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天空の村5・死神の鎌  作者: シード
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第一話『雅羽(がう)』‐②

 オレっちはアリアと肩を並べる。とりあえずはあいさつでもしようかと顔を横に向けた。

「よぉ、おっさん。元気かい?」「……」

「どうした? おっさん」「くぉーっ?(……ソラ。誰に向かってものをいっている?)」

「あれぇっ。ひょっとして、きげん悪くしたぁ?」

「くぉーっ(ソラ。たとえドラスであろうと、先輩に対するその口の利き方、断じて許せぬ)」

 くわっ!

 開いたアリアの口から、間髪いれずに霊火の炎が。

 ぶわああっ!

「ぐぉっ!」とオレっちが思わず声をあげれば、「うわっ!」とネイルも驚いたような声を。

 ぼおおおっ!

 火だるまになって墜ちていくオレっちら。霊覚交信で話しあう。

「ネイル、すまねぇな。アリアのおっさんがここまで短気だとは思わなかったよ」

「ふふっ。いや、これはこれで結構楽しい」「ははっ。奇遇だな。オレも、だよ」

 霊火の炎とはいっても、ぴんからきりまである。アリアが本気なら今頃、オレっちらは大やけどのはず。注意程度に放ったものだからこそ、こうやって笑いあうこともできるというわけ。

(口調はきつくても、気のいいおっさんだな、アリアは)

 オレは真っさかさまに墜ちつつ、高速回転。アリアの霊火を消し去ると、地上すれすれに体勢を立てなおして再び上昇。

「悪かったよ、おっ……、いや、アリアさん」

(ドラスのオレっちがアーガに気をつかう必要はこれっぽっちもねぇが、まぁ、相手は古株だ。おとなしく下手したてに出てやるとするか)

「くぉーっ(どうやら少しは言葉の使い方が判ったようだな)」

「アリア」

 セレンの姉御が口を開いた。

「お遊びはそれぐらいにしなさい。ネイル。君も、だ。ことは一刻を争う」

「先生。だったらお二人でやればいいじゃないですか。簡単でしょ?」

「ネイル。君は自分が見習いだという自覚が足りない。これは修行の一環だ」

「先生」「なんだ」「それで本音は?」

「面倒だし、疲れるし、早く研究に戻りたいし、それに精神的苦痛がひどいし……」

「先生、正直すぎます。……それじゃあ、先輩にお任せすれば?」

「ネイル。それはだめだ」

 親友のしたう先輩呪医は、目を見開いて即座に拒否した。

「何故です?」

「面倒だし、疲れるし、早くテントに戻りたいし、それに精神的にこたえるし……」

「先輩まで……。ふぅ。判りました。僕が行ってきます」

 ネイルの言葉に、院長とギィア呪医は、ほっとしたような顔でお互いを見ている。

「セレン、聞いたか。どうやら、我らの温かな思いやりが彼に届いたようだ」

「そうらしい。本当によかった」

「それじゃあ、先生」「うむ。行ってこい」

「じゃあ、行くぜ。ネイル」「ソラ、お願いします」


「ネイル。お前も大変だな」

「いつものことですよ。もっとも二人がかりで、っていうのは、さすがにこたえましたけどね」

「仲がよさそうじゃねぇか。ネイル。ひょっとして、あいつら」

「あいつら呼ばわりはやめてください。仮にも僕の先生や先輩ですよ」

「悪かったよ、ネイル。だが、あの二人、結構いいとこまでいくんじゃねぇか」

「どうでしょうねぇ。僕としても先生には幸せに……、うん? ソラ、あれを!」

「なに? うわっ! カマギラが穴からどんどん出てきやがる!」

「やっぱりおかしいですね。時期的に見ても繁殖にはまだ早いような」

「なにをのんきなことを。繁殖時期でもあんな数になんか絶対にならねぇぜ」

「それに大きさもはんぱじゃありませんね。となると、考えられるのは」

「誰か呪術師がからんでいる。そういいたいのか?」

「ええ。その可能性が極めて高いと思います」

「まぁ、理由はどうであれ、殲滅せんめつはしねぇとな。住居区が近いから、ほおっておくと村人の多くに迷惑がかかっちまう」

「まずいですよ、それは。絶対に」

「どうする? オレっちの霊火弾で一気にやっちまうか?」

「いいえ。このあと、ラミアさんの元へお務めに戻るのでしょう? だったら霊力は温存しておかなきゃ。ここは僕がやることにします」

「一体なにをやるつもりなんだ」

「即時殲滅を考えるなら方法は一つだけ。ソラ。僕が離れたら、すぐにこの場から退避してください」

「ネイル。お前、まさか」

「ええ。あれをやるつもり……、あっ!」「どうした? あっ!」

 ぎりぎりぎり。ぎりぎりぎり。ぎりぎりぎり。ぎりぎりぎり。…………。

 地上に現われた群れの一部が、こちらへ飛んできた。

「ひぃ、ふぅ、みぃ、……。ソラ。軽く二十匹はいますよ。地上へ攻撃をかける前に、こっちを先にかたづけないと」

「ネイル。あいつらならオレっちに任せな」

「数が多すぎます。大丈夫ですか?」

「けっ。男に二言はねぇよ」

 くわっ。

 オレっちは開けた口から霊火弾を放つ。

 ぼがっ! ひゅぅぅ。

「あれっ。あたりませんよ」

「ネイル、黙って見ていろ。……爆破!」

 ばがぁん! ばがぁん! ばがぁん! ばがぁん! …………。

「カマギラが……、次々と墜ちていく……」

「どうだ、ネイル。オレっちが放つ霊火弾のすさまじさは。爆発で散乱した一つ一つにもかなりの力がある。カマギラにぶつかれば、ほら、あのとおりだ」

「今の爆発はどうやって?」

「オレっちの吐く霊火弾にはな。意志がこめられているのさ。それがこちらからの遠隔操作を可能にしているってわけだ。爆破させることはもちろん、移動方向を変えることもできる。カマギラに風穴を開けたあとも、力が残っていれば次々と別なカマギラを襲わせることだって簡単にやれる」

(人間の姿なら、ここで、えへん、と威張っているところだろうな)

「すごいですね。それじゃあ、もっとたくさんいても何発か発射すればたちどころに」

「いや、そうはいかねぇ」

「どうしてです?」

「複数発射するのは可能だよ。だが、遠隔操作で制御できるのは一つだけなのさ。だからへたすりゃあ、霊火弾どうしがぶつかりあって消滅しないともかぎらねぇし、場合によっちゃあ、こっちが襲われることだってある」

「そういう制限つきの能力なんですか?」

(つまんねぇことを聞きやがって。……ふぅ)

「っていうか……。いわせんなよ。お前だってうすうす気がついているんじゃねぇのか。オレっちの頭じゃ無理なんだよ。いくつもの霊火弾を操るなんて」

「なるほど……。すみません、組長。変なことを聞いたりして」

「てめぇ。学生時代と今。どっちの意味でそれを使ってやがる?」

「どっちだっていいじゃないですか。組長は組長なんだし」

「よくねぇ。その二つじゃえらい違いだ」

「いまさら気にしなくても……、おや。とかなんとかいっている間に」

「ひゅう。ほらほらぁ。ネイル、全部仕留めてやったぜ。さぁ、お次はお前の出番だ。親友のオレっちの顔をつぶさないようにしっかりとやんな」

「努力はしますよ」

 ネイルは背負い袋を肩からはずして、右手に持つ。

「あっ。ネイル、行く前に一つだけ聞かせてくれねぇか」

「なんです? ソラ」

「さっき、院長たちがいっていた、『精神的苦痛』って一体なんなんだ?」

「ああ、そのことですか。……ほら、『雅羽』って、実体、霊体を問わず滅ぼしてしまうじゃありませんか。しかも、殲滅範囲は地上のみならず、空や地下深くまで及びます。多くの命を奪うことから、そういったんですよ」

「……ネイル。お前は大丈夫なのか?」

「平気、とまではいいませんけどね。呪術師をめざした時から、この手が血にまみれることは覚悟していましたよ。それが村全体を守ることにつながるというなら、どんなお務めでも、いといはしません」

「ネイル……」

 言葉がつづかなかった。それくらい、親友の言葉が心に刺さった。

(ネイル、なにがあっても、オレっちはお前の味方だからな)

 黙りこんでいるオレっちの耳に声が届く。

「ソラ、それじゃあ、行ってきます」

 とぉっ!

 ネイルはカマギラがうごめく地上へと飛びおりた。その場から少し離れた場所まで移動したオレっちは、なりゆきを静かに見守る。やつの身体がカマギラの頭近くまで接近した、と思ったその時。


雅羽がう!」


 ずばばばぁん!


 呪の言葉とともにネイルの身体が蝶の四枚翅のような形へと変化した。七色どころか、ありとあらゆる色が浮かんでは消えていく。あざやかなその光の正体は四方へと拡がる霊力の光芒。カマギラたちのいる周りの地上すべてを覆いつくす。

「す、すげえや! さすがはネイル」

 光芒が収まった時、カマギラは一匹残らず、大地の白っぽい土と同化していた。

「さぁてと。これからが面倒だな」

 ネイルも土の下に埋まっているはず。気を失っているとみえて霊覚交信にも反応がない。ここらあたりに落ちたはず、と見まわしてみると、やつが手にしていた背負い袋が目に映った。中身は、と見れば、『シャベル』が一本。オレっちは、ひぃ、ふぅ、いいながら土を掘りおこし始めた。

 結局、土まみれになったネイルを助けだしたのは、それから一時間ほどあとのこと。

「ぷっぷっ。やぁ、ソラ。おはよう。ぷっ」

 これが、目を覚ましたネイルがオレっちに放った第一声。

「大丈夫か?」「なんとか。ぷっ、ぷっ。土が口や目に……、ぷっ」

 目をしばつかせ、顔や衣服についた土を手で払うネイル。

「いつまでもここにいたってしょうがない。さっさと帰ろうぜ」

「ぷっ、ぷっ。……ふぅ。そうしますか。先生たちは?」

「オレっちが、『探しておくから』、っていったら、さっさと帰ったよ」

「すると、ソラ一人で僕を……。迷惑をかけてすみません」

 ネイルはぺこりと頭をさげる。こいつはこういうところが素直で可愛い。首元まであたりまで伸びた黄色い髪と色白の顔が女っぽさを感じさせる。白い作務衣と羽織っている白衣もそれに拍車をかける。だからなのか、多少、口が悪くても、まぁ、いいや。と許してしまう。困っていれば助けてしまう。気のおけない、かまいたくなる、なんとも不思議な男だ。

「いいってことよ。お前とは長いつきあいだしな」

「持つべき者は親友なり……か。ありがたいことです。では戻りましょう」

「ああ、帰ろう」

 こうして、がちゃがちゃと、小うるさかった生きものたちは全て消えた。なきがら、みたいになった土の拡がる大地に静寂が訪れる。聞こえるものがあるとすれば、空に舞う風と風にふかれる土ぼこりの音だけ。そんなさみしげな景色を背に、オレっちとネイルはその場から飛び去っていった。


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