6-11「王の決断」
夜が明けた。
王都オベールロワイヤルは、静かだった。
だがそれは――
平穏ではない。
嵐の後の、重たい沈黙。
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崩れた建物。
焦げた地面。
あちこちで続く救助活動。
「まだ生きてる!こっちだ!」
「担架を持って来い!」
叫び声が響く。
人々は動いている。
止まってはいない。
だが。
誰もが理解していた。
「……王都が襲われた」
その事実の重さを。
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王城。
謁見の間。
重臣たちが集まっていた。
空気は張り詰めている。
王が静かに口を開く。
「報告を」
側近が前に出る。
「南東区画を中心に大規模被害」
「民間人の負傷者、三百以上」
「騎士団も多数負傷」
ざわめき。
抑えきれない動揺。
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一人の将が声を上げる。
「敵の正体は未だ不明!」
「だが明らかに組織的!」
「早急に戦力の再編を――」
別の重臣が割って入る。
「それよりも問題は内部です!」
「王城内に侵入を許した!」
「内通者がいる可能性が高い!」
空気が凍る。
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王は目を閉じる。
そして。
ゆっくりと開く。
「……両方だ」
短く。
だが重い言葉。
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「外敵への対処」
「内部の浄化」
「同時に行う」
誰も反論しない。
できない。
それが最適だと、分かっているから。
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その時。
扉が開く。
「失礼いたします」
クレージュたちが入ってきた。
全員、傷を負っている。
だが、立っている。
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王の視線が向く。
「報告せよ」
クレージュが前に出る。
「敵は“グラディオ”と名乗りました」
ざわめき。
その名は初出。
だが。
ただの名ではないと、直感させる響き。
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「灰色の兵器を操り」
「さらに王城内部に侵入」
「騎士の一部を操っていました」
重臣の一人が顔を歪める。
「やはり内部か……!」
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クレージュは続ける。
「目的は――」
一瞬、視線がリシェルへ向く。
「……“鍵”の回収」
空気が変わる。
王の目が細くなる。
「鍵とは何だ」
沈黙。
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リシェルが一歩前に出る。
「……私です」
その一言で。
場が凍りつく。
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「光属性の純度」
「それが条件だと言っていました」
ざわめきが広がる。
抑えきれない。
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王は動じない。
ただ静かに問いかける。
「確証はあるか」
リシェルは頷く。
「戦闘中、明確に狙われました」
「そして……」
一瞬、言葉を選ぶ。
「……力を“引き出そう”としていました」
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重臣の一人が叫ぶ。
「危険すぎる!」
「王女を前線に出すなど論外!」
別の者も続く。
「即座に厳重隔離を――」
その瞬間。
「却下だ」
王の一言で、全てが止まる。
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静寂。
王がゆっくりと立ち上がる。
「守るべきは“人”だ」
「王女も、その一人に過ぎぬ」
だが。
続く言葉は――
さらに重い。
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「だが同時に」
「戦力でもある」
空気が張り詰める。
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「敵が狙うならば」
「守り、そして使う」
誰も言葉を発せない。
それがどれほど重い決断か。
全員が理解している。
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リシェルは静かに頷く。
「……承知しました」
迷いはない。
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王はクレージュを見る。
「貴様に問う」
「守れるか」
短い問い。
だが。
全てを含んでいる。
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クレージュは一瞬も迷わない。
「守ります」
即答。
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王はさらに踏み込む。
「敵は強いぞ」
「昨日の比ではない」
クレージュは答える。
「それでも」
「守ります」
その目に。
揺らぎはない。
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王はわずかに頷く。
「よかろう」
そして。
宣言する。
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「王女リシェルを“鍵”として認める」
「同時に」
「最重要防衛対象とする」
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場が震える。
それはつまり――
“中心”になるということ。
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「クレージュ」
王が続ける。
「貴様には、その護衛を任せる」
「同時に」
「その力を完成させろ」
三点干渉。
未完成の力。
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「時間はない」
「次は来る」
断言。
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クレージュは深く頷く。
「……はい」
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その時。
エイドの声が、わずかに低く響く。
「来るどころじゃない」
「もう動いている」
クレージュの目が細くなる。
(……やっぱりか)
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王城の外。
遠く。
見えない場所で。
何かが動き始めている。
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戦いは終わっていない。
むしろ――
次の段階へ進んだ。
お読みいただきありがとうございます。
次回もお楽しみに。




