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天空の村5・死神の鎌  作者: シード
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第十七話『あっけない結末』

 第十七話『あっけない結末』


 ディルド。……オレっちらドラスさえも『りょうが(凌駕)』する、身体能力と霊力を備えた大よくりゅう(翼竜)。空を飛ぶ生きものにかぎっていうなら、天空の村ずいいち(随一)の力といっても過言じゃない。

 姿かたちを言葉にすれば、四つ足としっぽはドラスとなんら変わらない。だが顔の形状はだいぶちがう。とりわけ異なるのが口部だ。ドラスが長くとがっているのに対し、ディルドはとがっていない分、ってほどでもないが、ドラスよりも口が横に大きく開く。『下あご』の左右からは、するどいきば(牙)も飛びだしている。いかにもどうもう(獰猛)な、といった印象を受けずにはいられない。同世代どうしではドラスよりもひとまわり大きく、黄金色こがねいろの身体をしている。せなかに生えているつばさも二枚多くて全部で四枚。あっとう(圧倒)的な速さをもって空を、地をもかけぬける。

(といって、『ドラスが負けてばかり』ってわけでもねぇけどな)


 四枚よく(翼)で羽ばたくディルド。行き先はもちろん、黄色い砂のような姿をした霊魔カァネスだ。

「がうぅっ! がうぅっ!(カァネス。ずいぶんとひどい目にあわせてくれたね。このお礼はきっちりとつけさえてもらうよ!)」

「なにをぬかす。今度こそ貴様をこの手でほうむってくれるわ」

 ディルドとカァネス。そうほう(双方)がにらみあう。

(いよいよ始まるかぁ)

「なぁ、ネイル。どっちが勝つと思う?」

 個人的には、手にあせ(汗)にぎる、といった場面を期待している。ところがネイルの返事は、そんなオレっちのささやかな夢さえ、いとも簡単に打ちくだく。

「聞くまでもありません。ハイネの圧勝ですよ、ソラ。あなただって判っているでしょうに」

(そりゃあ判っちゃいるがな……。ちぇっ。本当、おもしろ味のねぇ野郎だ)

「なぁ、ネイルよ。オレっちら親友だよな」

「ええ。でも、なんです? いきなり」

「ものは相談だが……。うそでもいいからさ。『どっちでしょうか? さっぱり判りません』っていってはもらえねぇか?」

「それで気がすむんですか?」

「ああ」

「判りました。じゃあ、もう一度、聞いてください」

「よぉし。じゃあ、いくぞぉ」

(なんかすっごくわざとらしい気もするが……、まぁいいや)

「ごほん。なぁ、ネイル。どっちが勝つと思う?」

「どっちでしょうか? さっぱり判りません」

 がくり。

「あのなぁ。だれが棒読みでしゃべろ、っていったんだよ。もうちょっと心を、だな」

「いちいち注文が多い人ですね。それじゃあ、人間として大成するのはなかなか難しいかと」

「うるせぇ。だまってオレっちのいうとおりに……ぐっ!」

 いきなり、ネイルの右手がオレっちの口をふさいだ。

「おや。ハイネが先に動きだしましたよ」

「ぐぐ……。ぷわぁっ。なにぃ!」

 ネイルがじゃまな手をどけたのであわてて見あげた。そんなオレっちの耳元に、なにやら楽しげな声が届く。

「にゃあ、ミーにゃん。ミーにゃんはどっちと思うのにゃん?」

「アタシは砂にまみれたくはないわん」

「にゃったら、ハイネにゃんのディルドをおうえん(応援)しようにゃ」

「もちろん、だわん」

 ふれえっ! ふれえっ!

 戦いというものは、たとえ見るだけではあっても、人の心に火をつける力がある。霊体どもがせいえん(声援)を送る中、戦いの火ぶたは切っておとされた。


(あぁあ。なんてつまらねぇ……)

 予想をしていなくもなかったが、あっという間に終わった。戦いをつまらなくした一番の原因をあげるとすれば、短時間でかつ、一方的な決着で終わったことにちがいない。だがほかにも、『どうしてだ?』と不満をつのらせたことがある。

 ハイネとカァネス。どんな理由があるのかは知らないが、霊覚交信を『閉じた交信』へと切りかえてしまったのだ。この場合の『閉じた』は、『やめた』という意味じゃない。交信相手を限定した、ということ。戦いのさなか、ずっと二体ふたりは自分たちだけが伝わる交信をつづけていた。だから、こちとらにはどんな会話のやりとりがあったのか、どんな心の動きがあったのか、などがまったく届かなかった。

(くそっ。あとで文句のひとつでもいってやらなきゃ、腹の虫がおさまらねぇ)

 ってなわけで、オレっちとネイルは視界に映る光景でしか、戦いの状況を楽しむことが……、いや、知ることができなかった。

(ディルドが本気まじで戦う以上、こちとらはじゃまになるだけだから観客にまわるしかねぇ。ハイネもそれぐらいは判っていたはず。となれば、だ。もう少し盛りあげる工夫なり、努力をするのがふつうじゃねぇか? 本当、ネイルと同じで気の利かない野郎だぜ、まったく)

 オレっちは口には出さないものの、心の中ではしきりに悪態をついていた。

(性格がいいんでな)


 ふり返ってみると、こんな、だったと思う。

 ハイネのディルドが右の前足から光波弾を放つと、カァネスは砂の中に穴を造って、すどおりさせようとした。ところが、砂の間に入ったとたん、光波弾は、ぷわあっ、と拡散、黄色い砂全体をえんじょう(炎上)させてしまう。

 苦しみの表情をうかべたカァネスは、最後の手段とばかり、リイゼルが手にしていた黒鎌にとりついた。黒鎌と残り三体の鎌から刃の部分だけが飛びだす。四つの刃はそれぞれの根元がくっつくことで、十字型の『死神の刃』を造りあげた。

 死神の刃は高速回転、円状の光刃となってディルドにおそいかかる。ところが、むかえうつディルドも身体全身に光刃をまとっている。同じ光刃といっても、ディルドのほうがはるかに大きい。ぶつかったしゅんかん、死神の刃はふらふら状態。それを見のがすディルドじゃない。すかさず、しし(四肢)全てから光刃弾を連続発射。死神の刃に集中砲火を浴びせて、これをふんさい(粉砕)した。


 死神の刃は、ちり(塵)となって消えた。もちろん、依り代としていた霊体も。

 そして……おそらくはカァネスも。


 オレっちとネイルは戦いの行方をじっと見守っていた。っていうか、手を出したくても出しようがなかった、といったほうが本音のところだ。

「あまりにも一方的でしたね。しかも力技で。いつものハイネならもっと」

「楽しんでやるのにな」

「よっぽど、腹にすえかねたんでしょうが、あれじゃあまるで」

「メル・ドラス。いや、カスミだな」

「ソラ。カスミさんが乗りうつったのはハイネだったりなんかして」

「かもしれねぇな」

 今、二人で見た光景なだけに否定のしようがなかった。


 ここらへんでそろそろ、と思っていたら、案の定、霊体どもの声が聞こえてきた。

「ミーにゃん。ウチとしてはあれで満足なのにゃけれども、ミーにゃんは?」

「痛快だったわん。ばがんばがん! ぼがんぼがん! 最高だったわん」

「近ごろは、にゃ。頭とおしゃべりで相手を追いつめ、『勝つ』というのが流行はやっているらしいのにゃけれども」

「アタシとミアンではとても無理だわん。やっぱり」

「うんにゃ。ばがんばがん! ぼがんぼがん! がいいにゃん」

「そのほうが判りやすいわん。それ以外は『ぺけ』だわん」

(おいおい。レイコが悲しむようなことをいうんじゃねぇ。

 ……とはいっても、オレっちは大賛成だがな)


 ひゅぅっ。

 静まりかえった森の中、広場にふくいちじん(一陣)の風がオレっちのほおをやさしくなでる。『さぁ、もうお帰りなさい』とでもいうように。

「にしてもネイルよぉ。ずいぶんとあっけなかったな」

「ソラ。終わりっていうのは、いつでもそんなものですよ」

 上空にうかぶは今や、ディルド一頭のみ。

「がううぅぅっ!」

 勝利のほうこう(咆哮)をあげていた。

(ハイネ、おつかれさん)


「おおい!」

 人間の姿にもどったハイネが走ってきた。

「どうだった? ぼくのかつやく(活躍)は?」

 さぞや満足したのにちがいない。さわやかな笑みをうかべている。

「うん。カスミだった」

「カスミさんでしたね」

「そんなぁ」

 ハイネは打ちのめされたように、がっくりとひざを落とす。この姿を見たとたん、『よっしゃあ!』と不満が一気にふっ飛んだ。

「あれといっしょにするなんて……」

「おい。人の幼なじみに『あれ』呼ばわりはやめろ。あと、がっかりもするんじゃねぇ」

(まぁ、気持ちは判るがな。オレっちもいわれたくないし)

「もっとさぁ。『やったなぁ!』とか、『おめでとう!』とか、はしゃいでくれてもいいんだよ。それがだめならせめて、『よかった』とか『おつかれさま』とかぐらいは」

(さっきからぐだぐだと、なにあま(甘)ったれたことをぬかしてやがるんだ、こいつは)

「そんな気にはならねぇよ。これからやることを考えたらな」

 苦い顔をしているであろうオレっちに対し、『まぁまぁ』とネイルが笑顔で話しかけてくる。

「ソラ。それでも一応、死神の鎌については決着がついたんだし、ハイネのけんとう(健闘)を祝して、『ばんざい』ぐらいはやりましょうよ」

「今すぐにか?」

「おや。今やらなくて、いつやるんです?」

「そりゃそうだ」

(あとでやったら、ただのアホだ)

「それじゃあ、いきますよ。せぇのぉっ!」


『「三羽か? 組」、ばんざぁい!』

 オレっちだけが言葉をまちがえた。いや、正しいはず、なのだが。

「お前らなぁ……。なんで、『三羽組』っていわねぇんだよ」

 そう口にしたあと、『ああ、そうか』って判ったような気がした。

(みんなに『か?』なんてつけられ、アホあつかいされたおかげで、オレっちらのつきあいも深まったんだ。身をよせあい、支えあってもこれたんだ。今回の件がなんとかできたのだって、それが理由かもしれねぇな)

「いいじゃないですか。『三羽か? 組』で。さぁ、ソラもいっしょに」

「そうだよ、ソラ君」

「ああ。判ったよ」

 不本意だが、オレっちもいっしょになってさけんでやった。


『「三羽か? 組」、ばんざぁい!』


 この際だ。オレっちは、『もひとつ、ついでにぃ!』と言葉をつづける。

「『死神の鎌』の探索および調査をこれにて」


『終了!』

 うおぉぉっ!


『三羽か? 組』の三人が三人、声を張りあげて両うでを高くかかげた。

(ふぅ。やっと終わったぜ)


 オレっちらは、日が暮れる前に、と、てっしゅう(撤収)を始める。そんな中、思わずうれしくなる発言がハイネの口から飛びだした。

「ソラ君。中央病院へ行くんだろう? だったらぼくが全部運んでいくよ」

(ふぅ。ありがたい。荷物係をまぬがれた)

「判った。それじゃあ、お言葉にあま(甘)えさせてもらうぜ」

 たちまちのうちにハイネはディルドへと変化へんげした。気を失っているエリカとリイゼル。それにカスミの遺体が入った大袋をせなかに乗せる。もちろん、オレっちとネイル、ミーナとミアンも乗りこんだ。

「いいぞ、ハイネ」

「じゃあ、行くからね」

 ハイネのディルドが大空へとまいあがる。


「ところで、ネイルよ」

「はい? なんでしょうか?」

「どうやってあいつらに、セレンの姉ごへ連絡をとらせたんだ?

『亜矢華』からじゃあ、とどかねぇはずだが」

「ああ、それ」

 ネイルはほほえむ。

「ここには、『愛』を判ってくれる僕の信者がいるんです。霊山の中でも霊力が使える奇特な霊体さんでしてね。彼に手伝ってもらったんですよ」

「『愛』を判ってくれるって……」

 いやな予感がした。

「そいつってまさか」

「ええ。もちごろうさんです。以前、お見かけした時よりも、だいぶ小さくは、なっていましたが、『おれさまは』なんて相変わらず、いば(威張)っておいでで、たいそう、お元気そうでしたよ」

(あいつ、生きのび、いや、にげのびやがったのか)

「ソラも会ったことがありますよね」

「えっ。ああ」

「もし会うことがあったら、って伝言をたのまれたんですが」

「へぇ。なんていっていたんだ?」

「確かこんなぁ……」

 ネイルは覚えている言葉……多分、そのまま……を口にした。


『おれさまがぶざまな負け方をしたのは、「自分が強かったから」、などとうぬぼれてはいまいな? 敗因はほかのだれでもない。おれさま自身なのだ。いわゆる、「強者のおごり」というやつが、おれさまの負けをさそった、と考えるのが正しいものの見方である。たとえどんな小物相手であろうとも、戦う以上は全力をつくす。そんな基本とすらいえる戦いの極意さえも忘れた者に、勝利など訪れるはずがなかったのだ。

 聞けば貴様は愛の伝道師とか。ならば、おれさまの愛を以って今一度の戦いを所望したい。とはいっても、「我が身が元にもどるまでこの地で待て」、などの無理をいうつもりは毛頭ない。戦えるようになり次第、霊覚を用いてただちに知らせる。ゆえに受けとったら、ここへかけつければよいのだ。どうだ? おれさまの身に余る温情は。うれしくてなみだがとまらぬであろうが。わっはっはっはっ。

 ソラとやら。再びあいまみえるその日を心待ちにしておるからな。今度こそ、手加減なし、正々堂々の勝負をしようではないか。

 熱くたぎらせたおもちを力の許すかぎりたくさんぶつけ、必ずや貴様の息の根をとめてみせようぞ。

 わっはっはっはっ。わあっはっはっはっ』


「ってなことを」

「なんでオレっちに。あいつを相手にしたのはカスミとマリエ、いや、メル・ドラスとディルドだぞ」

「僕にいわれても」

「ところでネイル。愛の伝道師ってだれのことだ?」

「これ」

「オレっちを『これ』呼ばわりするんじゃねぇ。あと、指さすのもやめろ」

「なに、かりかりしているんですか?」

「人に無断でつまらん『かた(肩)書き』をこさえるんじゃねぇ、っていいたいだけだ」

「ほぉ。愛がつまらないと? 愛がいらないと? 一生、ひとりでいたいと?」

「いや、そこまでは」

「ソラ。人間はね。なんのかんのといっても、愛を求めてさまよう生きものなんですよ。いわば、みんながみんな、愛の伝道師なんです。ただそれを自覚していないか、あるいは心に秘めて表に出さないか、のちがいだけで」

「判ったような判らないようなことをいいやがって。……まぁ、いいや。

 なぁ、ネイル。お前、いつかまた、やつに会うことがあったら、オレっちの返事を伝えてくれねぇか」

「構いませんよ。なんていえばいいんですか?」

「『やなこった』。それだけでいい」

「ふふっ。ソラ、らしい言葉ですね」


 オレっちはかたわらに置いた黒い大袋に手を乗せた。

「なぁ、ネイル。カスミを元にもどせるのか?」

「ソラ、できるかぎりの手はつくします」

「できるかぎり……か」

「すみません。月並みないい方で。ですが、今はこれしかいえません。かんべんしてください」

「……ああ」


「大丈夫だから」


「えっ」

 オレっちの心にカスミの声が伝わった。


「ネイルとセレンのお姉さまに任せよう。きっと元の身体にもどしてくれる。また会えるよ」


「……そうだな。オレっちもそう思う」

 こくり、とうなずいた。


 ごろごろごろ。ごろごろごろ。

 遊んでいるのか、ミーナとミアンがディルドのせなかを転がっている。

(まぁ、オレっちらが立とうが、ね(寝)転ぼうが、ここなら安心だがな)

 せなかから立ちのぼる霊波に守られながら、一路、中央病院へと飛んでいった。


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