第十話 防御と守護のサファイア
街の一角にある、落ち着いたカフェのような共有スペース。
大きな窓から暖かい日差しが降り注ぐここは、誰でも自由に使用できる場所だ。割と本格的なキッチンも備えられている。
「今日の玉露も大変美味ですね。サファイアさんの創り出す清らかな水が、お茶の味をまっすぐに伝えてくれています」
今日は誰もいない広々としたスペースで、鮮やかな緑の瞳をした宝石のトルマリンが言った。瞳の虹彩に桜の模様をきらめかせる彼女の、薄茶色のポニーテールが僅かに揺れる。
「あ、ありがとうございます。お気に召して頂けたなら、何よりです」
そんな惜しみない称賛にはにかむのは、トルマリンの向かいに座る女性。深く美しい青の瞳の虹彩に桜の模様を宿す、艶やかな短い黒髪のサファイアだ。
彼女はいわゆる四大元素の水の能力を有しており、美味しい水を創り出すことができる。
「でも、お茶を淹れたのはマリンさんですから……淹れ方がお見事だからですよ」
「お褒めに預かり光栄です。では、私たちと素材の力のコンビネーションという訳ですね」
ふわりと微笑むトルマリンに、サファイアもつられて『そうですね』と笑みを返す。
そんな穏やかなひと時に――
「トルマリーン!! 助けてえーー!!!」
嵐のような叫びと勢いで、一人の宝石が共有スペースに飛び込んできた。
「うわ、ここめっちゃ気持ちいい! 暑くない! 寒くない!」
――助けて、という第一声は何だったのか。
と、突っ込みたくなるほどの切り替えで感動する彼女は、コーネルピン。瞳の色をくるくると変えながら、スペース内をきょろきょろと見回している。
「コーネルピンさん、どうかしましたか?」
「こんにちは、ルピンさん」
「トルマリン、流石だよねー。サファイアもヤッホー!」
トルマリンたちに近づくルピンは、元気な笑顔で二人に手を振った。彼女が流石と言ったのは、共有スペースの空気についてである。風に関する強い魔力を持つトルマリンは、エアコンの如く空間の空気を調和させることが可能だ。よって現在の共有スペース内は、常に快適な温度や状態に保たれている。
「恐れ入ります。ところで、手に持っていらっしゃるのは……ソーラーマスコットでしょうか?」
「あっ! そうそう、これ見てトルマリン!」
トルマリンが尋ねると、ルピンはようやく用件を切り出した。そうしてトルマリンたちの前に差し出されたのは、デフォルメされた恐竜が可愛く揺れる、ソーラーマスコットである。
「可愛いですね」
「でしょー?」
サファイアが微笑んで感想を言えば、ルピンは嬉しそうに笑った。
これはルピンが最近、外界のおもちゃ屋で購入してきたものらしい。しかしお気に入りだったそれは今日になって、光を浴びても動かなくなってしまった。ソーラーパネルで発電するのだから、光さえあれば動くはずなのに。
「…って訳で、電気と電化製品に強いトルマリンに直して貰おうと思ってさ」
「なるほど、事情は把握致しました。マスコットを少々、お借り致します」
ルピンからマスコットを受け取ると、トルマリンは小さく電気エネルギーを通してみる。彼女は和名を『電気石』と言い、摩擦などによって静電気を帯びる性質がある宝石だ。電気に関連する優れた能力に加え、機械にも精通している。
「電気回路の途中で、コーネルピンさんの変身能力のエネルギーが膜を張っています。この膜が絶縁体になっていて、電流を遮っていますね。マスコット自体に故障は見当たりません」
「えっ、私、何もしてないよ!?」
「このマスコットの近くで、ルピンさんが変身したりとかは……」
サファイアに尋ねられ、ルピンはハッとして彼女を振り返った。
「いっぱいしてる! そっかぁ、私のエネルギーがこの子に飛んじゃって、変な風に『変身』しちゃったんだ」
「そのようです。ですから、このエネルギーを取り除けば直るかと」
そう言いながらトルマリンは、パチッと自身の電気エネルギーで絶縁体の膜を貫く。すると膜になっていたエネルギーは消滅し、マスコットがゆらゆらと動き出した。
「動いた! やったー、ありがとうトルマリン!」
「とんでもございません。お役に立てて何よりです」
「良かったですね、ルピンさん。あの、もし宜しければ、外部からの干渉を受けないように防御をかけても……?」
歓声を上げるルピンにサファイアが提案すると、ルピンは勢い良く首を縦に振る。
「是非是非! ありがとう、サファイア!」
「じゃあ、かけておきますね」
ルピンの返事に、サファイアは安心したように微笑んだ。
サファイアはダイヤモンドに次ぐ硬度を持ち、高い靭性も誇る強靭な宝石である。防御に関連した魔力が卓越する彼女は、様々な守護を得意としていた。
「外部エネルギーからの保護と、物理的な衝撃にも耐えられるようにしています」
「わあ、何かリュウちゃんが凄い強くなった感じする!」
繊細な防御が施されたマスコットを見つめ、ルピンがまた瞳の色を変化させている。ちなみにリュウちゃんとは、ソーラーマスコットの恐竜のことだ。
「流石です、サファイアさん。それにしてもソーラーマスコットというのは、癒されるインテリアですね」
「トルマリンも欲しい? それならオススメのおもちゃ屋さん、あるよ!」
「あ、私も欲しいです」
そうして後日。
トルマリンとサファイアがソーラーマスコットを探しに行くのは、また別の話。




