幕間「管理者の見る未来」
エイド視点で見たクレージュや六彩について。
どんな思いがこの管理者にはあるのか。
夜明けの風は、冷たい。
丘の上に立ち、
エイド=クロウフォードは
遠くの街を見下ろしていた。
ルーン塔の白い影が、
朝の光に浮かび上がる。
(……六彩)
その言葉は、
彼にとって
希望でも、憧れでもない。
統計だ。
結果だ。
失敗の積み重ねだ。
エイドは、
腰の魔導端末を起動する。
淡い光の中に、
いくつもの記録が浮かぶ。
『六彩・記録第七号』
『都市消失』
『六彩・記録第十二号』
『精神崩壊』
『六彩・記録第二十一号』
『管理失敗/殲滅』
彼は、
それらを一つ一つ、
無言で閉じていった。
(……全員、
最初は“いい子”だった)
家族を守ろうとした者。
国を救おうとした者。
誰かを癒そうとした者。
(だが、結果は同じだ)
◆
エイドの脳裏に、
十五年前の光景がよみがえる。
――灰色の村。
家々は崩れ、地面は焼け、人の声は、もうどこにもなかった。
中心に立っていたのは、
一人の少年。
六彩に包まれ、泣きながら、
必死に何かを叫んでいた。
(……遅すぎた)
あの時、
エイドは判断を誤った。
「様子を見る」
「成長を待つ」
その“優しさ”が、
何百人もの命を奪った。
だから――彼は決めた。
(もう、同じ過ちは繰り返さない)
◆
ルーン塔を、再び見る。
あの少年――クレージュ。
六彩を恐れ、拒み、
それでも学ぼうとする存在。
(……異常だ)
六彩は、
選択を許さない。
力が、
人を引きずる。
意思など、摩耗する。
(それでも、彼は“選んでいる”)
エイドは、目を細める。
(だからこそ、危険だ)
もし彼が成功すれば――
六彩は“希望”になる。
だが、
もし失敗すれば――
(……世界は、二度と耐えられない)
背後で、
気配がした。
「……迷っているようですね」
部下の声。
「迷ってはいない」
エイドは、即座に答えた。
「だだ、判断を急がないだけだ」
「管理に、移行しますか」
エイドは、しばらく黙り――
首を振った。
「……まだだ」
「彼は、境界線に立った」
「越えたのではない」
「今はただ踏みとどまっているにすぎない」
部下は、息を呑んだ。
「……例外を?」
「例外ではない」
エイドの声は、
低く、重い。
「最終確認だ」
「彼が――」
「世界よりも、誰かを優先した瞬間」
「その時は、私が手を下す」
◆
丘の上に、
風が吹き抜ける。
エイドは、背を向けた。
(……フレイ)
かつて、
同じように“希望”を信じた男。
同じように、
剣を捨てた男。
(お前と、同じ道は行かせない)
それが、
彼なりの慈悲だった。
──管理者は、
冷酷ではない。
──ただ、
結果を知っているだけだ。
──そして彼は、
その責任から、
逃げない。




