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第50話 必要

夜の街を、ふたりで歩く。


戦いの話はしない。


自然と、避けていた。


「あそこでネックレス買ったよね」


フィーナが指さす。


ショーウィンドウの奥、金属の装飾品が並ぶ店。


「ああ」


レイは頷く。


「同じものを身につけると精度が上がると思った」


「まだ言うそれ?」


フィーナは小さく笑う。


「違うよ。あれは……ただ、嬉しかっただけ」


少し歩いて、映画館の前を通る。


「あの映画、覚えてる?」


「ああ」


「私はつまんなかった」


「勉強にはなった」


「だからそれ」


肩が触れそうで触れない距離。


さらに歩く。


「あの店でユユと三人でご飯食べたね」


「上層部の愚痴を言っていた」


「そうそう。ユユ、止まらなかった」


戦いとは関係のない記憶。


残響から遠い時間。


それを拾うように、ひとつずつ話す。


やがて、広場のベンチに腰を下ろす。


夜は静かだ。


レイが口を開く。


「フィーナ、俺は――」


「待って」


フィーナが遮る。


「って言ったからだよね」


「あ……」


レイは言葉を失う。


「私、泣いちゃったし」


苦笑い。


「レイとの事って、すごく大事で」


「でも壊れそうで」


「分かんなくなっちゃって」


夜風が髪を揺らす。


「言いたくないことも、言っちゃった」


レイは黙って聞く。


否定しない。


弁解もしない。


フィーナは続ける。


「でもね、同じだよ」


「同じ?」


「私も結局は、レイと一緒に居たい。それだけ」


それだけ。


複雑な理屈も、技術も、波形もいらない。


「だからさ……安心して戻ってきて」


レイの胸が、わずかに揺れる。


「私には、レイが必要だよ」


その瞬間。


ぽたり、と涙が落ちた。


レイ自身も気づいていなかった。


自然に流れていた。


「……俺もだ」


かすれた声。


「……俺には、フィーナが必要だ」


縋るように。


迷いなく。


レイはフィーナの胸に額を預ける。


戦場で一度も見せなかった弱さ。


フィーナは包む。


そっと。


優しく。


背中に手を回し、髪に指を通す。


「うん」


小さく頷く。


「また、共有しよ?」


レイは目を閉じた。


「……ああ」



翌朝。


共有シミュレーションルーム。


ユユが腕を組み、モニターを見ている。


接続開始。


50%。


波形は揺れる。


だが崩れない。


今までの安定とは違う。


綺麗に並ぶ線ではない。


絡まり、重なり、互いに支え合うような波。


理想値ではない。


だが、切れない。


ユユは小さくため息をつく。


半分呆れ、半分安堵。


「……やっぱり、そうなるか」


レイが静かに言う。


「問題ない」


フィーナは隣を見る。


波形の向こうに、レイの気配。


あたたかい。


残響は、遠い。


絡まり合ったまま。


それでも前に進む。


これが正しい形かは分からない。


でも。


ふたりにとっては、


これしかなかった。

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