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忍リクルート  作者: 枝久
三、

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19/96

かくれんぼ③ ー樫の木ー

 もし仮にこのかくれんぼが、『里中に紛れた何者かもわからぬ、数も不明な隠者を全て曝け出せ!』という命令だったなら、私にとっては骨が折れただろう。

……蘇芳丸以外の四人だったら、私の術を()(くぐ)り、上手く隠れ退()けられたかもしれない。


 しかし、探知の対象が『辰ノ組の五人』と特定されているなら話は別、いとも容易(たやす)い。


 私はけして、辰ノ組を過小も過大も評価してはいないし、適正な判断を下せるよう、常に冷静に見ているつもりだ。


 そう……本当であれば、この五人の能力は優秀……でも、まだまだ私の望む領域には届かないのだ。


「蘇芳は後回しだな……」


 姿を隠す霞消(かしょう)の術が蘇芳丸は苦手だ。

己が苦手なことを長時間、集中力を切らさずに継続するのは、かなりの力を消費する。


 しかも、面白い程に短気な男だ。

じっと()え忍ぶのは彼にとって苦痛以外の何物でもない。


 蘇芳丸と正面から向き合えば、見つけた瞬間、恐るべき速さで逃げられてしまう。

まともに捕らえることは私の身体能力ではまず不可能……。

体力も精神力もできるだけ削りたい。


 卑怯だろうと、泥臭かろうと、どんな手を使ってでも勝つのは私だよ、蘇芳丸……。


「まずは……そうだな……」


 東の方向を見遣ると、家が何軒かと畑が広がる。


「最初は鋼太郎に会いに行こうか……」


 私は静かに駆け出した。



◇◇◇◇



「この辺りかな……」


 最初の探知で大体の居場所に見当はつけてある。


 皆、一度隠れ場所を決めたら動かず、息を潜めて気配を殺す。

鬼の接近に気づき逃走を図ろうものなら、即、異変に気づいた鬼に捕まるからだ。


 もう一度、地面に手を突き、鋼太郎の気配を探す……。


 ぶわっ!


 霞が(ただよ)い、見知った少年の陰影をすぅっと浮かび上がらせる……お、いたいた。


 畑の隣に大きな(かし)の木が一本。

木の上、枝葉の隙間に身を潜めているのだな……下から見上げても見つからない位置かな……気配もよく消せている。

上手い上手い。


 ……鋼太郎はまだ(わたし)の存在に気づいていないな。


 すっ……


 私は懐から焙烙玉をそっと取り出し、着火……樫の木の根元に向けて思い切り投げつけた!


 どぉぉぉぉぉぉぉん!


 爆轟音が鳴り渡り、振動で樫の大木が揺れる!


「あっ!」


 驚き慌てた鋼太郎が(わず)かに声を漏らした。


「鋼太郎、みーーっけ!」

「わ、若……ず、(ずる)いよぉーー‼︎」


 鋼太郎が涙声を上げながら、幹の裏からひょこっと顔を出す。

長い前髪の隙間から見えた瞳にはやや恨みが滲む。


 長い付き合いで皆の性格はおおよそ知っている。

小心者で陰思考な鋼太郎を揺さぶるには、これが一番簡単なのだ。


「勝負に狡いも汚いもなかろうに」


 するすると木から降りてくる鋼太郎にそう言い放つ。


 忍びは狡猾で非情で残忍である。


「敵に見つかったら、狡いなんて言ってられない。死んだら終わりだぞ?」


 俯いた彼の肩に手を置く。


「私は……お前達には生きて欲しいのだ。……それだけは(うそ)(いつわ)りない」

「う、うん……」

「捕虜は屋敷で待っておれ」


 さて、次は梅かな……。


 一瞬、視線を逸らした時、鋼太郎が何かを投げるのが、目の端に映る。


 しまった! 油断した!


 きぃぃぃぃん!


 高音の澄んだ金属音が里に響き渡る……音鳴玉か⁉︎


 そうか、捕まったら仲間に合図を送るのだな⁉︎

……なるほど、それぞれ所持しているのか。


 団結……悪くない。


「わ、若を護りたいから……勝つよ、僕らは」


 そう言って、優しく少年は微笑んだ。


 ………………


 それは無意識だった。


 ばっ!


 鋼太郎が微笑んだ瞬間、私は後方へと大きく飛び下がる!


 かかかっ‼︎


 今しがた、自分が立っていた位置に苦無が三本、綺麗に地面に突き刺さっている!


 私の草履(ぞうり)を狙ったな……。

その着物の下に、今日も一体、何本の暗器を隠し持っているのやら。


 あの茸狩りの時と同じ……鋼太郎が狙うは、私に霞消の術印を結ばせないこと、か。


 この暑い季節、身につけているのは薄い着物が一枚だけ。

木に(はりつけ)られたら、流石に脱ぎ逃げるのが躊躇(ためら)われる……裸になってまでの逃走は御免(ごめん)(こうむ)りたい。


 ならば、こちらは……。


「うっ!」


 飛び下がり、接地と同時に片膝を着き、地面にしゃがみ込む。

左膝下を抑えた両手の隙間から、鮮血がだらりと垂れた。


「えっ⁉︎ わ、若‼︎ そ、そんな‼︎」


 油断大敵だよ、鋼太郎……。


 手掌に隠した手裏剣で(みずか)らの身体に傷をつけ、隙を作り、私は素早く印を結んだ。


 ばっ!


「……狂言(うそ)だ。お前は……私に優しすぎるよ」


 舌を出して、あかんべー。


 春ではない陽炎の揺らめきに混ざり、私の姿は溶け消えた。

足元には数滴の血痕を残して……。



◇◇◇◇



 樫の木から、然程(さほど)離れていない、里の東のとある屋敷を訪ねる。


「たのもーー青葉殿ーー? 失礼致すーー!」


 ぱたぱたぱた……


「あらあら、若。いらっしゃい」


 戸口から声をかけると、明るい女性が奥から出てくる。


 彼女に手を引かれ、拾われ子の二人も顔を出した。


 昼餉を食って落ち着いたのだな、もうすっかり馴染んでおる……青葉殿のお陰だ。

はにかむ表情、穏やかに愛らしい……やはり(おさ)な子は笑っているのが一番だな。


 そっと頭を撫でやる。


「ちょっとお邪魔しても良いか?」

「あら、若。やだ、怪我してるじゃない! どれ、見せてご覧?」


 (すね)の傷に気づいた青葉殿の行動は素早い。

こちらが断る暇もなく、あっという間に腰掛けさせられ、処置を施してくれる、ありがたい、が……奥への注意は逸らさない。


 身体を捻り、暗い室内に向けて声を掛ける。


「うーーめーー! いるんだろーー?」


 しんと静まっている……勿論(もちろん)返事はあるわけがない。


 手当てが終わったら、会いに行くよ、梅。

小心者 : ビビり

陰思考 : ネガティブ

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