3-2「剣を捨てた理由」
フレイがなぜ剣を持たぬのか?
クレージュはその理由をフレイに問う。
それはこれから向かう灰色の村での出来事が起因しているようで…
焚き火は、静かに燃えていた。
街を出てから半日。
街道を外れ、小さな森の縁で夜を迎える。
風は弱く、
虫の声だけが続いている。
クレージュは、火を見つめたまま、口を開いた。
「……フレイさん」
「さっきの話」
フレイは、枝を焚き火にくべながら答える。
「……どれだ」
「剣を、持っていない理由です」
焚き火が、
ぱちりと弾けた。
フレイの手が、
一瞬だけ止まる。
「……理由は、一つじゃない」
そう前置きして、彼は腰を下ろした。
「若い頃は、剣があれば守れると思ってた」
「腕を磨いて、迷わず振るえば」
「間違えずに済む、と」
アーニャが、
何も言わずに耳を傾ける。
「……だがな」
フレイは、
焚き火を見つめたまま続けた。
「剣は、決断を早める」
「振るか、振らないか」
「守るか、斬るか」
「その二択しか、見えなくなる」
クレージュは、
静かに息を呑んだ。
「……それで、
間違えたんですか?」
「……いや」
フレイは、首を横に振る。
「間違えたのは、“振らなかった”ことだ」
焚き火が、
小さく揺れる。
「守りたいものの前で、迷った」
「斬るべき相手を、斬れなかった」
「そして――」
「迷っている間に、
取り返しがつかなくなった」
その言葉は、
淡々としていた。
だが、重い。
「それが……灰色の村ですか?」
クレージュの問いに、
フレイは答えなかった。
代わりに、
小さく息を吐く。
「……ああ」
「まだ、全部は話せない」
「だが――」
「一つだけ、はっきりしていることがある」
フレイは、
クレージュを見る。
「剣を持っていれば、正しい判断ができるわけじゃない」
「持っていなければ、間違えないわけでもない」
「だが」
「少なくとも俺は、剣を握ったままじゃ“考える時間”を守れなかった」
◆
沈黙。
焚き火の音だけが、
場を満たす。
「……だから、捨てた」
「二度と、
勢いで判断しないために」
アーニャが、
低く言った。
「……でも」
「それで、後悔は消えた?」
フレイは、苦笑する。
「消えるわけがない」
「だから――」
「また、ここにいる」
クレージュは、
その言葉を噛みしめた。
「……俺は」
「剣も、六彩も」
「どちらも、捨てる気はありません」
フレイは、一瞬だけ目を細める。
「……だろうな」
「その顔を見て、来た」
火が、
少し大きく揺れた。
遠くで、
夜鳥が鳴く。
フレイは、立ち上がり、
空を見上げた。
「……次に話す時は」
「もう少し、近くまで行ってからだ」
「灰色の村の話は、そこから先だ」
クレージュは、
静かに頷いた。
「……はい」
焚き火の火は、
まだ消えない。
だが――
その向こうに、
灰色の影が、
確かに近づいていた。
──剣を捨てた理由は、
逃げではない。
──それは、
“考えるための選択”だった。
──だが、
過去はまだ語られていない。




