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7-5「門前決戦」

風が、重かった。


吸い込んだ瞬間、喉の奥にざらついた違和感が残る。

息がうまく入ってこない。


ヴィルサントル城壁前。


地面はひび割れ、ところどころ黒く焼けている。

靴の裏で、小さく石が砕けた。


その先。


空が裂けていた。


巨大な“門”。


縁がじわじわと脈打ち、灰色の光がにじみ出ている。


ドクン。

ドクン。


まるで心臓みたいに。


「……気持ち悪いな」


クレージュは無意識に呟いた。


喉が乾いている。


舌が張り付く。


「魔力が……濁ってます」


隣でリシェルが小さく言う。


声が少し掠れていた。


彼女の指先が、ほんのわずかに震えている。


アルシェリアは無言で前を見ている。


その瞳だけが、門の中心を捉えていた。


その時。


コツ……コツ……


石を踏む音。


やけに静かな足音が響いた。


グラディオが歩いてくる。


ゆっくりと。


焦る様子もなく。


その身体は、もう人間の形を半分しか残していなかった。


右腕は完全に灰色に変わり、脈打つようにわずかに膨らんでは縮んでいる。


皮膚というより、別の“素材”。


見ているだけで、胃の奥が冷える。


「……随分と変わったな」


クレージュが言う。


軽く言ったつもりだったが、声が少し低くなった。


グラディオはわずかに首を傾ける。


「無駄を削いだだけだ」


近づいてくる。


一歩。


また一歩。


距離が縮まるたびに、空気が重くなる。


胸を押されるような圧。


リシェルが息を呑む。


「……人、なんですか」


「人だったものだ」


あっさりとした答え。


感情はない。


クレージュの指先に力が入る。


剣の柄が軋む。


「……で?」


クレージュは息を吐いた。


肺が少し痛む。


「ここで止めればいいんだろ」


グラディオの口元がわずかに歪む。


「できるならな」


その瞬間。


視界から消えた。


「――ッ!」


空気が動く。


後ろ。


反射で振り向く。


ギィィン!!


衝撃。


腕に重さが叩き込まれる。


骨が鳴る。


「っ……ぐ!」


押し込まれる。


足が滑る。


石が砕ける音が足元で弾けた。


グラディオの顔が、すぐ目の前にある。


近すぎる。


息がかかる距離。


「悪くない」


次の瞬間。


膝が入る。


ドンッ!!


息が一瞬で抜ける。


肺が空になる。


「……がっ!」


身体が浮く。


そのまま背中から地面に叩きつけられる。


石が砕け、破片が頬をかすめる。


視界が白く弾けた。


耳がキーンと鳴る。


(立て……!)


呼吸が戻らない。


胸が痛い。


息を吸おうとすると、喉が焼ける。


それでも、腕に力を込める。


無理やり身体を起こす。


口の中に血の味。


鉄臭い。


「……くそ」


その瞬間。


横から光が走った。


リシェル。


「離れてください!!」


白い光が弾ける。


空気が一瞬軽くなる。


グラディオがわずかに後ろへ引く。


ほんの一歩。


それだけで十分だった。


アルシェリアが前に出る。


「固定」


足元に灰色の力が広がる。


地面が沈み、動きを縛る。


「今!」


クレージュが踏み込む。


膝が痛む。


それでも止まらない。


ドクンッ


三点干渉。


背中に光が流れ込む。


温かい。


だがその奥が焼けるように熱い。


同時に、アルシェリアの力が身体を締める。


冷たい。


押し広げられる。


(来た……!)


無理に押さない。


流す。


剣を振るう。


スッ


今までより軽い。


グラディオの装甲に、線が走る。


「……」


だが浅い。


「甘い」


肘が飛んでくる。


ガンッ!!


顔面に直撃。


視界が揺れる。


鼻の奥に痛み。


熱いものが垂れる。


(やば……)


バランスを崩す。


その隙。


グラディオの手に、灰色の光が集まる。


空気が歪む。


「終わりだ」


(避けろ――!)


身体が遅い。


その瞬間。


「させません!!」


リシェルが飛び込む。


光が爆発する。


ドォン!!


衝撃でクレージュが横に弾かれる。


地面に転がる。


肩を強く打つ。


息を吐きながら顔を上げる。


リシェルが膝をついていた。


「……っ……!」


肩が上下している。


呼吸が荒い。


「無茶すんなよ……!」


クレージュが叫ぶ。


リシェルが顔を上げる。


「……無茶しないと、守れません」


その目は、揺れていない。


アルシェリアが言う。


「時間がない」


門を見る。


脈が速くなっている。


ドクン。ドクン。


エイドの声。


「あと三十秒」


短い。


クレージュは息を吐く。


胸が痛む。


「……じゃあ三十秒で終わらせる」


その時。


「言うじゃねぇか」


後ろから声。


フレイだった。


血が頬に流れている。


服も破れている。


「後ろは抑えた」


それだけ言う。


クレージュは笑う。


「助かる」


フレイが肩をすくめる。


「前は任せた」


クレージュが頷く。


剣を握る。


手が震えている。


疲労か、恐怖か。


たぶん両方。


でも。


まだ立ってる。


「行くぞ」


リシェルとアルシェリアが並ぶ。


呼吸が合う。


グラディオが笑う。


「来い」


門が脈打つ。


空が裂ける。


風が吹き下ろす。


クレージュが踏み込む。

お読みいただきありがとうございます。

次回もお楽しみに。


次回


第七章・第6話

三十秒の攻防

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