第三話 カラーチェンジするクリソベリル
朝の静かなシキオンの街を、一人の宝石が歩いている。
爽やかな風になびく金髪。右目が黄色寄りの黄緑色、左目が茶色寄りの赤色で、左右非対称の色の瞳。そしてどちらの瞳も色味は淡く、彼女の優しさを表していた。
「……あれ? あそこ、ちょっとずれてるかも」
周囲の『解像度』を探っていたその宝石、CCクリソベリルは、広場の噴水に近寄る。そこには小さな虹がかかっていたが、それが彼女の目にはピンボケしているように映っていた。
「貴方はもっと綺麗でしょ」
虹に語りかけるように言いながら、CCクリソベリルことシークは、パチンと指を鳴らして音を響かせる。すると虹は瞬きをするように、パッと鮮やかな七色を取り戻した。
「うん、よし。折角の美しい世界なんだから、本来の姿が見えなきゃね」
彼女は、弱いながらもカラーチェンジをするクリソベリルだ。故に『異なるモノ』に対する魔力が高く、特にシークは微細な違いに敏感である。モノのピント合わせのような能力も、得意分野だった。
そんな風にシークが日課の散歩がてら、世界の小さなピンボケを直している時。
「あっ、シーク!」
視界の端から、大きなツインテールを揺らしたアレキサンドライトの声がした。
「アレキ、おはよう」
「おはよ! ねえ、さっき街に新しい子が来たの気づいた? あたしすぐ分かって、ピーちゃんの所まで連れてってあげたのよ」
「そうなんだ。違和感はあったけど、それが何かは分からなかったな。アレキは凄いね」
シークはやや控えめに応えるが、アレキは嬉しそうに笑みを浮かべる。その瞳は濃い青と赤の左右非対称の色で、鮮やかにきらめいていた。
――アレキは、いつでも眩しいな。
と、シークが今日も羨望の眼差しを向けていることを、アレキは気づいているだろうか。
そして何故かアレキと散歩を続けることになったシークは、彼女の話に相槌を打ちながら不意に顔を上げる。
「あ、アレキさん。お友達とお約束があったんですね」
そう言って近づいてきたのは、先ほど話題に出た新入りの宝石、ユークレースだった。
「あら、ユーク。あたしの用事はもう済んだところよ。そっちはピーちゃんの話、もう終わったの?」
「はい、お陰様で」
にこやかにアレキと会話するユークを見つめ、シークは眉をひそめる。ユークの周囲が時折、ずれるように感じたのだ。
「ちょっと失礼」
シークは言葉と同時に、素早くユークの前で指を鳴らす。すると彼女の周りはパッと切り替わり、ずれることがなくなって穏やかな空気に変わった。
「あれ、何か急に明るくなりましたね。境目がよく見えます」
「何の?」
ユークの謎な発言に突っ込むアレキだったが、続くシークの説明に遮られる。
「外から来たばかりだから、街の空気にピントを合わせきれてなかったみたいだね。でも直したから、もう大丈夫だよ」
「わあ……何か、世界が定まってる感じがします」
ユークは感動したようにシークにお礼を言い、手を振って去っていった。
「よく気づくわね、あんな些細な『違い』なんて」
強烈なカラーチェンジをする宝石であるアレキは、シークと同様に『異なるモノ』に関する魔力に秀でている。そして彼女が得意とするのは、モノを瞬時に変換または置換すること。つまり、大きな変化をもたらすことだ。
アレキからの羨ましそうな言葉に、シークは思わず動きが止まる。どうやらお互いに、思っていることは同じらしい。
「……それが私の役割だから。ところでウチに紅白饅頭あるんだけど、一緒に食べる?」
「勿論!」
シークが提案すると、アレキは彼女らしい勝気な笑みで頷いた。
二人が三色団子もいいなと語り合うのは、また別の話。




