報告ー八郷城潜入ー
千鳥による報告回です。
時は少しだけ遡るーー。
◇◇◇◇
「いーーやーーだーー‼︎」
「こら、諦めなさい、蘇芳。大人しくおしっ!」
「てめぇ! いい加減、観念しろよなっ‼︎」
暴れる蘇芳丸を、背後から元が羽交い締めにし、常吉は両足を押さえ込んでいる。
だが、二人ががりでも、この力の有り余る少年の動きは止めきれない。
ごんっ!
「っ⁉︎」
「……蘇芳、五月蝿い」
そこへ、時人が静かな言葉と共に思い切り拳骨を喰らわし、蘇芳丸を一瞬黙らせた。
川縁の草場からは既に移動し、八郷城は目と鼻の先。
潜入する前に巡回する城番に見つかるなどという間抜けな失態だけは避けねばならない。
だが、蘇芳丸も理由なく抵抗をしているわけでは無い。
……これから己が何をされるか、知っているからだ。
そして、まだ納得せずに……ごねている。
暗闇の中、千鳥が静かに声を発する。
「なぁ、蘇芳……ここから城主殿の寝所まで……どのくらいかかるか分かるか?」
「えっと……」
突然の問いに、少年は必死に足りない頭を稼働させる。
「え、えっと……」
「はい、時間切れ」
がっ! ごりっ!
「⁉︎」
前頭部を突如、乱暴に鷲掴み、千鳥は蘇芳丸の口の中に強引に手を突っ込むと、何かを喉元まで押し込み、他動的に嚥下させた。
ごっくん!
「ごほっ、がはっ……ち、千鳥! やりやがったな……くそっ!」
ぱっ!
蘇芳丸が飲み込んだのを確認し、元と常吉は彼を解放する。
途端に、少年は地面に崩れ落ちた。
がくんっ!
「答えは……この薬が溶け消えるのに要すのと同等の刻だよ」
「お、俺に何を飲ませたんだよっ⁉︎」
「だいたい霞消の術を息を止めて展開しようなぞ、阿呆のすることだ」
片膝を付く蘇芳丸を見下ろす千鳥が、溜息を吐きながら、問いには答えず話を続ける。
「幹兵衛から預かっていた丸薬……お前の力を押さえつける為のもの……とだけ教えておこうか」
「なっ⁉︎ おい、それって……」
「はいはい、蘇芳。さっさと行きましょうね。時間が無くなりますよ?」
「えっ⁉︎ ちょ、ちょっと元!」
元が蘇芳丸の両肩にぽんと手を置き、くるりと方向転換し、対岸の城の方へと顔を向けさせる。
八郷城外はぐるりと幅広の堀が深い水を湛えている。
周囲に飛び移れるものはなし、跳ね上げ橋を下ろせるわけもなく、城への侵入は泳いで渡る他ない。
「……蘇芳、さっさと脱げ」
「分かったよ!」
ばさっ!
潜入組の千鳥、時人、蘇芳丸が忍び装束を脱ぎ、褌一丁となり、着物は頭に畳み乗せた。
「……で、此度は化けるのか? 描くぞ?」
「いや、忍び装束でよかろう」
時人の提案を退け、千鳥が蘇芳丸を振り返る。
「蘇芳。お前の桁外れな氣を抑えるには致し方ないが……この際、手段は選ばぬだろう? どうであれ、お前が初任務を無事に果たす……ただ、それだけ……というか、もう腹の中は動き出しておるから異論は認めぬ」
「くそっ! ……最速で辿り着いてやるっ!」
蘇芳丸が苦々しく言葉を吐き出しながら、腹を摩った。
「時人。不審な者を見つけ次第、忍び笛を吹け」
「……分かった。鳴らさずに済めばいいがな」
「元、常吉。戻る際、音鳴玉を鳴らす。そしたら、矢を放ち、対岸に向け縄を届けてくれ」
「おやおや、そんなに容易く言わないでほしいねぇ」
「お前達だから頼むんだよ」
「はいはい」
「よし、お前ら準備はいいか?」
常吉の言葉に三人は同時に頷き、皆、指を口元に当て、術を展開する。
「「「竜宮の術」」」
『竜宮の術』
呼吸器官に氣を送り込み、身体機能を強化する術。
水中での長時間活動も可能となる。
そして、三人は静かに堀へと沈んだのだった。
◇◇◇◇
「といった形でなんとか卜寸殿の所へ辿り着きました。あの丸薬……短時間ではありますが、蘇芳の氣を抑え込めておりました。流石は幹兵衛かと……」
「「……」」
千鳥の報告に、私と胡桃が言葉を失う。
二人仲良く額に手を当てる同一の姿勢、彼の顔は見事に青いが……恐らく、私も同等の顔色だろう。
……綱渡りのような蘇芳丸の潜入だが……無事に帰還出来たので……と、とりあえずは良しとしておこうか。




