只今とお帰り①
待機組だった鋼太郎と幹兵衛が潜入組の逃走用にと用意していた荷車。
城から頂いた備蓄米と途中で摘んだ大量の露草をその荷台に載せ、皆で里へとのんびり帰還した。
この季節の日はまだまだ長い。
今朝からなんだか色々と慌ただしかったのに……まだ空は茜になる気配もない。
里長屋敷前には、雑草を毟るじいの姿が見える。
痩せた小さな身体をさらに縮こませて、せっせと食べられない草達を取り除いている。
「ただいま」
「おや……お帰り。思ったより早かったのう、あと数日は帰って来ないような文だったのに……」
そう言ってにこりと微笑む。
皺の多い目尻がさらに深くなった。
「俺達の活躍のお陰だよ! 凄ぇだろ、ばあちゃん!」
「……じじいだよ。全く、蘇芳は……」
「えっ⁉︎ そ、そんな……」
酷く残念な生き物を見るような目のじいと動揺する蘇芳丸。
……二人ともそっくりな青い顔である。
「今朝のは……やはり奇跡か」
じいが深々と溜息を吐いた……少し涙目。
「阿呆め」
「蘇芳……」
梅丸はにやにやと笑いながら小さく呟き、鉢ノ助は苦笑している。
「あぁ……」
「……」
鋼太郎は悲しそうな表情で、幹兵衛に至っては黙々と荷台の積み荷を降ろし始めた。
「まぁ、お帰り。あらあら露草が山盛りだねぇ! 早速、湯掻こうかしら! な、米もあるの‼︎ あらあらあらあら〜〜!」
ばあも屋敷の中から出てきては、荷車を見て歓喜する。
喜びのあまり、やたらと『あら』が多いな。
双子のじいとばあを見比べる……全く似てないと思うんだが……。
………………
「蘇芳。ちょっと……」
「ん? なんだ、若?」
指をくいくいっと動かすと、蘇芳丸がちょこちょこと近寄る。
がっ‼︎
私は右手で蘇芳丸の口を鷲掴み、氣を直接、体内に送り込む‼︎
ごくん!
「⁉︎⁉︎」
「目を瞑れ」
何がなんだか分からないといった様子だが、とりあえずは素直に言う事を聞いてくれる蘇芳丸。
じいとばあを並べて、左右に数回入れ替える。
「蘇芳、目を開けろ。……さぁ、じいはどっちだ?」
「さっきから一体何なんだよ、若⁉︎ じいちゃんは右だろ?」
「せ、正解じゃ!」
「よし。もう一度、目を瞑れ」
この後、数回同じ事を繰り返し、全部に蘇芳丸が正答した。
……『私の残氣で、見分けが付いた』と言っていたのは、どうやら本当のようだ。
「不思議なんだよな……感覚的なもんだから、上手く言えないけど……」
じいとばあによしよしと撫でられながら、自分の掌を握ったり、開いたりして、蘇芳丸が己の感覚を確かめている。
「どれくらい身体に残るものかは分からんが……少し試してみようぞ。蘇芳、消さずにそのままでいいか?」
「えっ? あ、あぁ」
私が訊ねると同時に、胡桃が返事をする蘇芳丸の顎をくいっと持ち上げ、瞳を覗く。
「……確かに、若の氣がありますね。……身体の中に若の一部があるなんて……なんて妬ましい……いや、何でも……」
「痛てっ!」
ぱっと胡桃が手を離すと、蘇芳丸の顎が胡桃の指の痕で赤くなっている。
「父上に報告を……と思ったのだが、里にいないようだな……何処へ?」
里に入ってすぐ、父の気配が無いことに気付いた。
捏からの伝達は届いておらんのか?
「「ちょっと、な」」
私の問いに対し、じいもばあも言葉を濁した。
……逆に、それが答えだ。
「……しまった! 父上……また厄介なことを……」