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Prologue : Moscow Map and Tokyo in LR


アキラくんが銃火器を使って異世界であれやこれやする話です。

「我ら忙しい現代人に長尺な導入部は不要でおじゃるよ」という方はアキラ君が本格的に動きだす〝Escapades1〟からお読み頂いてもまあまあ大丈夫です。

【注意】

 本作に登場する銃火器や弾薬の使用感はあくまでアキラ君の個人的見解です。

 アキラ君の個人的見解を参考にした自衛用・自宅防衛用・狩猟用・競技用の銃火器の購入は厳に謹んで頂きますようお願い申し上げます。

 特にご注意頂きたいのは発砲時の反動に関するアキラ君の体感です。というのも、実際に反動をどう感じるかは個人差がとても大きいからです。

例:AさんとBさんはどちらも身長188センチ、体重90キロの大柄な筋肉ムキムキ野郎です。この二人がまったく同じ散弾銃でまったく同じショットシェルを撃ったとします。

Aさん「ぜんぜんヨユー。聞いてたより大したことねえわ」

Bさん「ちょっとヤだ、何コレ、すっごいんですけど。こんなの痣になっちゃう。爪が欠けたしもうサイアク。ねえ、もっと可愛いのない?」

 大袈裟に聞こえるかもしれませんが、現実の話、こういった反応の違いは珍しくありません。世間でとても評判の良いカワイ子ちゃんを見受けしてルンルン気分で射撃場に行ったらコレジャナイ感にがっくりきて、なんでおれは口コミとセールストークなんかに全面的な判断を委ねちまったんだろう、とクレカの明細を握りしめて後悔することもままあります。

 ですので、自衛用・自宅防衛用・狩猟用・競技用の銃火器の購入をご検討の方は、お目当てのカワイ子ちゃんを所有している射撃仲間や狩猟仲間に試射させてもらうか、射撃場でレンタルするのが最も間違いのない購入手順です。

 射撃仲間も狩猟仲間もいねえしお目当てのカワイ子ちゃんがレンタルされてねえ、という方は、複数候補を書いたメモを用意して銃砲店で触らせてもらい、フィーリングに合うものを購入しましょう。

 大きな注意点として、赤の他人に「なあ、あんたのカワイ子ちゃんをちょっと撃たせてくんねんか? よお?」とお願いするのは厳禁です。銃火器をどの程度安全に取り扱えるのか未知数の相手に自分のカワイ子ちゃんを触らせるのは、誰しも気が進まないものだからです。荒っぽい地域では「失せろ、ゲロ野郎」とストレートな拒絶の憂き目に遭って前歯を失うかもしれません。または、射撃場に出没する変人に辟易している常連がオーナーやレンジマスターに「トラブルを起こしそうなやつがいる。目を光らせておいてくれ」とご注進に及んで居心地がとても悪くなる事態も考えられます。

 お目当てのカワイ子ちゃんが民間では販売されていない、民生用モデルがあることはあるが高価すぎて手が出せない、という場合は、軍隊に入ってエリート部隊を目指すのが良いかもしれません。少なくとも、ご奉仕と引き換えに武器弾薬の費用を政府がもってくれますし、民間人生活では決して体験することのできない冒険の機会を与えられます。

 長くなりましたが、銃火器を購入する際は、アキラ君の個人的見解は話半分以下にとどめ、マナーを守った上であらゆる手段を用いて宿題を済ませておくのが、あなた自身にとっても、第三者にとっても、一番損がなく、面倒がない、確実な方法です。







 雨宮アキラはプロスポーツ選手になりたいとも、なれるとも思ったことはない。

 けれども、若干一六歳でプロになる。

 きっかけは、リアル系FPSの新たなマイルストーンとの呼び名高い『SNAFU』(『WWⅢ:Situation Normal―All F#$%ed Up』)を手掛けたスローバーン社が、月一でオンライン対戦のお祭りを催しては、その模様を公式ホームページと動画サイトで生放送しだしたこと。

 出ようぜ、と言いだしたのはウェスだ。ウェスは日系アメリカ人六世だか七世だかの八年生で、チーム〈バンザイアタック〉の発起人。チーム名に関して、本人におふざけの意図は微塵もない。遺伝子上の故郷である日本国への敬意の念を込めた、とのことだが、一部の日本人プレーヤーからは〝祖国防衛に散った英霊を貶めるくそガイジンどもの首班〟と評判が悪く、ことあるごとに叩かれている。

 ともあれ、〈バンザイアタック〉の大会初出場は不本意な結果に終わる。メンバーの大半がばらばらのタイムゾーンに住んでいるものだから、大会の日時を勘違いする者が続出し、ひとチーム一〇名の枠に四名で出場する羽目になって初戦敗退。

 フルメンバーで挑んだ二度めの出場では予選二位と健闘して、三度めでは本戦に出場する。

 もともと高ランク帯のプレイヤーが名を連ねているチームだけに、注目度が一気に上がる。プレイ中にやたらと無駄口が多い点も視聴者に受けている。別に狙ってやっているわけではなく、〝気負わず普段どおりにプレイしよう、実力を出し切ろう〟と決めただけの話。

 普段から〈バンザイアタック〉の面々はのべつ幕なしに喋る。

 とある試合では各メンバーが故郷の伝統的なお菓子をアピールしていき、どれが美味そうでマズそうか決を取った。別の試合では数学で赤点を取りそうなウェスのために、皆が口頭で二次関数の対策と傾向を教授した。直近の試合では一人が突然なんの脈絡もなく〈ブリスター・イン・ザ・サン〉を熱唱しだしたのをきっかけに、古いポップソングのアカペラカラオケ大会になった。アキラは受験生時代の父親の心の支えだったという曲、〈セマイチャームド・ライフ〉を歌った。うろ覚えだったせいで〝リリックがぜんぜん違え〟〝にゃーにゃー言って誤魔化すな〟と突っ込まれまくったが。

 そうこうするうちに栄誉が訪れる。

『SNAFU』がFPS欧州チャンピオンシップ指定タイトルに選ばれたことを祝う、スローバーン社主催プロアマ共闘イベントへの招待だ。

 くだんのイベントは最大四万ヘクタールに及ぶ五〇〇名対五〇〇名のチーム戦マップにて開催され、招聘されたプロチーム二〇組とアマチーム八〇組が均等に振り分けられる。

 上位入賞を狙うには、綿密な作戦行動計画と打ち合わせでもって、玉石混交の味方陣営の勝利に貢献しつつキル数を稼がなければならない。勝敗を決すまでに六時間はかかる長丁場だ。

 そして開始からたったの一〇分で――

「Emplace claymores and set up a perimeter. We are f#$%ing surrouded, goddamnit.」チームリーダーのウェスが口汚くぼやく。普段は滅多に四文字言葉を使わないが、興奮すると語気が荒くなる。そしてプレイ中のウェスはたいてい興奮している。

「‘No, no. we've got 'em right where we want 'em:sorrounded from the inside.’」ウェスの幼馴染のルイスがすかさず伝説的なせりふをもじって茶化す。

「Realistically,」とボンベイ在住ののらくら大学生シン。「there's no way of pulling it off. Outgunned, outnumbered, and outwited. It's only a matter of time before we are overrun.」

 実際問題、〈バンザイアタック〉は壊滅の危機にある。ヘリボーンで陽動作戦区域に乗り込む途中で二名が負傷してとんぼ返りし、到着後に二名がキルされ、生き残りの六名はモスクワ近郊の砲弾穴になんとか逃げ込み、数と火力で勝る敵陣営(おそらく数十人)の猛攻にさらされている。

 四方八方から小銃と機関銃の銃弾が飛んでくる上、40ミリ榴弾とRPGもバカスカ撃ち込まれている。

 辛うじての拮抗状態は、砲弾穴が防御に適しているのと、各個にスタンドプレーに走っている包囲側の連携がなっていないおかげ。

「Yo! Heavy machinegun, right front.」とウェス。「I mean direction; Sierra Sierra Echo. About Fife Ze-ro Ze-ro yards away. On the top floor of the parking garage-like building. I'm pinned! Anybody relieve the pressure?!」

「No sweat. I spot the pringker.」とアキラ。ややカタカナ英語の上、LとRの発音がごっちゃだが、いくら指摘されてもなかなか直らない。「Keep your head down, Wes.」

 ここしばらく、アキラのプライマリウエポンは6・5クリード仕様のリーパーMKⅡ。光学照準器は1‐10可変倍率のレイザーHD。レチクルは〝クリスマスツリー〟スタイル。近・中距離の複数標的を手早く狙撃するためのセットアップだ。

 キーボードを叩いて気象計の表示を出す。現在地の標高・気温・湿度・気圧のいずれも、マップに入る前にリーパーの零点規正を行った〝射撃場〟の環境設定とそう変わらない。測距計の赤外線レーザーを機関銃のすぐ下の外壁に照射――四二三メートル。十字線を機関銃手に据えて射角余弦表示器を確認――九九。この射距離におけるこの射角なら、弾道/着弾落差への影響は微々たるもの。ほんの心持ち低めを狙うだけでいい。そしてツイていることに、たまさかの無風。

 丸暗記しているお手製DOPEブックを基にアキラは十字線を二・四ミル上にホールドし、ボイスチャットをオープン回線にする。近場の敵プレイヤーにも聞こえるように。

 そして、おもむろに歌いだす。

〈イマジン〉のブリッジ部分の替え歌を調子っぱずれに。


   Imagine, Mr. rousy gunner,

  The closs hairs on your heeeeaaaad...whouuUUUUuuuuuu


 実際に照準を合わせているのは機関銃手の胸だ。

 マウスを左クリック。

 〇・五秒後に着弾の埃が舞い、射手が重機関銃の背後ですとんと崩れ落ちる。

 急所に命中したらしく、ほとんど間を置かずに画面隅の戦闘ログにキル表示。

「Rove 'n' peace!」

〝グッキル!〟〝ラブ&ピース、ヨー!〟とチームメイトの歓声と笑い声が響く。

 聴き慣れない声もある。包囲側の敵プレイヤーも笑っているようだ。これまでに聴いた中で最も秀逸なレノンのカバーだ、と誰かが皮肉る。上物のハッパをやってるに違いないぜ、と別の声。〈バンザイアタック〉の窮地にライブビューを合わせている視聴者のあいだでも似たようなコメントが飛び交っているが、もちろん、アキラは知る由もない。

 そこに罵詈雑言が加わる。ほぼ間違いなく、たった今キルされた敵機関銃手だろう。ケツの穴だの、ろくでもねえ近親相姦野郎だのと、キレまくっている。

 アキラがボイスチャットをチーム回線に戻したとき、ウェスが古いスラングで謝意を表す。

「Wai Es Emmmmma. I owe you one, dude.」

 YSM――You Sweet Motherf#$%er。

 ウェヴスターの辞書には載っていない〝サンキュー〟の最上級。

「Then buy me some ginger ale light now!」アキラは陽気に返す。「I'm dly mightiry.」

「I'd like to quench your thirst, buddy. Only bringing you a glass of ginger ale from the Big Rotten Apple to Tokyo is no easy task.」

「Uh-oh!」とソルボンヌに留学中の中国人青年ウォン。「We've got another unit from north. I see Wun Ze-ro plus...correction Too Ze-ro plus enemy combatants and Wun armored vehicle.」

「Can you ID 'em?」とウェス。

「Hold on a sec...it seems amaterurs and...ooh la la, here comes the Duke of Nuke, baby.」

「You've gotta be s***ing me.」

「There's like, no s***, a huge V sign on their vehicle.」

「Oh, f#$% me!」

 ウェスが罵るのも致し方なし。勝利サインをトレードマークにしているチーム〈核攻撃公爵〉はここ数年でFPS関連のタイトルを三つも獲得し、前年の世界ランキングを二位で終えた凄腕プロ集団。

「Your wish will be glanted pletty soon.」とアキラ。「They're ganna bugger you LEAL bad.」

「Keep a cvil tongue in your head, young sirs.」とシン。「Kids are watching.」

「Things have really hit the fan.」ルイスがシンの小言を容れてPG13モードで言う。「At least our diversionary roll is working well though.」

「And we're toast.」とマドリードの高校生リカルド。「That's it, guys. Howsabout performing a kamikaze act just for the hell of it? Like World War Ⅱ wacky Nips. Oops, no offence, Akira.」

「None taken, Senor Falangist.」

「VERY FUNNY.」

「What's Falangist?」とルイス。

 撃ちまくりながらリカルドが言葉を選んで答える。「Well, sort of the old guard.」

 撃ちまくりながらアキラは言葉を選ばずに答える。「Well, Spanish version of Nazi f#$%s led by the“Rast surviving fascist dictator.”」

「¡por Dios!」リカルドが笑い混じりに毒づく。「According to My grandpa, El Caudillo and his party weren't THAT bad. By the way, that Japanease war cry, what d'you call it, err...」

「You mean,」日本語に切り替えて、「天皇陛下あぁ、ばんざあああああい!!!」

〝アキラって呼ばれてるクソ上手い砂、ガチの日本人?〟〝悪ノリしすぎ〟〝マジ不敬罪〟と日本語圏の視聴者がざわついたものの、やはりアキラは知る由もない。

「sí, that banzai thing.」とリカルド。「What does it mean?」

「Ritelarry tlansrate as‘may you rive ten thousand years, Your Majesty.’」

「Nice. Sounds a bit fanatical, though, it's nice.」

 包囲の輪が狭まり、銃撃と迫撃が苛烈さを増す。

「Akira, have any fresh 65 mag or pistol mag?」使用弾薬が同じウォンが切羽詰まった声で尋ねる。

「None left! I'm shooting a captured FAL. Go get you a usable weapon. There are tons of dead enemy alound, you know.」

「It'd be nice to run directly into this maelstom.」嘆息。「Cant help but give it a shot.」

「Just a minute, I'll get 'em take cover for ya.」アキラは敵が固まっている方向へ弾幕を張る。「OK, go! Run, Forrest! Run!」

 数十秒もしないうちに無駄口を叩く暇がなくなるほど敵側の圧力が強まりだす。

「Almost black on ammo!」

「Ran out of 40 Mike Mike.」

「Jeez, somebody patch me up. I'm gonna bleed to death.」

 といった声が増え始めて、六人がデスペナルティ――本大会ルールではリスポーンまで六〇〇秒の手痛い待機時間発生――を覚悟したとき、朗報が入る。

 友軍の地上攻撃機と武装ヘリの編隊が陽動作戦を支援すべく、東西から別々に急行中だという。パイロットの要請に応えてルイスとウォンが発煙手榴弾を投げる。

「I can see red smokes billowing.」と先着した攻撃機のパイロット。「Bloody hell, too many activities on the ground. Where exactly are ya?」

「In the bomb crater near the smokes.」とウェス。「Gun run straightaway, boss. Sons of b****es are encircling us not farther away than hand grenade range and the perimeter is just about to collapse. Close air support is nowhere near enough to sort out our problem. DUMP ALL YOU'VE GOT RIGHT ON TOP OF US. SHOOT EVERYWHERE.」

「Wilco. Stay close to the ground, boys.」

 フレンドリーファイア設定の本大会では自殺行為も同然のウェスの要望どおり、〈バンザイアタック〉が抵抗している砲弾穴の外も中もおかまいなしに三〇ミリ機関砲弾とクラスター爆弾が雨あられと降りそそぎ始める。低空から飛来した武装ヘリのチェーンガンとロケットがそれに続く。

 まるまる一分間の狂騒。

 包囲していた敵プレイヤーは装甲車もろとも全滅。

〈バンザイアタック〉の六名は……無傷。

 着陸した回収ヘリに乗り込みながら、ウェスが歌うように言う。「It was a miracle. Haaaaallelujah.」

 奇跡は続く。

 出だしこそ躓いたものの、〈バンザイアタック〉は友軍の勝利に最も貢献したチームの一つに選ばれ、そのトータルスコアはプロチームを押し退けて(僅差で)一位に輝く。翌日のイベント第二部、総合キル数上位二〇組によるトーナメント戦でもプロチームを押し退けて(僅差で)優勝を飾る。しかも一〇名全員が個人キル数でトップ40に入るというおまけ付き。

 オンラインのお遊びイベントでの出来事とはいえ、快挙は快挙。

 快挙がもたらす帰結――熱烈なスカウト。

 相手は主に、各メンバーの母国や留学先のeスポーツ事務所だ。個人キル数で七位になったアキラには、日本勢はもとより、海外勢からもお声がかかる。まだ未成年? 親元を離れて居住費ゼロの寮で暮らしてるローティーンのプロもいるよ。学校の勉強? eラーニングで大学に進学できるよ。でだ、チートコード監視AIを欺くのは事実上不可能といっても、一応、簡単な試験を受けてもらいたいんだが? 地理的・金銭的・時間的に当方を訪問いただくのが難しいようなら、我々が、機材を持ってそちらへ伺う方法も……

 ナントカいう世界的建築家に師事する野望を抱くウォン以外、みんな乗り気になる。

 しかしプロ転向は即断即決できるような話ではない。

 なんやかんやで大学が忙しい年長組は〝学業との兼ね合い次第〟と返事を保留。保護者の同意なしには何ひとつ決定権がない中高生の年少組も〝家族会議の結果次第〟と返事を保留。

 で、雨宮家の家族会議。

 アキラの両親(精神科医と哲学科正教授)はリベラルな知識階級としての自負心から進取の気性に富むが、長男が〝プロゲーマー〟などという博打そのものの世界に足を踏み入れんとすることに難色を示す。アキラは確約する。潰しが利くようにちゃんと高校に行くし大学も出る、と。

 明らかに言葉だけでは足りなかったので、高校受験シーズンから中学卒業シーズンにかけて、アキラは三教科を重点的に独習したのち、都内有数の進学塾の門を叩いて、春期講習初日に大学入試レベルの模試を受けたいと申し出る。

 そして適当に有名私大で埋めた希望進路のすべてでA+判定を叩き出す。

 その結果を見せられた両親は大いなる葛藤の末、しぶしぶ了承する。〝適度な放任〟子育て術をかなぐり捨てて条件も付ける。社会性を養うために高校をドロップアウトしないこと。学力を落とさないこと。大学進学後は食いっぱぐれない資格(医師免許、弁護士資格、公認会計士資格、国家公務員Ⅰ種)または学位(MBA、MArch、MSc、MFA、MEd、MAT、MALS、MLitt)を取得すること。成人まで金銭面は親が管理し、色を付けたお小遣いの中でやり繰りすること。〝ゲーム留学〟はさすがに許可できないので、なんだかよくわからない日本のゲーム関係にすること。

 アキラをスカウトした都内の中堅eスポーツ事務所は、広範な知識と高い練度を要求されるリアル系FPSが世界の主流になりつつある風潮と、リアル系不人気のお国柄とが相まって、FPS部門の過去数年の戦績がぱっとせず、喉から手が出るほど、いや、涎ダラダラのレベルで、時流にマッチした才能を欲している。

 課された試験で当該事務所の一軍チームをコテンパンにのしたアキラは、まさに時流にマッチした才能。国内どころか、世界を相手に連戦連勝の夢を見させてくれる一〇〇カラットの原石。

 雨宮親子は担当者と何度もビデオ通話で話し合い、プロになることで得られる利益と潜在的不利益について細大漏らさず説明を受けたあと、招かれたレストランで契約書にサインする。

 ダイアの原石とはいえ、提示された年俸はそこらの社会人一年生と同程度。MLBやNFLのドラフト一位指名選手には遠く及ばない。しかし所属チームが好成績を収めれば契約更新時に年俸はアップするし、賞金がざくざく入るし、チームまたは個人にスポンサーが付くことで余禄もある。

 大多数のスポーツ選手と同じく、この余禄が一番大きい。

 ゲームの世界でもトッププロは余禄だけで軽く九桁を稼ぐ。

 お金は問題じゃない、とアキラは思う。ぼくはただ脳汁が出るようなプレイをしたいだけだ。

 今後は脳汁プレイの機会がいくらでも訪れることに鼻血が出そうなほどワクワクする。世界の天辺にいるような気分になる。

 雨宮アキラは自分が幸運の星に愛されていると信じて疑わない。

 理解のある両親に恵まれ、可愛いと言えないこともない妹がいて、本人は本人でおつむの出来が良く、やる気にさえなればスポーツも難なくこなし、さらには一〇代半ばにして(それも好きなことで)職業人のスタートラインにいざ立たん、ときたら、誰だって幸運の星が微笑みかけていると信じて疑わないだろう。

 プロのFPSプレイヤー――夢みたいだ。

 近況を報告し合ったとき、〈バンザイアタック〉のメンバーも口々に言う――夢みたいだ。

 これから夢の時間が始まろうとしている。

 ぼくたちは夢を生きるのだ。


 と、ここまでが高校一年時のゴールデンウィークの話。

 悲しいかな、本人のあずかり知らぬところで幸運の星が雲に隠れ、その雲間から凶星が顔を出す。






















更新は二か月に一度くらいの予定です

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