第十六話『解けた答え』
第十六話『解けた答え』
ハイネは、苦笑い、みたいな顔をこちらに向けた。
「さすがだね、ネイル君は。
ソラ君。彼のいうとおりだよ。いろいろ考えてみたんだけどさ。これ以外にうまい方法を思いつかなくてね。それで」
「オレっちに自分の始末をしてもらうことにしたってわけか」
「そういうことだね」
「ふぅ」
(死にてぇなら勝手に死にやがれ! ひとさまにめいわくをかけるんじゃねぇ!)
そうどなりつけてやりたいところだが、オレっちはあまりにもいい人なので、本当に口にするわけにはいかない。
「事情は判ったが、……でもどうするよ。
お前の中にカァネスがいるかぎり、また被害者が増えるばかりだぞ」
「そうなんだ。本当、困っているよ」
オレっちとハイネがうでを組んで考えこむ姿勢をとっている中、『そこで、なんですが』とネイルが口をはさんできた。
「なんだ? なにかいい考えでもあるのか?」
「あるなら、ぜひ教えてほしいものだね」
多分、ハイネもだろうが、期待半分、といった感じでたずねている。
「お二人と同様、アホな頭で一生けん命、今までずっと考えていたんですよ。そしたら」
「おい、ネイル。『お二人と同様』は余計だ」
「まぁまぁ。ソラ君。本当なんだからしょうがないよ」
「お前なぁ」
(認めてどうする)
「それで? なにかいい案でも思いついたのかい?」
(ちぇっ。ハイネのやつ、無視しやがった)
「さっき、ソラが光波刀であなたを切ろうとしていましたよね。あのしゅんかん(瞬間)、目からうろこが、ぽろっ、と落ちた思いがしましたよ。
『ああ、なんでこんな簡単なことに気がつかなかったんだろう』って。
いやはや、おはずかしいかぎりで。穴があったら入りたいような気持ちです。学校を卒業したとはいっても、やっぱり自分は『三羽か? 組』なんだと、つくづく」
「うるせぇ!」
オレっちは昔の古傷をさわられたような気がした。
「いいか、ネイル。よく聞けよ。オレっちらがつけた名前は『三羽組』だ。『か?』は、いらねぇ」
「そうはいうけどね、ソラ君」
「なんだよ」
「ぼくたち三人をのぞいた、うちのクラス連中みんなが、『三羽か? 組』って呼んでいたじゃないか。これは否定できない事実だよ」
「人は人。オレっちらはオレっちらだ」
「ソラ君。少数より多数の意見が尊重される昨今だよ」
オレっちらがこんな不毛な会話のやりとりをしているさなか、今までどこへ行っていたのか、ミアンとミーナが姿を現わす。ミアンは両前足の肉球部分をネイルの右足にぴたりとつける。
「にゃあ、ネイルにゃんネイルにゃん」
「おや」
すぐさましゃがむネイル。両前足を立ててお座りするミアン。目線を合わせようとする二体の姿がなんともほほえましい。
「ミアンさん。先生との連絡はとれたんですか?」
「うんにゃ。ばっちしにゃよ」
「用意をしておくからすぐにもどって来い、っていっていたわん」
「そうでしたか。いや、ほっとしました」
「ネイル。一体なにを」
『たのんだんだ?』とつづけようとするも、ミアンのいらぬ言葉でさえぎられてしまう。
「にゃあ。ネイルにゃんら三人って、学生時代は『三ばか組』だったのにゃん?」
「ううん。惜しい」
(なにが? だ)
「まぁ、似たようなものですがね。実際はこうですよ」
ネイルはそういって地面に、『三羽か? 組』と書く。
「当時からソラとハイネはよくりゅう(翼竜)に変化できましたし、僕も霊力を使えば人間の姿で空を飛べましたからね。
あれは……そう。学校のクラスが同じになってからですよ。いっしょに空を飛ぶ機会が多くなりましてね。よく飛びまわったり遊んだりしたものです」
「楽しかったろうにゃ。じゃあ、それで?」
「ええ。ソラが、『どうだ? オレっちら三人でつるまねぇか?』っていいだしたんですよ。思えばあれがきっかけでしたね。いろいろと案を出しあったあげく、ソラを組長とする『三羽組』が生まれました」
「にゃあるほど。でもにゃんでそれが、『三羽か? 組』になったのにゃん?」
「僕ら三人とも、そろって頭が悪かったんですよ。自然とほかの同級生からそう呼ばれるようになりました。ミアンさんが最初いったように、『三ばか組』っていいたかったのでしょうが、あまりにもあからさまですからね。当時、ソラは今よりもけんかっ早かったから、そんな名前を口にして暴力でもふるわれたら、と心配したのかもしれません。とどのつまり、『か?』をつける形に落ちついたってわけです」
「ちなみに一番頭が悪かったのはだれなのにゃん?」
同居相手の言葉に、ネイルが悪のりをはじめた。
「ミアンさんは、だれだと思います?」
「うぅぅんとにゃ……。そうにゃ! ソラにゃんにゃ!」
「ミーナさんは?」
「アタシもソラさんに清き一票だわん!」
ぱちぱちぱち。
(ネイルめ。なにおおげさな『はくしゅ(拍手)』なんぞしていやがる)
「大正解です。もちろん、組長のソラですよ。もうだんとつの」
「あたったにゃあ!」「あたったわん!」
「うるせぇ! いちいちはしゃぐんじゃねぇ!」
オレっちはいっかつ(一喝)した。
「いつまでもつまんねぇ昔話をごたごた並べやがって。やい、ネイル。さっさと目からうろこが落ちた中身を説明しやがれ!」
「おっ。そうでしたそうでした」
ネイルは立ちあがると、顔の前で自分の手と手をあわせた。
(こいつめ。本気で忘れていたな)
「ひとことでいいますとね。
『霊波刀でハイネを切ったらどうか?』
とまぁ、こんな考えがうかんだんですよ」
「ちょっと待て」
あまりの言葉に思わずつっこみを入れてしまう。
「それじゃあよ。オレっちが光波刀でハイネを殺そうとしたのと、たいしてちがわないじゃねぇか。お前、頭がどうかしているんじゃねぇのか?」
ここまでいったとたん、オレっちのひたいに冷や汗が流れた。
(ひょっとして、なぐりすぎたんじゃねぇか。それで頭が。
……だとしたらやばいぞ。へたすりゃあ、セレンの姉ごに殺されちまわぁ)
そんなオレっちの心配をよそに、ちっちっちっ、と人さし指をふるネイル。
「殺すんじゃありませんよ。実体をこわすだけです。霊波刀ならそれが可能です」
「同じことだろう? 実体がこわれりゃあ、人間は死ぬ。あたりまえのことだ」
(ますますおかしなことをいいやがる。だめだな、もうこいつは)
『いいからお前はだまっていろ』との言葉を口にしようとしたその時。
「そうか。その手があったんだね」
ハイネがうれしそうな声をあげた。ふり向いてみれば、やつの目がきらきらと輝いている。
(まずい。こいつまでおかしくなりやがった)
『きょうき(狂気)』は感染するという。ならば次は当然、オレっちとなる。
「あ、あのな。ちょっくら用事を想いだしたわぁ。これで失礼」
「待ってください、ソラ」
二人から遠ざかろうと、くるっ、ときびす(踵)を返したオレっちのかたをネイルがつかんだ。
「どうやら、まだ判っていないみたいですね」
「本当本当。さすが、ぼくたちの組長だけのことはあるよ」
「なんだとぉ! この野郎!」
オレっちはすぐに反応。再びきびすを返して、つかつかと前に進みでる。ハイネをなぐるため、うでをふるおうとした。ところが、なんせ二対一。後ろから羽交いじめにされてしまい、身動きが一切とれなくなる。
「は、放せ、ネイル!」
「ソラ。これから僕が口にする言葉をよぉく考えてみてください。そしたら放してあげますよ」
「なんだよ? 言葉って」
「ずばり。ハイネがディルドに変化するにはどうすればいいんでしたっけ?」
「ふざけんな。そんなこと決まっているだろう。自ば…………ああっ!」
オレっちはやっとネイルとハイネの考えていることを理解した。
(なんで今の今まで気がつかなかったんだろう。やっぱりオレっちって)
「『アホかもな』。今、そう思ったでしょ? ソラ。いや、組長」
「やかましい!」
せなかにくっついている親友にどなった。
「ふふっ。でもまぁ、判ってもらえてよかった」
ネイルはオレっちの身体から両手を放した。
(ふぅ。きつかったぁ。案外、力あるなぁ。こいつ)
かたをまわしながらたずねる。
「だが、本当にうまくいくのか?」
ネイルの代わりに、当の本人が口を開いた。
「今までやったことはないけどね。多分、できると思うよ。
どう? ソラ君。君がやってくれるかい?」
「オレっちがか?」
「カスミ君のこともあるしね。失敗したとしても、君の刀で命を落とすなら本望だよ」
「ハイネ……」
ちょっと感動。いい親友を持ったと心の底から思った。
「判った。オレっちがやる」
「決まりだね。それじゃあ」
ぴょんぴょんぴょんぴょんぴょん。。
ハイネは『こうほうとうりつかいてんとび(後方倒立回転跳び)』、すなわちバク転とやらで間合いをとる。
「ここらへんでいいよね。じゃあ、待っているから始めてよ」
「ハイネ。本当にいいんだな。えんりょはしないぞ」
「ああ。たのむよ」
「判った」
切る相手に、やってくれ、とたのまれた。こんなことはもう二度と起きないだろう。
(おもしれぇや。人間とはいえ、ディルドを切れるんだからよぉ)
オレっちの手に霊波刀が生みだされた。
「行くぞぉ!」
「いつでもいいよ」
オレっちは先ほどと同様、刀を右わきに構えた姿勢でハイネへと走っていく。
たったったったったっ…………。
ハイネは身じろぎひとつせず、オレっちを見つめている。
(さすがだなぁ。それでこそ、ディルドだ。よぉし!)
「どりゃあ!」
オレっちはこんしん(渾身)の力をこめて、やつのおなかを水平にな(薙)ぐ。
ざくり!
(やったぁ!)
実は霊波刀を手にして向かいあった時からぞくぞくしていた。
実際にやってみると、親友を切った『ざいあくかん(罪悪感)』よりも、ディルドを切ったという『こうようかん(高揚感)』のほうがはるかに大きい。鏡をのぞけば、おそらく満面の笑みをうかべている自分の姿をを目にできたはず。
(人の姿をしていても、ドラスはドラス、ってわけかぁ)
オレっちは霊波刀を消すと、後ろをふり向く。
「おっ。ハイネをこうそく(拘束)していた『わっか』が消えちまった」
(ってことは……、カァネスが出てくるのにちがいねぇ!)
そう思っていたら。
「ぐぐぐおぉぉっ!」
とつぜん、うめき声が。だが、ハイネの声じゃない。
「あれは!」
ハイネの身体から黄色い砂のようなものがま(舞)いあがる。空に拡がったその中に顔のようなものがうかびあがった。
「おのれぇ。まさか、どうほう(同胞)に手をかけるとは。
だが……、まぁよいわ。おかげでやっと、きゅうくつなところからぬけだすことができた。……くっくっくっ。それに身体の一部をうばわれた『かたき』を討つことも、な。
……くっくっくっ、あっはっはっは」
黄色い顔に笑いがうかぶ。ちょっとくやしい。だからいってやった。
「そうかな。笑うのはもっとあとにしたほうがいいぜ」
「なに? それはどういう」
「カァネス。お前のその黒い穴のような目で、これから起きることをしっかりと見やがれ。そうすりゃあ、いやでも判るさ」
オレっちの言葉はすぐに現実となる。
ばがぁぁん!
ハイネの身体がばくはつ(爆発)を起こした。くだけ散った身体が拡がっていく。
「が、が、が、がうぅっ!」
ほうこう(咆哮)は変化が終わった証。地面に大きなかげ(影)が映っている。
「こ、これはいつぞやの!」
カァネスの黒い目の先にあるもの。それは。
「そう」
オレっちはにやりと笑う。
「ディルドの完全体さ」
ぐわん。
大よくりゅう(翼竜)は、つばさ(翼)をはためかせた。




