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3-1「出立」

第三章の始まりです。

思わぬ人物が合流して旅が始まります。

朝霧が、街道を覆っていた。


 ルーン塔の影が、

 白い霧の向こうに滲んでいる。


 高く、静かで、

 どこか人を寄せつけない場所。


 


 クレージュは門の前で足を止め、

 一度だけ振り返った。


(……ここで、

 たくさんのことを知った)


 六彩という力。

 恐れられる理由。

 管理という選択肢。


 逃げることもできた。

 守られる道もあった。


 それでも――

 彼は、ここを出る。


 



 


「……名残惜しそうだな」


 背後から、

 落ち着いた声がかかる。


 ミレイアだった。


「少しだけ」


 クレージュは、正直に答えた。


「だが、留まる顔じゃない」


「ええ」


 門の外では、アーニャが荷を背負って待っていた。


「準備、できてるぞ」


「ありがとう」


 そう言って、一歩踏み出そうとした、その時。


「……相変わらず、決断が早いな」


 霧の向こうから、

 聞き慣れた声。


 クレージュは、思わず振り返った。


 



 


「……フレイさん?」


 街道の端から、一人の男が歩いてくる。


 旅装。

 腰に剣はない。


 だが、

 その歩みは迷っていなかった。


「どうして……ここに?」


 クレージュの問いに、

 フレイは肩をすくめる。


「六彩の噂が、妙に静かになった」


「ついこの前まで、あちこちで騒いでたのにな」


「それが急に、ぴたりと止まった」


 ミレイアが、視線を向ける。


「……それだけで?」


「ああ、十分だな理由だろ」


 フレイは、即答した。


「静かすぎる時は、大抵、面倒な連中が動いてる」


「それに」


 クレージュを見る。


「六彩が、ルーン塔の中に収まったって聞いた」


「……ああ」


「連れて行かれたな、って思った」


 クレージュは、少し驚いたように目を瞬かせた。


「……連絡は、していません」


「知ってる」


 フレイは、小さく笑う。


「呼ばれたわけじゃない」


「だが――」


「来ない理由も、なかった」


 その言葉に、クレージュは何も返せなかった。


 ミレイアが、一歩前に出る。


「同行は、一時的なものだ」


「研究対象としてではない」


「現場観測と、制御補助のみ」


「分かってる」


 フレイは、

 短く答えた。


 そして、

 クレージュに向き直る。


「……で、相棒、行き先は?」


「まだ、決めていません」


 クレージュは、

 一拍置いて続ける。


「ただ――」


「灰色の村に、近づく道を通りたい」


 空気が、一瞬だけ止まった。


 そしてフレイの足も、

 わずかに止まる。


「……なぜだ」


 クレージュは、視線を逸らさず答えた。


「名前だけ、聞きました」


 


「何があったのか、そしてどんな村なのかは知りません」


「でも――」


「そこに、全部の始まりがある気がして」


 フレイは、しばらく黙っていた。


 やがて、深く息を吐く。


「……あそこは、

 近づく場所じゃない」


 


「そうだとしても…」


「それでも、避けてはいけない気がするんです」


 フレイは、

 小さく笑った。


「……相変わらずだな」


「まったく逃げる気がない顔をしてる」


 そして、一歩前に出た。


「……案内くらいなら、してやる」


 アーニャが、

 小さく息を吐く。


「……重たい旅になりそう」


「今さらだ」


 フレイが言う。


 



 


 四人は、

 門をくぐった。


 ルーン塔は、

 背後で静かに佇んでいる。


 誰も、

 振り返らなかった。


 霧の向こうに、

 まだ見ぬ土地が広がる。


 クレージュは、一歩を踏み出す。


(……もし同じ過去を、

 辿るとしても)


(同じ結末には、しない)


 その決意は、

 まだ言葉にならない。


 だが――

 確かに、

 胸の奥にあった。


 


──こうして、

 四人の旅は動き出す。


 


──灰色の村へ続く道を、

 避けずに進むために。

お読みいただきありがとうございます。

できるだけ毎日投稿しますが、本業の都合で不定期にお休みする日があると思われます。

ご了承のほどよろしくお願いいたします。

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