3-1「出立」
第三章の始まりです。
思わぬ人物が合流して旅が始まります。
朝霧が、街道を覆っていた。
ルーン塔の影が、
白い霧の向こうに滲んでいる。
高く、静かで、
どこか人を寄せつけない場所。
クレージュは門の前で足を止め、
一度だけ振り返った。
(……ここで、
たくさんのことを知った)
六彩という力。
恐れられる理由。
管理という選択肢。
逃げることもできた。
守られる道もあった。
それでも――
彼は、ここを出る。
◆
「……名残惜しそうだな」
背後から、
落ち着いた声がかかる。
ミレイアだった。
「少しだけ」
クレージュは、正直に答えた。
「だが、留まる顔じゃない」
「ええ」
門の外では、アーニャが荷を背負って待っていた。
「準備、できてるぞ」
「ありがとう」
そう言って、一歩踏み出そうとした、その時。
「……相変わらず、決断が早いな」
霧の向こうから、
聞き慣れた声。
クレージュは、思わず振り返った。
◆
「……フレイさん?」
街道の端から、一人の男が歩いてくる。
旅装。
腰に剣はない。
だが、
その歩みは迷っていなかった。
「どうして……ここに?」
クレージュの問いに、
フレイは肩をすくめる。
「六彩の噂が、妙に静かになった」
「ついこの前まで、あちこちで騒いでたのにな」
「それが急に、ぴたりと止まった」
ミレイアが、視線を向ける。
「……それだけで?」
「ああ、十分だな理由だろ」
フレイは、即答した。
「静かすぎる時は、大抵、面倒な連中が動いてる」
「それに」
クレージュを見る。
「六彩が、ルーン塔の中に収まったって聞いた」
「……ああ」
「連れて行かれたな、って思った」
クレージュは、少し驚いたように目を瞬かせた。
「……連絡は、していません」
「知ってる」
フレイは、小さく笑う。
「呼ばれたわけじゃない」
「だが――」
「来ない理由も、なかった」
その言葉に、クレージュは何も返せなかった。
ミレイアが、一歩前に出る。
「同行は、一時的なものだ」
「研究対象としてではない」
「現場観測と、制御補助のみ」
「分かってる」
フレイは、
短く答えた。
そして、
クレージュに向き直る。
「……で、相棒、行き先は?」
「まだ、決めていません」
クレージュは、
一拍置いて続ける。
「ただ――」
「灰色の村に、近づく道を通りたい」
空気が、一瞬だけ止まった。
そしてフレイの足も、
わずかに止まる。
「……なぜだ」
クレージュは、視線を逸らさず答えた。
「名前だけ、聞きました」
「何があったのか、そしてどんな村なのかは知りません」
「でも――」
「そこに、全部の始まりがある気がして」
フレイは、しばらく黙っていた。
やがて、深く息を吐く。
「……あそこは、
近づく場所じゃない」
「そうだとしても…」
「それでも、避けてはいけない気がするんです」
フレイは、
小さく笑った。
「……相変わらずだな」
「まったく逃げる気がない顔をしてる」
そして、一歩前に出た。
「……案内くらいなら、してやる」
アーニャが、
小さく息を吐く。
「……重たい旅になりそう」
「今さらだ」
フレイが言う。
◆
四人は、
門をくぐった。
ルーン塔は、
背後で静かに佇んでいる。
誰も、
振り返らなかった。
霧の向こうに、
まだ見ぬ土地が広がる。
クレージュは、一歩を踏み出す。
(……もし同じ過去を、
辿るとしても)
(同じ結末には、しない)
その決意は、
まだ言葉にならない。
だが――
確かに、
胸の奥にあった。
──こうして、
四人の旅は動き出す。
──灰色の村へ続く道を、
避けずに進むために。
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ご了承のほどよろしくお願いいたします。




