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忍リクルート  作者: 枝久
五、
35/89

曲者①

「お疲れ様です」

「おう」

 

 潜入組の三人は櫓番(やぐらばん)に変装したまま三曲輪の敷地内を通過中。

途中で厩番(うまやばん)と出会うも、すれ違いざまに何食わぬ顔で挨拶を交わす。


「良い感じだな」

「油断するなよ、阿呆」

「ええと、次は……」


 鉢ノ助が言いかけて、言葉を止める。


「おい、止まれ! そこのお前ら……持ち場を離れて何処へ行く?」


 突然、一人の侍に呼び止められ、彼の連れている小姓も足を止めこちらを見る。


 ぎくり!


 三人共、心の中では飛び上がるが、それを表に出さずに言葉を返す。


「はっ、こいつが腹が痛くて辛いと……番を代わってもらい、(かわや)へ連れて行くところです」


 咄嗟に二人で中央にいた蘇芳丸を担ぎ、誤魔化(ごまか)す梅丸。


 ………………


「そうか……無理するなよ」


 じろりと三人を見遣ると、そう言い置いて侍が(きびす)を返し去っていく。

小姓がぺこりと頭を下げて、侍の後をちょこちょこと追いかけて行った。


「「「ふーーっ」」」


 三人同時に溜息を吐くと、汗がどっと吹き出す。


 『霞面(かめん)の術』

他者からの顔の認識を歪める変装術だ。

氣を顔に(まと)うことで、光の屈折を起こし、相手の脳には本来と異なる者の顔を映し出す。

記憶に残りづらい、曖昧な人相として……。


「この調子で三曲輪を抜け、衣を替えたらニ曲輪を抜ける。本曲輪に入ったら、霞消の術で一気に城内まで駆け上がるぞ。行けるか、蘇芳?」

「おう! 任せとけ、ぇい⁉︎」


 ばっ‼︎


 返事より先に殺気を感じ、瞬間、三人共一斉に飛び下がる‼︎


 かかかっ!


 地面に刺さったのは苦無!

投げてきたであろう方向に、一瞬見える影‼︎


「はっ! しまった‼︎」


 そう……気づいた時には既に遅し!

無意識で、何処からか飛んできた苦無を()わしてしまったのだ。


 それは櫓番では無く、(まご)うことなき忍びの動き‼︎


「な、何だその身のこなし⁉︎ お前ら、何者だ‼︎」


 先程、去ったはずの侍が遠くで振り向き、刀を抜き構えている。


「曲者じゃーー‼︎」


 それは、目の前の侍では無く、別な方角から湧いた声。


 たった一言。

それが発せられたことによりその場は支配される……情報操作。


 ざっ!


 一斉に三曲輪へと人が集結する‼︎


「俺達を『敵』として捕らえさせようってか? ……吉伏城はうちの里以外の忍びは雇っていないんだよな?」

「ああ、雇われてはいないはず……だとしたら?」

「あっちが曲者だな」


 三人の周りには刀を構える侍達。

間合いは取っているが、ぐるりと囲まれている。


 ざっと見回し、蘇芳丸の視線がぴたりと止まる。

やや離れた位置で、こちらを見ずに場を離れようとする侍……姿の男。


「あいつだーー‼︎」

「俺を飛ばせーーっ‼︎」


梅丸が声を上げるのと、蘇芳丸が梅丸を敵へと投げつけるのが、ほぼ同時‼︎


 二人をちらりと見遣ってから、目の前の侍衆に視線を戻す鉢ノ助。


「さてと……こっちはこれだーーっ‼︎」


 ばっ!


 懐から取り出した煙玉を空中に放り投げ、両前腕の鉄甲を擦る‼︎


 落ちてきた煙玉に火が点く瞬間、鉢ノ助の着物の裾から、ぽろっと落ちる……焙烙玉の渡し忘れた一玉が……。


「あ……」


 どぉぉぉぉぉん‼︎‼︎


 鉢ノ助の焙烙玉の爆発音が城周辺に鳴り響いた。



◇◇◇◇



 蘇芳丸の豪腕によって投げられた梅丸!

侍共の頭上を軽々と超え、場を離れようとする曲者の背後へと瞬時に追いつく!


 猫のようにしなやかな体躯を捻らせながら、少年は小刀を抜き、斬りかかる‼︎


 かきぃぃぃーーん!


 敵の忍びもそう易々とやられる程、愚かではない。


 かきぃん、きぃん、かきぃんっ……!


 刃を幾度も交えると、徐々に腕力の差が生まれ出す!

梅丸を返り討ちにしようと敵も殺気を放ち、強い太刀を繰り出した!


 がきぃぃーーん!


「小僧! くたばれっ‼︎」

「くっ!」


 どぉぉぉぉぉん‼︎


 その時、背後から焙烙玉の爆発! 

爆風による追い風は、敵の目を咄嗟に閉じさせ、梅丸の背を力強く押した!


 一瞬の隙を見逃さず、少年の刃先が敵の右首を捉える‼︎


 ざしゅっ!


「ぐあぁぁぁぁっ‼︎」


 首を押さえ体勢を崩した相手に、追い討ちの連撃で斬りつける!


 ざしゅ!


 そして土埃(つちぼこり)が舞う中に、勝者が一人立っていた……。




「おいお前ら、怪我人は⁉︎」


 二人を振り返り声を上げながら、梅丸が倒した敵を縄で締め上げ、木に(くく)り付ける。

仲間の名を不用意には、けして呼ばない。


 周囲に立ち込めていた土埃が徐々に落ち着いてくる。

梅丸が見遣ると、侍達が皆、地面に倒れていた……。


 ………………


「ちっ……やらかしたか‼︎」


 梅丸が苦々しく吐き捨てる……と、同時に、倒れていた者達が皆、ゆっくりと身体を起こした。


「⁉︎」


 どうやら、焙烙玉が爆発する直前、蘇芳丸と鉢ノ助が瞬時に動き、周囲に跳ね飛ばすことで、しっかりと侍達を(かば)い守ったようだ。


 ………………


 はあーーっと深い深い溜息を吐き、梅丸が嫌味を溢す。


「……おい阿呆。……何故、お前の焙烙玉はこんな大穴が開くんだ?」


 縦に火薬が爆ぜるのか、昔、竹藪で出来たのよりもさらに深い落とし穴が出来上がっていた……。


「わっかんねぇ。……そういや今度、あいつが検証してくれるって言ってたな」


 鉢ノ助は空を見上げながら、誰かを頭に浮かべている。

……恐らくは博学な眼鏡少年の顔だろう。



「こ、これは……一体……?」

「あっ……えっと、これは……」


 混乱する侍連中が、ようやく口を開く。

彼らを前に、これまた困惑気味な蘇芳丸が言葉に詰まった。


 ざっ!


 その時、梅丸が片膝を着き、声を発する。


「我ら浅緋の忍びは、間者(かんじゃ)が紛れているという風聞により、里長から命を受け、吉伏城に潜入調査中でした!」


 小刀にある浅緋の里紋を見せながら、ぺらぺらと饒舌(じょうぜつ)に嘘を(つむ)ぐ。


「このことは何卒(なにとぞ)ご内密に!」

「な、なるほど! そういうことであったか!」


 まるで疑うことなく、侍連中は梅丸の台詞(せりふ)に頷き、ざわざわと互いに話し出す。


「……お前の口って、本当どうなってんの?」

「褒めてくれて、どうもありがとう!」

「いや、褒めてねぇし……」


 鉢ノ助の疑問に猫被り声で返す梅丸。


 今度は黙っていた蘇芳丸が、突如、閃き顔になる。


「……はっ! 汎様、もしやこれを予見して俺達を『おつかい』に……」

「「ないない」」

「……だよなーー」


 彼の言葉を二人は即、打ち消した。



 こほん、と咳払いを一つして、梅丸が侍達に問いかける。


「何か最近、城で変わったことはなかったでしょうか?」

「変わったこと……そういえば……今日、城に見たことのない美しい姫君達が旅の格好で参られたな」

「ああ、まるで天女様のようだったな」


 演技を続ける梅丸の言葉に、侍達が口々に声を上げる。


「姫……達?」

「美しいって言うから……たぶん、あの人だと思うけど……」

「……まさか……若も姫の格好なのか?」


 三人は怪訝な顔でひそひそと言葉を交わす。


「っつうか、敵が潜入してたなんて、予定変更だろ、これ? このまま天守閣行って、若に報告だな。えっと、捏と筆は……」


 懐に手を入れ、視線を動かした瞬間、縄だけが結ばれた木が梅丸の目に入る。


「しまった‼︎」

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