7-66「臨界接触」
触れた。
確かに。
クレージュの手が、“核”に届いた。
その瞬間——
すべてが、止まった。
時間も。
流れも。
思考すらも。
世界そのものが、“判断を保留した”ように。
「……ッ……!」
声にならない。
だが、分かる。
ここが——分岐点だ。
『最終判定、競合』
核の声が、かすかに揺れる。
初めての状態。
排除か。
保持か。
処理が、衝突している。
それを——
クレージュが、無理やりねじ込む。
「……終わらせるって言っただろ」
握る。
ただの接触じゃない。
“侵入”。
存在そのものを、内部に食い込ませる。
『——侵食検出』
遅い。
もう遅い。
内と外。
両方から圧を受けた核は、完全な最適解を選べない。
ほんのわずかな“遅延”。
それが——致命傷になる。
「これで……っ!」
クレージュの意識が、核の奥へと流れ込む。
膨大な情報。
構造。
処理。
世界の裏側すべてが、一気に押し寄せる。
普通なら、耐えられない。
即座に崩壊する。
だが——
「知るかよ……!」
歯を食いしばる。
未定義のまま。
壊れかけたまま。
それでも、踏み込む。
『過負荷』
『臨界到達』
核の処理が、明らかに限界を超える。
完璧だったはずのシステムが——
“耐えきれない”。
「ほらな……!」
クレージュが、笑う。
ボロボロのまま。
消えかけながら。
それでも——
勝ち筋を、掴んだ。
「完璧ってのはな……」
さらに、押し込む。
自分ごと。
全部ごと。
ぶつける。
「壊れた時に、一番脆いんだよ!!」
その瞬間。
核の中心に——
亀裂が走った。
『——構造崩壊、開始』
声が、明確に乱れる。
処理が、追いつかない。
再構築も、間に合わない。
“初めての事態”に、対応できない。
そして——
バキッ!!
決定的な音。
核が、割れた。
同時に——
世界が、崩れ始める。
「……っ、やりすぎたか……」
クレージュの体が、揺らぐ。
いや、体じゃない。
存在そのものが、崩れかけている。
核と繋がりすぎた。
深く入り込みすぎた。
崩壊に——巻き込まれている。
『全処理、停止』
『緊急遮断、実行』
断片的な声。
もう、まともに機能していない。
だが——
その中で、一つだけ。
はっきりした処理が走る。
『——対象分離』
「……あ?」
一瞬、理解が遅れる。
次の瞬間。
強烈な“反発”が来た。
クレージュの存在が、弾き出される。
内から、外へ。
強制的に。
「……ッ、待て……!」
伸ばした手は、届かない。
崩れていく核。
その中心。
まだ何かが残っている。
だが——
もう、届かない。
『排出完了』
最後の声。
それは、どこか——
ほんのわずかだけ、変わっていた気がした。
そして。
——暗転。
——外。
「——来るぞ!!」
エイドの叫び。
次の瞬間。
空間が、裂けた。
今までとは違う。
暴発に近い、荒い開き方。
「っ……!」
フレイが身構える。
マリアが結界を張る。
フランソワが術式を展開する。
そして——
“それ”は、落ちてきた。
ドサッ、と。
地面に叩きつけられる。
「……クレージュ……?」
恐る恐る、フレイが近づく。
そこにいたのは——
ボロボロで。
意識もなくて。
でも確かに——
“戻ってきた”クレージュだった。
「おい……! おい!!」
揺さぶる。
反応はない。
呼吸は——ある。
かすかに。
だが確かに。
「……生きてる……!」
その一言で、空気が弾けた。
緊張が、一気に解ける。
だが——
安心するには、まだ早い。
空を見上げる。
さっきまであった“異常な圧”は、消えている。
だが——
完全に終わったのかは、分からない。
ただ一つ、確かなのは。
「……やりやがったな、あいつ……」
エイドが、静かに呟く。
誰も否定しない。
できるわけがない。
あの領域に踏み込んで。
ぶち壊して。
——戻ってきた。
その事実だけで、十分すぎた。
そして。
倒れたままのクレージュの指が——
ほんのわずかに、動いた。
お読みいただきありがとうございます。
次回もお楽しみに。




