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天空の村5・死神の鎌  作者: シード
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プロローグ『ドラスの血をひく者』

 プロローグ『ドラスの血をひく者』


 小屋のドアすぐ近くには、霊翼竜のアーガが一匹、翼を休めていた。『聖竜』なんて仰々しい呼ばれ方をしちゃあいるが、オレっちにとってはただの仲間。それ以外の何者でもない。

「おい、クリス。(ラミアの)姉御は?」

「くぉーっ(まだ病院から戻ってこないよ)」

「またおしゃべりに夢中になっているのか。しょうがねぇな」

 目の前にある丸太小屋。アーガの使い手は代々、ここで寝泊まりしているという。ついこの間までは黒ずみと腐敗で、いつ、ぐしゃ、ときてもおかしくない状態だった。姉御の要請を受けて村長を始めとする村役場の面々が視察に来たが、さすがにこれはまずい、と思ったのだろう。大がかりな修繕を施すことが決められた。どこまでやれるのか、といささか不安だったものの、終わってみれば、修繕した、というよりは、建てかえた、といった方がぴったりな、生まれかわった感のあるたたずまいに。色あざやかな木目と、どこからともなくただよってくる真新しい木の香りが実にいい。これからも末長く使えるのに違いない。

 オレっちは、アーガの使い手を務めている姉御、ラミアの筆頭補佐だ。姉弟きょうだいではないが、一応、信頼されている、とは思う。午後から配送する荷物の準備がすべて整ったのに、何故かなかなか現われない。それで迎えにきたってわけだ。

 とんとん。とんとん。

 返事がない。扉には鍵がかかっていなかった。そぉっと開けて小屋の中をのぞいてみる。部屋の真ん中には大きな木のテーブルが、でん、とすえられていて、置かれてある椅子は全部で六個。ただし、これ全てが埋まったところを見たことがない。右側の壁には窓があり、その下には台所と、まぁ、小屋にはよくあるながめだが、そのどこにも人影はいない。

「入らせてもらうぜ」

 ずぅっと中まで入る。奥にも部屋があって、風呂や洗面所などの水場、使い手専用の個室が並んでいる。閉まっているどのドアをたたいても、声をかけてもなんの反応もない。クリスのいうとおりだ。留守と認めざるをえないだろう。

 洗面所のドアが開いていた。鏡がかけられている。ふと自分の顔を見た。逆立っている赤茶けた髪。やせたほお。ギラギラとした目。自分でいうのもなんだが相も変わらずよくない人相。とはいっても、やせているからといえば、それまでだが。着ている作務衣は、右は青で左は白の二色もの。さっぱり感はあるものの、買ったあと、いくらなんでも目立ちすぎかと後悔した。ところが、赤の他人はともかく、オレっちの周りにいるやつらは、この程度の装いでは表情一つ変わらない。会話のネタにもなりやしない。だから、自然と気にすることもなくなった。

 姉御とはいえ、女人にょにん一人が住んでいる小屋。留守だと判った今、いつまでもいるわけにはいかず、早々と小屋の外へ出た。

「ふぅ。やっぱり行くしかねぇか」

(配送をいたずらに遅らせるのもなんだしな。それにこちとらだって、さっさとすませて早く自由の身になりてぇや。となれば、だ。面倒くさがらず出むくのが得策だろう)

 ここはアーガの森。森の周りはまるで防壁のごとく、他の森よりも背の高い木がすきまなく連なっている。囲みの中はといえば、まぁ、一口でいうなら小さな草花が生い茂る野原だ。木々はまばらに生えていて、アーガが足をおろしやすい岩もたくさん点在。森全体が一つの大きな広場といってもおかしくない。あと、『森』とくれば『水』、というように、土や草木はもちろんのこと、そこに棲む生きものにとっても、水はなくてはならないものだ。フーレの森でもそうだが、使い手の小屋も水辺の近くと決まっている。自由の森ほど大きくはないものの、この小屋の前にも霊水をたたえた湖が横たわっている。水面に映るは自分と自分の後ろにある使い手の小屋。だが、その小屋より目立つものも映っている。

 小屋の近くには、大昔からとは聞いちゃあいるが、茶色がかった白っぽい岩のブロックが高く積みあげられている。さながら『天空の村』の監視塔とでもいわんばかりの、そんなおもむきのある造りだ。何故こんなものが、と最初はさっぱり判らなかった。だが、今では判る。これは自分と同じ力を持つ者のためにあるのだと。

 てっぺんまであがろうと、石から石へと飛びうつった。

 すたっ。

「ふぅ。やっとたどりついたか。……ははっ。ここからの景色は最高だな」

 高さがあるため、頂きからのながめは雄大だ。

「今日もいい天気だ。姉御、待っていろよ。今、そっちへ行くからな」

 ずばっ!

 オレっちは、さっそうと頂きの岩を蹴ると、四肢を広げた姿で飛びおりた。

竜身変化りゅううしんへんげ!」

 呪の言葉を放つや否や、白銀しろがねの霊波が身体を包む。一瞬、ではあるが、宙に張りついた状態になる。と同時にオレっちの背面から光が放たれ、空に巨大な霊翼竜の白い影を映しだす。その影へ今度はオレっちが吸いこまれるように消えていく。

「ぐっ、ぐっ、ぐおぉぉっ!」

 影は実体へと変化する。オレっちは霊翼竜アーガの前身、大翼竜『ドラス』となった。

「ぐぉぉっ!(行くぞぉ!)」

 オレっちは二つの身体を持つ。一つはいわずと知れた人間。もう一つはドラスだ。人を主体とする身体の中にドラスの細胞と血が入りまじっている。まぁ、先祖から受け継がれし、子孫泣かせの迷惑な財産、といえないこともない。ドラスにもいくつか種類がある。オレっちの変化するドラスは、『ガン・ドラス』。口から吐く霊火弾が切り札だ。

 白銀色に輝く大翼竜となったオレっちは二枚翼をはためかせ、いざ、中央病院へと向かった。


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