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天空の村5・死神の鎌  作者: シード
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第一話『雅羽(がう)』‐①

 第一話『雅羽がう


 それから一時間も経たないうちに、オレっちは自分の背中に親友を乗せて飛んでいた。

「すみません、ソラ。たまたま病院にいたばかりに迷惑をかけて」

「ぐぉぉっ!」

「ソラ……。悪いけど、啼き声では言葉が判りません。前にもいったとは思いますが、ガン・ドラスになっている時は霊覚交信を使ってくださいよ」

「ぐぉ?(相変わらず面倒くさいやつだ。……ネイル。こんな感じでいいんだろう?)」

「はい、大丈夫です。あと、啼き声は出さなくてもいいですから」

「判ったよ。……これならどうだい?」

「ずいぶんと聞きやすくなりました。やっぱり、人の言葉で話せるっていうのはありがたいものです」

「オレっちとしては、どっちの言葉も理解してもらいたいところだがな。

 あっ、それはそうと、お前、呪医だろう? こんなこともやらなきゃいけねぇのかい?」

「呪医は呪術師の中でも高位の実力がある者だけがなれるお務めの一つです。呪術師ができることであれば当然、こなせなければなりません」

「大変だな、お前も。それに忙しそうだし」

「見習いゆえの忙しさ、ってやつですよ。ソラだって同じようなものでしょう? それなのにわざわざ乗せてくれて」

「ネイル、気にしなくてもいいさ。姉御からも頼まれているし、な」

「本当、お二人には感謝します」

「しかし、なんだな。姉御にも困ったもんだ。お昼がとっくにすぎているっていうのに、おしゃべりにうつつをぬかしてなかなか戻ってきやがらねぇ。オレっちが病院へ来たのもそれが理由だし、やっと会えたと思ったら今度は、『お務めの方はあたいに任せて、お前はネイルに協力しな』、だろう? まったく手に負えねぇや」

「レミナさんとの話に盛りあがっていましたからね。無理もありませんよ」

「いくら盛りあがっていたって……。あっ、それはそうと、セレンの姉御、いや、院長が男と二人っきり、なんて珍しいじゃねぇか。一体どうして?」

 こう見えたってオレっちもお年頃。浮いた話の一つもしたい。なのに、ネイルから返ってきた言葉は、素っ気ない、の一言につきる。

「ソラ。男とはいっても相手はギィアさんですよ」

「ギィア? ああ、院長が火炎竜にやられた時、手あてをした?」

「そう。僕の先輩です。歳は(セレン)先生より一つ上でしてね。医療の腕は細菌関連以外なら、あの人にかなう者はいません。頼りになる呪医です」

「お前はどのくらいなんだ?」

「ギィアさんに較べれば、まだまだ駆けだしですよ。腕がどうのこうの、といえる立場にはありません」

「でもさ。お前だって見習いになってから、かれこれ五年ぐらいは経っている……」

(し、しまったぁ!)

 後悔先に立たず。禁断の言葉だって気をつけていたのに、よりにもよって当の本人の前で吐いちまった……。

 案の定、ネイルは打ちひしがれたような声を発する。

「ソラ……。それは、『いわない約束』ってやつですよ」

「ネイル、かんべんな。悪気でいったんじゃねぇんだ。でも……、そうか。だからこんなことにも駆りだされるってわけか。苦労しているんだな、お前も」

「ふふふ。まったくです」

 ネイルの力ない笑い声を耳にして、あわれを感じずにはいられなかった。思わず目がうるんできやがる。

(やべぇ。まだ若いってぇのに、最近、何故か涙もろくなっちまったぜ)

 とかなんとかやっているうちに気がつけば。

「おい、ネイル。しゃんとしろ。そろそろ目的地の上空だぞ」


 人が住む地域は、村の、というよりは、自由の森の、一角にある。その近くでなにやら巨大爬獣はじゅうが多く発生したとの知らせが村役場に届いたらしい。ただそれが事実としても村の警護隊が相手にできるのは、せいぜい人ぐらい。そこで呪術師を向かわせては、との結論に達したとのこと。人選を考えた末、白羽の矢に立ったのが、なにをかくそう、中央病院の院長を務めているセレンの姉御、つまり、ネイルの師というわけだ。


「とはいっても、ここにはただ森が拡がっているだけの……、えっ!」

 オレっちの眼下には草木一本生えていない、荒涼とした大地が現われた。精気を失ったかのような白っぽいさらさらとした土が、風にふかれて、うずを巻いている。

「そんなぁ。前に来た時には、もっと青々とした」

「ソラ、もっと下を飛んでください。そうすれば理由がはっきりとしますよ」

「下へ、か? 判った」

 びゅぅん!

 一気に降下。地上が近づくにつれ、たくさんのうごめくものの姿が視界に飛びこんできた。

「な、なんだ。あんなにカマギラが」

「すごい数ですね。あれだけいればここらあたりの森林や、そこに生息する生きものが消えてしまったのもうなずけます。きっと彼らのえじきとなって食いつくされてしまったのでしょう」

「カマギラか。外見は緑色の細い身体で、どちらかといえば草食、みたいな感じなのによ。実際は鋭い牙とよく切れる鎌を武器に持つ雑食性の生きもの。見かけで判断しちゃいけないっていうお手本みたいなやつだよな。だが……オレっちの記憶に間違いがなければ、繁殖力はそれほど強くはなかったはず。だから、今までなんの問題も起きなかったんだ。それなのになんで?」

「『なんで?』って聞かれましても。僕は生物学者じゃありません。答えようがないですよ」

「そりゃそうだ。でも、よくこの場所が判ったな。直線距離でいえば住居区に近いといえないこともないが、歩くには『けものみち』をとおらなきゃならないんだぜ。もちろん、アーガに乗って飛んでくりゃあ、簡単にたどりつけるが……、人が口にできる食べものが実っているわけでもなし。そうまでしてここに来る理由なんて一つもないだろう?」

「ああ、それなら。実は、最初に見つけたのは先輩なんです」

「ギィア呪医か。確かテント移動をしながら医療活動をつづけているっていう……。

 そうか。それでか」

「ええ。近くまで来たので久しぶりによってみたんだそうです。そしたら」

「大量発生したカマギラのすみかになっていたってわけか。でもよ。村役場から頼まれたのは院長だろう? だったら自分でやればいいんじゃないか? なんでお前に」

「とりあえず様子を確かめようと、先生とギィアさんはアリアに乗ってここへ調査に来たんですよ。ところが予想をはるかに上まわる数。死を覚悟してかからなければ、というわけで」

「お前に出番が与えられたってわけか。やれやれ、ご苦労さん」

「ええ。見習いの悲しさ。上からやれ、といわれれば断わるわけにもいかず……。

 あっ、ソラ。あそこに飛んでいるのは先生たちじゃないでしょうか」

「みたいだな。二人が乗っているのは……、おっ、アリアの旦那だ。久しぶりだなぁ」

「久しぶり? ソラはラミアさんの筆頭補佐ですよね。それなのに?」

「あのおっさん。院長専属ってこともあってか、なかなかアーガの森に顔を出さねぇんだよ。お務めがない時は、病院の裏庭に居座ったままでさぁ。仲間うちでも毎日つらをあわせているのは、せいぜい、お節介やきのミレイおばさんぐらいじゃねぇかな。

 ……どれ、ちょっくら声でもかけてみるとするか」

 びゅうん!


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