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第28話 邪道化師

「————!!!」


 計の喉が掛け値なしに干上がった。


 雷に自ら突っ込む無謀に怯んだからでもそれを受けてなお立ち続けるタフネスに驚いたからでも、必死の状況であるはずなのに狂笑きょうしょうを上げる歪みに気味の悪さを感じたからでもない。


 捕食者ヘビであるはずの自分が獲物に一瞬でも恐怖した事実に怒りを覚えたからだ。


 ニゴオ"ォ"ォ"、と何もなかったかのように照光が外笑げしょうを向けたかと思えば、土煙と爆炎を巻き上げながら猛然とこちらに駆け出した。


 ジャリ、という音が足許から聞こえた。それが自分が一歩下がった音だと————全無能にして無運枠ラックラックである照光を警戒したが故の行動だと認識するのに時間はいらなかった。


「チクショウが。ナメてんじゃねーよゴキブリ野郎があぁあ!」


 それを否定するように、威嚇するように叫んだ計は周囲にある鉄塊のすべてを背後に従え、いつでも発射できるように攻撃体制を取る。その様は一万の銃兵を従える猛将さながらであり、はたから見ればたった一人を相手取るのに過剰すぎる戦力だ。


 対して照光は両腕を上げて構えを取る。ボクシングのファイティングポーズであるそれを見た計の脳裏に、『照光は幼少期よりあらゆる格闘技の修練を積んでいるが無能故にどれも人並みに上達することがなかった』旨の記録が浮かぶ。


 そんな錆びた剣を構えるほど前も後ろも見失われていることに足許で蠢くアリを見るような哀れみを覚え、同時にそれを自分に向けることへの冒涜を感じた。


「死ね」


 そうつぶやき、鉄塊による絨毯爆撃を決行する。


 この時、計は気づかなかった。照光の唇から「第二演目」という言葉が漏れたことに。


 それ・・が起こったのは、その直後のことだった。






 空気が破裂し、前へ撃ったはずの無数の鉄塊がすべて後ろに吹き飛んだのだ。






「……………………………………………………………………………………はっ?」


 何秒沈黙していたかも分からず、それを破った一言も胡乱なものでしかなかった。


 自分はたしかに鉄塊たちを照光に向けて一斉に発射した。なのになぜ、それらは計の後ろで転がっているのだ?


「…………ッ!」


 ニゴオ"ォ"ォ"、と相変わらず照光は歪笑わいしょうを浮かべながら弾丸の如く駆け寄って来る。ゾアッ!! と身体中で鳥肌がスタンディングオベーションした時には既に第二波の用意をしていた。


 ——まさか……極限状況になってネクストに覚醒したってか!?

 ——いやだがありえねー。ネクストへの覚醒には突出した才能の所持が最低条件だ。

 ——あんな一般人未満のゴキブリ野郎にそんな器があるわけがねー!


 とりあえずどうやって今のを対処したのか見るためにもう一度絨毯爆撃を決行した。


 そして、計はその行いを後悔することとなった。


「————……ウソ……だろオイ……」


 愕然と。まさに顎が外れそうなほど口を大きく開けて驚いた。


 鉄塊が雨の如く降る中で照光はシャドーボクシングをしていた。それは十何年も格闘技をやっている人間とは思えないほど肩に力が入って型も統一感がなく、『キックボクシング』のジーニアスである計からしたら哀れなほど稚拙なものだった。


 だがその中でも目を見張る凄まじいものがあった。いや、凄まじいどころではない、それは明らかに常軌を逸していた。


 腕の突きと戻しが目に見えないほど速いのだ。


 それは魔龍の腕ドラゴンインパクトの運動性能、天龍の脚ドラゴンブラストの安定性をフル活用して為し得たものだと即座に理解できた。そしてそんな拳を振るうたびに空気の破裂音が響き鉄塊は計の後ろへと転がっていく。


 そう。






「拳を突き出した際の空気圧、……空気砲の要領で撃ち落としてんのか! それもあの数の鉄塊すべてを撃ち落とすほどの手数とパワーでだと!?」






 ガシャガシャガシャン、とすべての鉄塊が転がりきった音を最後に、照光はもう一度笑ってみせる。


「さあさあいかがだったでしょうか。虹の道化師レインボーピエロの第二演目、【陣風連拳ブロウブロウ】の威力は!? これからどんどんお見せするのでどうぞお楽しみくださいやがれってんだ! ニギシャシャ! ニギャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャッ!」


 善意も悪意もすべてをないまぜにした虚笑が、計の中の警鐘を徹底的に叩き鳴らした。


 本能が叫んでいる。アレは破滅を導く邪道化師イビルピエロであり、早々に破壊する必要があると。


 初めて快楽である破壊を義務と感じ戸惑いを隠せない計は、とりあえず電磁力を利用したバックジャンプで照光から大きく距離を取り、その道中で地面に転がる鉄塊を右腕に集めることによって三十メートルはあろうかという鉄巨人の腕を創造した。


 そう、自分はこんなことができる。高天原に十二人しかいない十二天道ドゥオデキモストの一人、『雷神の鼓ライジングビート』であり、万物の蹂躙を許された超人なのだ。


 計は自身にそう言い聞かせるも————心の奥底にある不安を拭うことができなかった。


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