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12話 悲し問

お久しぶりです。

黒翼の更新を再開させていただきます。

 しなやかな足を伝う血液は土に染み込んで消える。

 リオンは宿舎の陰に立ち尽くす樹木にもたれかかった。己の荒い呼吸を耳障りに思いながら、体中に降りかかる木屑を取り払う。

 赤風の放った攻撃は、宿舎の壁を吹き飛ばしてしまった。そうしてなくなった壁から外に出られたのだから、都合がよかったと言えなくもない。

 そうでなければこの程度の傷ではすまなかった、とリオンは血の流れる腰を手で押さえた。

「力を存分に使えるだけ黒翼より上か」

 思い浮かべるのは愛弟子が連れている精霊の姿である。最も身近にいる精霊であると同時にハーデスの連れている鳥、赤風と同じ一族なのだから、比較しやすい。

 ふと、こちらに近付く足音に気付き、リオンは寄りかかっていた木から背を浮かせてた。

「リオン!」

 走ってきたのは背が高く体格のいい男。片手に掲げる剣は体格に合わせて巨大である。

「一体何が……」

「来るな!」

 問う声を厳しく遮り、近付く相手に切っ先を向ける。

 空気を切り裂くような烈しい声に、ビクリと男の動きが止まる。

 男は剣士隊の副長。リオンにとっては片腕とも言える部下だ。

「選ばせてやろう、バーズ。お前の忠誠を、この先誰に捧げるかを」

「……」

 一瞬怪訝そうに間の抜けた表情になったバーズだが、すぐにその表情は驚愕に、そして鋭いものへと変化する。

「選べ。皇帝陛下と、私と。もし、私を選ぶのなら……」

 真っ直ぐな言葉は、片腕で、仲間で、親友の男を悲嘆に暮れさせた。




「失敗したかな」

 あらゆる選択を。

 リオンは一人、城の裏門へと移動していた。

 人ができるだけ近付かない場所。そして、ハーデスが外へ向かうとしたらそこを通ることを見越して。

 自分と弟子の家族を巻き込ませるわけにはいかない。

 反逆はリオン自身が決めた、リオン自身の責なのだから。

 それさえなければ、こんな心配もいらなかっただろう。

 選ばなければ、一つの犠牲で全ては終わった。それでも。

「後悔なんてするわけないだろう?」

 自分自身に言い聞かせ、リオンは不敵に笑みを浮かべた。

(私は私が思うままに行動しているのだから)

「例えその先には死しかないとしても?」

 問う声は美しく耳障りなテノール。

 追いついてきた男は隣に赤い髪の女を従えていた。白い翼、本体は赤い鳥の精霊を。

 肯定の笑みを浮かべ、リオンは剣を構えた。

 視線が交わった次の瞬間、打ち合わされる刃と刃。

 間合いを詰めたリオンに反応して、ハーデスも剣を抜き斬撃を受け止めた。

 予想できる攻撃であったとは言え、並みの剣士であれば既に切り伏せられているはずだった。

 アルト・ハーデスは有能な魔術師であると同時に、有能な剣士でもあるのだ。

 受け止められることも予想の範疇内だったのであろう。すぐにリオンは体勢を整えて次の攻撃を繰り出す。

 縦に横に、上段から下段から、休むことなく繰り出される鋭い斬撃に制止をかけたのは赤い髪の精霊が放ったかまいたちだった。

 突然の横からの攻撃、かろうじてかわしたもののリオンはバランスを崩し膝をつく。

 その隙をついてハーデスが頭上に剣を振り下ろすが、ギリギリでそれを受け止める。

 そのまま力を込められれば、体勢の分が悪く、更に先程腹部に受けた傷が痛みを訴えてくる。しかも元々女であるが為に劣っているリオンの腕力では競り負けるのは時間の問題。

 それにこのままでは次の精霊の攻撃を受け止めることもかわすこともできない。

 両手で支えていた剣から左手を外す。その左手で地面を叩くようにして体を切っ先から逃れさせる。

 再び間合いをあけ、体勢を整える。


 そこでハーデスは静かに口を開いた。

「愚かですね。リオン・シャマイン。貴女が死んでもウォルト・ラヴェールの追尾は終わらないというのに」

「どうとでも言ってくださって結構です。私の自己満足な我侭ですゆえ。私は意に副わぬ屈服の生を受けるくらいならば、反抗の死を選ぶ」

「プライドの為ですか。それは」

「いけませんか」

「いいえ。だからこそ、貴女は剣士隊の隊長なのでしょう」

 ハーデスは剣を正段に掲げた。

「愚かな剣士隊長殿に敬意を表して。イブニングには手出しさせないように致しましょう」

 どこまでも自身の優位を確信しているのであろう。口元には笑みを浮かべ、精霊を再び鳥の姿に戻す彼は余裕に溢れている。

「赤風なしで、とは随分と自信がおありようで」

「イブニングの力を借りずとも、手負いの剣士を斬り伏せるくらい大したことではありませんから」

 両者は同時に地を蹴る。

 お互いの渾身の一撃が交錯した。




会話と戦闘のつなげかたに予想以上に梃子摺ってしまいました。

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