第二話『ある伝説の書』‐②
学校を卒業後、オレっちらはそのまま離ればなれになるのがいやで、一つのクラブを造った。その名前は『怪奇特捜組』。天空の村にまつわる怪奇を洗いだし、真相を確かめるのを目的としている。この小屋がそのアジト。秘密基地だ。クラブの発案者はレイコで、目的を決めたのは恐怖ものが好きなハイネ。組長は当然のことながら、満場一致でオレっちに決まった。オレっち自身は、もちろん、やりたかったから手をあげたわけだが、他のみんなは、っていうと、『人相が悪い割には無難な判断をする』とか、『人相が悪いから、多少の不満はあってもみんな決定には従う』、などと、この顔が決め手となった。うれしいやら悲しいやらだが、まぁ、自分の思いどおりになったんだから、あれこれいうつもりはない。今、ここにいる人間はオレっちを含めて六人。あと一人が来れば全員がそろうことになる。
これまでもいろいろと怪奇を探してみたが、未だに成果らしきものはあげられず、ただのお茶会と化している。このまま流されつづけてはいけないと思いつつ、なにか目新しいものはないものかと、思案に明け暮れる今日このごろだ。
そして……このあと、すぐにその日が来たことを知るようになる。
ハイネのかたわらには読んでいた本が開いたままになっている。
「ところで、その本は面白いのか?」
難しいならお断りだな、と警戒しつつ、面白いなら、とかすかに期待をこめて尋ねてみた。
「うん。今まで書庫で見つけた本の中ではね。どう? ソラ君も見るかい?」
「でも、お前、読んでいる途中じゃねぇのか」
「ぼくは全部読み終わっているよ。今は二回目。だから別にかまわないさ」
「くり返し読んでいるってことは、それなりに面白いってわけだな。じゃあ、見せてもらうとするか」
オレっちがそういうと、すかさずカスミが、
「ソラ、あたしも一緒に見ていい?」と話しかけてくる。
(いやだといっても見るくせに)
のどまで出かかっている言葉を、ぐっ、と飲みこんだ。
カスミは、どういうわけか、オレっちが興味を持ったものには必ず食らいついてくる。一緒に、とおねだりしてくる。だから、それに対する受け答えも、考えることなく口にできる。
「ああ、いいよ」といつものように、にこやかな表情を浮かべながら言葉を返した。
ハイネが本を差しだす。
「はい、どうぞ」
オレっちはハイネから本を受けとった。大きくて厚みがある。最初は最下段のベッドで寝ながら読むつもりだった。だが、この大きさと重さ。それに、カスミも一緒に読みたいとなれば、テーブルで読んだ方が楽に違いない。
三段ベッドは小屋の一番奥にあるが、テーブルは真ん中。オレっちは本を片手にテーブルまで歩くと、窓の反対側にある席にカスミと並んで座った。
「ミーにゃん、本を読むのにゃら、あっちの方がいいにゃよ」
「うん、行こう」
ミーナとミアンはカスミの肩からテーブルの上へと飛びおりた。
(こいつらに読めるのかな?)
真偽のほどは別として、二体は開いた本をながめている。オレっちらはちょうど、本を中心にして囲んだ形だ。
それは天空の村にまつわる伝説をまとめた本だった。誰かから聴いたことがある話もあれば、初めて知った話もある。
そんな中で興味ある文章が目に飛びこんできた。
《遠い昔。惑星ウォーレスでは罪人を処刑するのに、大きな刃の鎌が用いられた。背中に回した両腕を縄でしばられ、地面に座らされた罪人が、前につき出した首をその鎌で刈りとられたという。処刑された人の数は、何百人、何千人ともいわれる。その罪人たちの流した血が、この鎌に霊体としての命をふきこむ。処刑のない日の夜は道具置き場からぬけ出し、人の首を刈ることに興じていたと伝えられている》
「ふむふむ。それから……」
「不気味な話ね」
《この惑星に生きる全ての命がほろびをむかえる直前、『死の灰』なる噴煙が、ウォーレスの上空に浮かぶこの村へわきあがってきた。噴煙のほとんどは、当時この村に棲んでいた五体の森の妖精が、おのれの命と引きかえに食いとめたという。だが、わずかに降りそそいだ噴煙の中に、前述の鎌がいくつか巻きこまれていたらしい。噴煙が静まったあとに、村の大地へつきささっているのが目撃された》
「へぇぇ。噴煙が鎌を運んだのかぁ」
「それで、どうなったのかしら」
《数日後、これらの鎌は息をふき返したかのごとく村人を襲い始めた。彼らはこの鎌を『死神の鎌』と名づけ、迫りくる恐怖にただおびえるしかなかった。だが犠牲者が増えるにつれ、どうにかせねば、との声が高まってくる。そこで当時、霊山『亜矢華』に居をかまえていた呪術師バニヤの元へ村人が数名訪れ、救いの手を求めた。村人たちをあわれに思ったバニヤは彼らの頼みを引きうけ、封印へと動きだす。
バニヤは自らが造りだした護符を武器に、次々と鎌をおさえこんでいく。一方で『封印を確かなものにすべき』とするバニヤの指示のもと、村人は霊山の中に鎌の数だけ、ほこらを建てた。このバニヤと村人による連携が功を奏す。ほこらの中に封印された死神の鎌はその後、二度と動きだすことはなかった。やがて最後のほこらにも扉に封印の護符が張られる。村人たちはこれをもって、死神の鎌による恐怖は終わりを告げた、と喜びあった。事実、これ以降、死神の鎌が村人たちをおびやかしたという事例は、今日にいたるまで一つもあがってはいない》
「ほこらに死神の鎌を封印……か。それって今でもあるのかなぁ」「どうかしら」
『死神の鎌』に関する記述はここまでだった。
(なんせ、大昔の話だからな。無理もねぇか)
『他には』と、つづきを読み始める。オレっちらに遠慮してか、誰も声をかけてはこない。静かな中、ページをめくる音だけが聞こえてくる。……そして。
ぱたん!
「ふぅ。やっと読み終わったか」
「こうしてみると、いろいろあるのね。この村にも」
「そうだな。だが、この中で一番、目を引いたものっていったら」
オレっちは再びぺーじを、ぱらぱらとめくり始める。
「ええと……、おっ、これだ」
「そうそう。他のものにくらべて文章はすごく短いけどね」
「へぇぇ。そこで指がとまったってことは」
いきなり声がしたのでそちらへとふり向く。いつの間にかハイネがすぐそばまでやってきていた。彼は開いてある本とオレっちらの顔を交互にのぞきこんでいる。
「君たちも『死神の鎌』について耳にしたことがあるんだね」
当然だろ、とばかり、オレっちは口を開く。
「そりゃあさ。天空の村で生まれたやつなら、一度や二度は必ず聴いているよ」
「やっぱり。……それで? 興味深い話だとは思わないかい?」
面白いかと問われれば、いな、とは答えにくい内容。
「まぁな。だがこれって、本当の話なのか?」
「この手の本って、昔からのいい伝えを検証なしにまとめただけのものでしょ? しかも中には読み手が興味を持つように脚色もしてあるって話だけど」
「あれっ。カスミ君。よく知っているね」
「あたしもきらいな分野ってわけじゃないからね。たまには見る時もあるの。村役場の書庫だってハイネほどじゃないにしても、よく行くのよ」
「まるっきり、うそが書かれているわけじゃないと思うんだけどね。
しんぴょうせいに関していえば、そうだな、五分五分ってとこかも」
(多分、そんなことだろうとは思っていたけどな)
「五分五分かぁ。どちらにしてもさ。ほこらがどこにあるか書いてないから探しようがねぇぞ」
「うん。ソラ君のいうとおり」とハイネがうなずく。
「確かにそれが難点だよね」
ハイネとしゃべっているうちに、あれっ、と思い始めた。
(おかしな『ちゃちゃ』が入らないな、あいつら、どうしたんだ?)
オレっちは本が置いてある少し先に目を向ける。
すぅぅっ。すぅぅっ。すぅぅっ。すぅぅっ。
ミーナとミアン。どちらも、おネムの状態だった。
(ふぅ。やれやれ)




