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楽しみですね。

 大きな映画館だった。今までこんな規模の会場で映画を見たことがなかった。いや、そもそも映画さえ、いつ以来、見るのだろう。

 たくさんのひとが招待されているらしく、上映前の高揚と期待がざわめきとなって身を包む。

 楽しみですね。猫実さんがそうささやいた。普通なら巧には聞こえるはずのない音量だった。でも、そう聞き取れたのは多分、自分でもそう思っていたからだろう。自分でも、猫実さんに「楽しみですね」と言いたかったからだろう。

 小さい頃、親に連れて行ってもらった記憶がある。その時はちゃんと映画を楽しめていた気がする。


「聞こえたら手をあげてくださいね」

 様々なボタンがついた箱の前で、ヘッドホンをつけさせられて座る。

 なにも聞こえなかった。音が聞こえるのをいくら待っていても、感じるのは無音だ。

 隣に座る子たちが手をあげながらこちらの方を怪訝な顔で見つめる。

 いつか聞こえると思って耳をすましてもそれは無駄で、実際にはすでに音は通り過ぎていて、それを聞き取ることができなかったのだ。

 確か、小学、、、一年生ぐらいのことだった。連れていかれた病院で、日常会話に支障がないと言われた。検査するまで障害があるとは気がつかなかったのだ。

 しかし、学年が上がるにつれて、会話についてくるのが難しくなった。

 大勢の人数で話すようになった。会話の内容も、より複雑に聞き逃す余裕がなくなった。

 男子の声変わりした低い声が聞き取りにくくなったのも、大きい。


 気がつけばもう、巧たちは指定された席について上映を待つだけになった。猫実さんを見ると少し首を傾げられる。

 彼女が何か言うかもしれないと注意を向けただけなのだが、猫実さんは巧が言葉を発するのを待っているらしい。

 何か言おうとすると、言葉が堰を切ったように溢れ出てきた。


 映画楽しみだね。

 猫実さんは、どうしてそんなに優しいんですか。

 ありがとう。今まで辛かったんだよ。でも今は、、、。


 全部言葉にならなくて、言えなくてただ目を見て、いつもの作り笑いをするしかできなかった。


 僕は大丈夫です。気にせず話してください。


 ずっとこうやって聞こえない会話を、やり過ごしてきた。

 そんな巧の顔を見て、猫実さんはとぼけたような不思議な顔をした。それが面白くて、本当に笑ってしまう。

 意味のないやりとりに、幸せな気分がこみ上げてくる。

「あっ、もう、、、」

 すっと、会場が薄暗くなる。大きな大きな闇がゆっくりと埋め尽くした。なにか優しいものに抱かれたような気持ちになる。

 大丈夫だ。巧は、で繰り返して、膝の上に置いた手を握りしめた。

 キュウちゃんが嬌声をあげている。


 結末はもう知ってしまった。でもそれはきっと悪いことじゃない。

 自分で、選んだ道だからだ。たとえ、理不尽であろうともそこに意味を見つけたから。

 目の前が明るくなる。これから、始まる。


何気なく書き始めた小説が、こんなにも楽しいとは思わなかった。

感謝でいっぱいです。

こんな自分が書いてくれたものを読んでくれた人にも、心からお礼を言いたいです。

どうもありがとう。

いろは、もわからずに書き始めたので、グタグタになっていますが、ちゃんとまとめて書き直す予定です。

結局はまだまだ書きたいです。

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