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15話 召喚作戦

 狭い路地の奥に、その倉庫は佇んでいた。

 木造の建物には窓がなく、継ぎ目から差し込む日差しだけが唯一の光源だった。

 それでもところどころ木目が削れている為か、現在のように天気がよければ十分な明かりを確保できる。

 ふいに室内の明るさが増す。室内に照らし出されるのはスキンヘッドと長髪の男。

 そこに更に小柄な男が入ってきて、彼が扉を閉ざすと室内は再び元の暗さを取り戻した。

 室内に入ってきた男は手に持った巾着を掲げ、ニヤリと笑む。

「その調子だと収穫あったみたいだな」

 長髪が男に声をかける。

「ボーっと歩いてやがっから簡単でしたぜ」

 巾着を持った小柄な男は弾んだ声でそれに応えて、部屋の中央に置かれたテーブルに歩み寄る。

「で、中身はなんだ? それでただの小銭入れってこたねえだろうな」

 スキンヘッドは身を乗り出すようにして、小柄な男が持ってきた巾着を覗き込んだ。

「この感触は小銭ってこたあありやせんよ」

 小柄な男は巾着の紐を緩めると、掌の上でそれを逆さまにした。

 転がり出てきたのは黒く、そして綺麗な球形の石。

 長髪の男がそれを受け取り、外から入る明かりに向けてかざして見せる。黒い石は明かりの中ほんのり赤みがかって光った。

「こりゃあ、宝石か?」

「黒真珠だな」

 スキンヘッドの問いに長髪が答える。

「だけどこのでかさと完璧な球体はまず有り得ねえぞ」

 感嘆の溜息をつき、大事そうにテーブルの上に置く。

「いい値で売れそうか?」

「いい値なんてもんじゃない。これを買える奴を探す方が大変だ」

「今ギルんとこに泊まってる貴族なら買えるんじゃないですかね」

 男たちはそれぞれ黒真珠を金にするための算段を巡らせていた。

 そんななか、長髪の男ははたと気付いたように再び宝石を手に取った。

「どうした?」

「いや、これまさか、中に精霊が入ってるんじゃないかと思ってな」

 調べるように掌の上で転がし、かざしてみる。見た目では特に分からない。

「こんなでかい宝石を小汚い巾着に入れて持ち歩くなんて不自然だろ。依代なら納得がいく」

「それが本当だったらついてますぜ。1年くらいは余裕で食ってけらあ!」

 小柄な男が歓喜の声を上げる。

「まあ待て。これが本当に依代だって決まったわけじゃねえ。おい、お前ら呼び出し方分かるか?」

 スキンヘッドの問いに、残りの二人は顔を見合わせた。

 この場にいる誰一人として精霊や魔術に関する知識を持ち合わせていない。

 魔術師であれば中に入っている精霊の気配を感じ取ることができるというが。

「普通に呼んでみりゃいいんじゃないですかね」

 小柄な男が提案する。否定するにも肯定するにも材料がないのだ。今は色々試してみるより他なさそうだ。

「おーい、精霊さんよー、いるんだったら出てきてくだせー」

「お願いしまーす」

「呼びかけに答えてくださーい」

 まずは低姿勢。

 テーブルの上に置いた依代を3人で覗き込み、口々に呼びかける。

 だが、石は変わらず鈍い光を放つのみで、何の反応も示さない。

「おい出て来い! 出てこねえとひでえぞ!」

 怒鳴ってみる。

 しかしやはり変わらず。

「名前で呼んでみたらどうだ」

「こん中の精霊の名前なんて知ってんのか?」

「……知りません」

 長髪の意見は不可能なので却下。

「叩いてみるか」

 言うなりスキンヘッドは石を掴みテーブルに打ち付ける。

「だああっ待ってくだせえ! 傷でもついたら石としてだけでも売れなくなっちまう!」

 もう一度打ち付けようとしたところで小柄な男がテーブルとの間に手を差し込み、これ以上の打撃を阻止。

 テーブルの身代わりとなった手の痛みにのた打ち回ることになった男は恨みがましそうな目でスキンヘッドと石を見つめる。

「ていうかそんなことしたら、気付いても出てきてくんないんじゃないですか」

 危険と分かっていてわざわざ出てくる馬鹿もいないだろう。それがいくら精霊だとしても。

「じゃあどうしろってんだ」

「持ち主に聞いてみるとか……」

「馬鹿かお前、それじゃ取り返されちまうじゃねえか」

 ただでさえ薄暗い室内が更に暗くなったかのような感覚を覚える。

 3人の男は悲嘆にくれ、誰ともなく溜息をついた。

「仕方ねえ、諦めるか……」

 もしかしたら、本当はこの石の中に精霊なんていないのかもしれない。

 この石だけでも十分な値打ち物じゃないか。

 そんなことを考え、暗くなった気持ちを奮い立たせるようにスキンヘッドが笑おうとした。その時。

 ドタドタと騒がしい足音が外から聞こえてきて、そして。

「お願いだからさっきの返してくださいー!!!」

 今にも泣き出しそうな絶叫と共に、石の持ち主が飛び込んできた。



彼らはいたって真面目なのです。

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