第59話 葬送と静寂
王都郊外、軍人墓地。
空は曇っている。
参列しているのは、第1部隊の隊員と整備士たちだけ。
白い棺。
その中に、レイ。
帝国出身の元兵器。
共和国のために戦い、共和国のために死んだ。
誰かが小さく言う。
「……フィーネリア様は?」
沈黙。
誰も答えない。
ユユが立っている。
目は赤い。
だが涙は流れていない。
「来られません」
短く。
それだけ。
銃声が三発。
乾いた音が、空を裂く。
誰も泣かない。
泣けない。
実感が追いつかないからだ。
棺が土に下ろされる。
レイは、眠る。
静かに。
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王都・特別区画。
レイの部屋。
カーテンは閉じられている。
薄暗い。
ベッドに、フィーナは横たわっている。
服は着ていない。
シーツを抱きしめる。
そこに、まだ残っている気がするから。
体温。
匂い。
鼓動。
「レイ」
柔らかく呼ぶ。
「今日ね、お葬式だったんだって」
笑う。
「私、行かなかった」
「だって、いるもん」
天井を見つめる。
焦点は合っていない。
「ここにいるでしょ?」
沈黙。
フィーナは頷く。
「うん、分かってる」
「静かだよね」
くすくす笑う。
「でもさ、好きなんだ」
「レイといるときの静かさ」
ゆっくり身体を丸める。
空間に腕を伸ばす。
何もない。
なのに。
抱きしめられているように、身体を預ける。
「寒い?」
囁く。
「私、あったかいよ」
涙が流れる。
止まらない。
でも、声は穏やか。
「愛してるって言ってくれたね」
「ちゃんと聞こえたよ」
「嬉しかった」
間。
「最後の言葉みたいだったけど」
笑う。
壊れた笑い。
「違うよね?」
「まだ、続きあるよね?」
シーツを強く抱きしめる。
「また共有しよ?」
「100までいこ?」
「ねえ、レイ」
沈黙。
フィーナは目を閉じる。
微笑む。
「大丈夫」
「私、ここにいるから」
壊れている。
完全に。
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扉の向こう。
廊下。
ユユは座り込んでいる。
背中を壁に預けて。
扉越しに聞こえる、独り言。
笑い声。
泣き声。
静かな会話。
両手で顔を覆う。
涙がこぼれる。
止まらない。
レイが死んだこと。
フィーナが壊れたこと。
自分がアルテミスを作ったこと。
共有を肯定したこと。
依存を後押ししたこと。
全部が、絡まる。
喉から漏れたのは、ひとつだけ。
「……ごめん」
誰に向けてか分からない。
レイか。
フィーナか。
自分か。
もう、分からない。
部屋の中では、まだフィーナが笑っている。
静かに。
壊れたまま。
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王都の空は、重い。
白百合は枯れた。
けれどまだ、散っていない。
散るのは、これからだ。




