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天空の村5・死神の鎌  作者: シード
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第十六話『解けた答え』

 第十六話『解けた答え』


 ハイネは、苦笑い、みたいな顔をこちらに向けた。

「さすがだね、ネイル君は。

 ソラ君。彼のいうとおりだよ。いろいろ考えてみたんだけどさ。これ以外にうまい方法を思いつかなくてね。それで」

「オレっちに自分の始末をしてもらうことにしたってわけか」

「そういうことだね」

「ふぅ」

(死にてぇなら勝手に死にやがれ! ひとさまにめいわくをかけるんじゃねぇ!)

 そうどなりつけてやりたいところだが、オレっちはあまりにもいい人なので、本当に口にするわけにはいかない。

「事情は判ったが、……でもどうするよ。

 お前の中にカァネスがいるかぎり、また被害者が増えるばかりだぞ」

「そうなんだ。本当、困っているよ」

 オレっちとハイネがうでを組んで考えこむ姿勢をとっている中、『そこで、なんですが』とネイルが口をはさんできた。

「なんだ? なにかいい考えでもあるのか?」

「あるなら、ぜひ教えてほしいものだね」

 多分、ハイネもだろうが、期待半分、といった感じでたずねている。

「お二人と同様、アホな頭で一生けん命、今までずっと考えていたんですよ。そしたら」

「おい、ネイル。『お二人と同様』は余計だ」

「まぁまぁ。ソラ君。本当なんだからしょうがないよ」

「お前なぁ」

(認めてどうする)

「それで? なにかいい案でも思いついたのかい?」

(ちぇっ。ハイネのやつ、無視しやがった)

「さっき、ソラが光波刀であなたを切ろうとしていましたよね。あのしゅんかん(瞬間)、目からうろこが、ぽろっ、と落ちた思いがしましたよ。

『ああ、なんでこんな簡単なことに気がつかなかったんだろう』って。

 いやはや、おはずかしいかぎりで。穴があったら入りたいような気持ちです。学校を卒業したとはいっても、やっぱり自分は『三羽か? 組』なんだと、つくづく」

「うるせぇ!」

 オレっちは昔の古傷をさわられたような気がした。

「いいか、ネイル。よく聞けよ。オレっちらがつけた名前は『三羽組』だ。『か?』は、いらねぇ」

「そうはいうけどね、ソラ君」

「なんだよ」

「ぼくたち三人をのぞいた、うちのクラス連中みんなが、『三羽か? 組』って呼んでいたじゃないか。これは否定できない事実だよ」

「人は人。オレっちらはオレっちらだ」

「ソラ君。少数より多数の意見が尊重される昨今だよ」

 オレっちらがこんな不毛な会話のやりとりをしているさなか、今までどこへ行っていたのか、ミアンとミーナが姿を現わす。ミアンは両前足の肉球部分をネイルの右足にぴたりとつける。

「にゃあ、ネイルにゃんネイルにゃん」

「おや」

 すぐさましゃがむネイル。両前足を立ててお座りするミアン。目線を合わせようとする二体ふたりの姿がなんともほほえましい。

「ミアンさん。先生との連絡はとれたんですか?」

「うんにゃ。ばっちしにゃよ」

「用意をしておくからすぐにもどって来い、っていっていたわん」

「そうでしたか。いや、ほっとしました」

「ネイル。一体なにを」

『たのんだんだ?』とつづけようとするも、ミアンのいらぬ言葉でさえぎられてしまう。

「にゃあ。ネイルにゃんら三人って、学生時代は『三ばか組』だったのにゃん?」

「ううん。惜しい」

(なにが? だ)

「まぁ、似たようなものですがね。実際はこうですよ」

 ネイルはそういって地面に、『三羽か? 組』と書く。

「当時からソラとハイネはよくりゅう(翼竜)に変化へんげできましたし、僕も霊力を使えば人間の姿で空を飛べましたからね。

 あれは……そう。学校のクラスが同じになってからですよ。いっしょに空を飛ぶ機会が多くなりましてね。よく飛びまわったり遊んだりしたものです」

「楽しかったろうにゃ。じゃあ、それで?」

「ええ。ソラが、『どうだ? オレっちら三人でつるまねぇか?』っていいだしたんですよ。思えばあれがきっかけでしたね。いろいろと案を出しあったあげく、ソラを組長とする『三羽組』が生まれました」

「にゃあるほど。でもにゃんでそれが、『三羽か? 組』になったのにゃん?」

「僕ら三人とも、そろって頭が悪かったんですよ。自然とほかの同級生からそう呼ばれるようになりました。ミアンさんが最初いったように、『三ばか組』っていいたかったのでしょうが、あまりにもあからさまですからね。当時、ソラは今よりもけんかっ早かったから、そんな名前を口にして暴力でもふるわれたら、と心配したのかもしれません。とどのつまり、『か?』をつける形に落ちついたってわけです」

「ちなみに一番頭が悪かったのはだれなのにゃん?」

 同居相手の言葉に、ネイルが悪のりをはじめた。

「ミアンさんは、だれだと思います?」

「うぅぅんとにゃ……。そうにゃ! ソラにゃんにゃ!」

「ミーナさんは?」

「アタシもソラさんに清き一票だわん!」

 ぱちぱちぱち。

(ネイルめ。なにおおげさな『はくしゅ(拍手)』なんぞしていやがる)

「大正解です。もちろん、組長のソラですよ。もうだんとつの」

「あたったにゃあ!」「あたったわん!」

「うるせぇ! いちいちはしゃぐんじゃねぇ!」

 オレっちはいっかつ(一喝)した。

「いつまでもつまんねぇ昔話をごたごた並べやがって。やい、ネイル。さっさと目からうろこが落ちた中身を説明しやがれ!」

「おっ。そうでしたそうでした」

 ネイルは立ちあがると、顔の前で自分の手と手をあわせた。

(こいつめ。本気で忘れていたな)

「ひとことでいいますとね。

『霊波刀でハイネを切ったらどうか?』

 とまぁ、こんな考えがうかんだんですよ」

「ちょっと待て」

 あまりの言葉に思わずつっこみを入れてしまう。

「それじゃあよ。オレっちが光波刀でハイネを殺そうとしたのと、たいしてちがわないじゃねぇか。お前、頭がどうかしているんじゃねぇのか?」

 ここまでいったとたん、オレっちのひたいに冷や汗が流れた。

(ひょっとして、なぐりすぎたんじゃねぇか。それで頭が。

 ……だとしたらやばいぞ。へたすりゃあ、セレンの姉ごに殺されちまわぁ)

 そんなオレっちの心配をよそに、ちっちっちっ、と人さし指をふるネイル。

「殺すんじゃありませんよ。実体をこわすだけです。霊波刀ならそれが可能です」

「同じことだろう? 実体がこわれりゃあ、人間は死ぬ。あたりまえのことだ」

(ますますおかしなことをいいやがる。だめだな、もうこいつは)

『いいからお前はだまっていろ』との言葉を口にしようとしたその時。

「そうか。その手があったんだね」

 ハイネがうれしそうな声をあげた。ふり向いてみれば、やつの目がきらきらと輝いている。

(まずい。こいつまでおかしくなりやがった)

『きょうき(狂気)』は感染するという。ならば次は当然、オレっちとなる。

「あ、あのな。ちょっくら用事を想いだしたわぁ。これで失礼」

「待ってください、ソラ」

 二人から遠ざかろうと、くるっ、ときびす(踵)を返したオレっちのかたをネイルがつかんだ。

「どうやら、まだ判っていないみたいですね」

「本当本当。さすが、ぼくたちの組長だけのことはあるよ」

「なんだとぉ! この野郎!」

 オレっちはすぐに反応。再びきびすを返して、つかつかと前に進みでる。ハイネをなぐるため、うでをふるおうとした。ところが、なんせ二対一。後ろから羽交いじめにされてしまい、身動きが一切とれなくなる。

「は、放せ、ネイル!」

「ソラ。これから僕が口にする言葉をよぉく考えてみてください。そしたら放してあげますよ」

「なんだよ? 言葉って」

「ずばり。ハイネがディルドに変化へんげするにはどうすればいいんでしたっけ?」

「ふざけんな。そんなこと決まっているだろう。自ば…………ああっ!」

 オレっちはやっとネイルとハイネの考えていることを理解した。

(なんで今の今まで気がつかなかったんだろう。やっぱりオレっちって)

「『アホかもな』。今、そう思ったでしょ? ソラ。いや、組長」

「やかましい!」

 せなかにくっついている親友にどなった。

「ふふっ。でもまぁ、判ってもらえてよかった」

 ネイルはオレっちの身体から両手を放した。

(ふぅ。きつかったぁ。案外、力あるなぁ。こいつ)

 かたをまわしながらたずねる。

「だが、本当にうまくいくのか?」

 ネイルの代わりに、当の本人が口を開いた。

「今までやったことはないけどね。多分、できると思うよ。

 どう? ソラ君。君がやってくれるかい?」

「オレっちがか?」

「カスミ君のこともあるしね。失敗したとしても、君の刀で命を落とすなら本望だよ」

「ハイネ……」

 ちょっと感動。いい親友を持ったと心の底から思った。

「判った。オレっちがやる」

「決まりだね。それじゃあ」

 ぴょんぴょんぴょんぴょんぴょん。。

 ハイネは『こうほうとうりつかいてんとび(後方倒立回転跳び)』、すなわちバク転とやらで間合いをとる。

「ここらへんでいいよね。じゃあ、待っているから始めてよ」

「ハイネ。本当にいいんだな。えんりょはしないぞ」

「ああ。たのむよ」

「判った」

 切る相手に、やってくれ、とたのまれた。こんなことはもう二度と起きないだろう。

(おもしれぇや。人間とはいえ、ディルドを切れるんだからよぉ)

 オレっちの手に霊波刀が生みだされた。

「行くぞぉ!」

「いつでもいいよ」

 オレっちは先ほどと同様、刀を右わきに構えた姿勢でハイネへと走っていく。

 たったったったったっ…………。

 ハイネは身じろぎひとつせず、オレっちを見つめている。

(さすがだなぁ。それでこそ、ディルドだ。よぉし!)

「どりゃあ!」

 オレっちはこんしん(渾身)の力をこめて、やつのおなかを水平にな(薙)ぐ。

 ざくり!

(やったぁ!)

 実は霊波刀を手にして向かいあった時からぞくぞくしていた。

 実際にやってみると、親友を切った『ざいあくかん(罪悪感)』よりも、ディルドを切ったという『こうようかん(高揚感)』のほうがはるかに大きい。鏡をのぞけば、おそらく満面の笑みをうかべている自分の姿をを目にできたはず。

(人の姿をしていても、ドラスはドラス、ってわけかぁ)

 オレっちは霊波刀を消すと、後ろをふり向く。

「おっ。ハイネをこうそく(拘束)していた『わっか』が消えちまった」

(ってことは……、カァネスが出てくるのにちがいねぇ!)

 そう思っていたら。

「ぐぐぐおぉぉっ!」

 とつぜん、うめき声が。だが、ハイネの声じゃない。

「あれは!」

 ハイネの身体から黄色い砂のようなものがま(舞)いあがる。空に拡がったその中に顔のようなものがうかびあがった。

「おのれぇ。まさか、どうほう(同胞)に手をかけるとは。

 だが……、まぁよいわ。おかげでやっと、きゅうくつなところからぬけだすことができた。……くっくっくっ。それに身体の一部をうばわれた『かたき』を討つことも、な。

 ……くっくっくっ、あっはっはっは」

 黄色い顔に笑いがうかぶ。ちょっとくやしい。だからいってやった。

「そうかな。笑うのはもっとあとにしたほうがいいぜ」

「なに? それはどういう」

「カァネス。お前のその黒い穴のような目で、これから起きることをしっかりと見やがれ。そうすりゃあ、いやでも判るさ」

 オレっちの言葉はすぐに現実となる。

 ばがぁぁん!

 ハイネの身体がばくはつ(爆発)を起こした。くだけ散った身体が拡がっていく。

「が、が、が、がうぅっ!」

 ほうこう(咆哮)は変化へんげが終わったあかし。地面に大きなかげ(影)が映っている。

「こ、これはいつぞやの!」

 カァネスの黒い目の先にあるもの。それは。

「そう」

 オレっちはにやりと笑う。

「ディルドの完全体さ」

 ぐわん。

 大よくりゅう(翼竜)は、つばさ(翼)をはためかせた。


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