4 ダルキアさんの密かな楽しみ
「はぁ…やってしまったなぁ」
お茶会の翌日、厨房の一角を借りてお菓子を作りながらため息をつく。転生主人公のお約束みたいな出来事をやってしまったが…ま、まぁ、きっと俺のことなんてすぐに忘れてくれるよね。自分で言うのもあれだけど影の薄さには自信がある。
…うん、悲しくなんてないよ。本当に。
「なにしてるの?」
「うん?ああ、パウンドケーキを作ってるんだよ」
陰キャのボッチのくせになんでそんなことが出来るのか…まあ、簡単に言えばオタクだからアニメとかで、影響受けてそこそこ料理を練習したからだ。
スキルの創造で作る方がクオリティ高いし、手間もないけどたまに手作りしたくなるのよね。
って、ん?
「…あの、何故こちらにいらっしゃるのですか?アイラ様」
振り返ると何故かここにいるはずのない人物がいた。昨日のお茶会で知り合った第3王女のアイラ様。そして…
「殿下までいらっしゃるとは…」
「やぁ、昨日ぶりだね。ダル。あと、私のことは気軽にメイビスと呼んでくれて構わないよ」
本当に同い年なのだろうかというくらい社交性高い第2王子のメイビス殿下までいた。いやぁ…流石に名前呼びはハードル高いっす。
「あの、それで何か御用でも?」
わざわざ王族2人が俺に何の用事なのかわからずに聞くと、メイビス殿下はくすりと笑って言った。
「いや、なに。君に会いたいとアイラが言うから付き添いで来たんだよ。私も君とは仲良くしたいしね」
「仲良くですか?」
「昨日集まっていた同世代の中では1番仲良くなれそうだからね。それにしても、本当に君がお菓子を作っているとは思わなかったが」
興味深そうにジロジロ見てくるので居心地が悪くなっていると、くいくいと、アイラ様に袖を引っ張られる。
「だる、あそんでくれる?」
「えっと、構いませんが…」
「ぷぅ、きのうみたいにはなして」
昨日って…それ、不敬罪にならないよね?
「そうだね、私とも普通に話して欲しいかな。無論、私用の時だけで構わない」
「…それなら。わかった」
流石に子爵令息の身分で常時王族とタメ口はかなりヤバいから、こういう時くらいならまあ大丈夫かな?
「えっと、とりあえずもうすぐケーキ焼けるから、お茶にしようか」
「わぁーい♪」
「あぁ、頼む。ゆっくり色々話そうか」
そうして、この日から結構頻繁にメイビスとアイラが我が家に来ることになるのだが…決して餌付けなどはしていないはず。そもそも素人のお菓子なんかそこまで美味しいはずないしね。