。
残響共有設定値90%。
ブレードが閃く。
ブレードテイルが舞う。
まるで。
後席に“誰か”がいるかのように。
「撤退!撤退だ!」
並のGRASPでは触れられない。
一機で制圧。
夜襲。
白百合は、孤高だった。
⸻
だが。
来る。
黒と桃色。
滑るように戦場へ現れる。
GRASP-QΣ《クインヘイデス》。
桃色と黒の外装。
発光ラインは桃色。
片目だけが橙に光る。
ヘイデスの残骸と、
クインスの装甲を継いだ機体。
八槍はない。
代わりに、機動特化。
手には専用ブレード一本。
フィーナが静かに呟く。
「きたよ、レイ」
通信。
「見っけ」
セナの声。
刃がぶつかる。
衝撃が走る。
接触通信が開く。
「生きてる?お二人さん」
煽る。
フィーナは強く返す。
「今回は負けない!」
声はひとつ。
セナが首を傾げる。
「あれー? もう一人は?」
「レイ、答えなくていいからね」
一瞬の沈黙。
「……嘘。生きてる?」
距離が開く。
セナは笑う。
「ま、いっか。どっちでも」
ブレードを構える。
「決着つけよーか」
⸻
Σシステム解放。
接続値上限突破。
100。
120。
140。
160。
180。
200。
発光が強まる。
セナは笑う。
「感じる、感じる」
「自分が壊れる覚悟は最初っから出来てるんだよねえ!」
踏み込む。
速い。
ブレードテイルをくぐり抜ける。
斬撃。
アルテミスが受ける。
「くっ……!」
「90でも……!」
押される。
白い機体が後退。
フィーナの呼吸が荒い。
「100……」
一瞬。
躊躇。
「ねえ、レイ」
残響。
「フィーナ」
優しい。
包む。
「全部、共有しよ?」
静かに。
「愛してる」
「私も」
共有接続値。
100%。
⸻
アルテミスが、消えた。
目の前にいた。
刃を交えていた。
なのに。
視界から消失。
「……は?」
衝撃。
自分のブレードを見る。
折れている。
「え、なにが……?」
後方警報。
振り向く。
いない。
次の瞬間。
強烈な振動。
クインヘイデスが仰向けに倒れる。
脚部損傷。
制御不能。
「……あーあ」
息を吐く。
「これが、共有タイプ」
桃色の視界が揺れる。
「敵わないにゃあ」
ブレードテイル。
静かに。
コックピットへ。
潰す。
暗転。
停止。
⸻
戦場は静まる。
白い機体だけが立っている。
フィーナの中で。
何かが溶ける。
「なんだろう、この感覚」
境界がない。
「レイと溶け合う」
意識が重なる。
「私がレイで、レイが私」
区別がない。
「一体化してるみたい」
呼吸も、思考も、感情も。
「すごく……」
笑う。
涙が頬を伝う。
「気持ちいい」
残響が優しく返す。
「フィーナ」
「愛してる」
「うん」
フィーナは目を閉じる。
「私も」
「レイが大好き」
「愛してるよ」
「ずっと」
「ずっとずっと」
アルテミスの発光が強くなる。
共有率表示。
100%。
波形。
完全一致。
二つではない。
ひとつ。
白百合は、
完全に完成した。
そして。
フィーナは、
もう一人ではなかった。
――永遠に。




