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ガルデニアの残り香  作者: 板久咲絢芽
眼光紙背に徹して
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2

――タロットカード。一般的に知られた大アルカナではなく、トランプと紐づくともされる小アルカナ。

内、聖杯(カップ)のスートのエース。

その正位置が意味するところは、「満ち足りる」こと。


――ペリカンはヨーロッパにおいて、自身の胸を傷つけ、流れた血で子を(やしな)うとされる。

そのため、自己犠牲と慈愛の象徴とされ、紋章上に配置される多岐に渡る図像――チャージの中には、胸を傷つけ子を(やしな)うペリカンという「慈愛の(Pelican in)ペリカン( her piety)」と呼ばれる図像も存在する。

そして、母乳は母体の血を濾過(ろか)して作られる。実質血液と同じだ。

その意味で言えば、ペリカンの図像と母乳を与える母の像は、とても近しいものと考えられる。


――心理学や精神分析学において、人は常に「生きていたい」という本能的な欲望と、「死にたい」という本能的な欲望を無意識に抱いているとされる。

これを、エロス(生の欲動)タナトス(死の欲動)と呼び、死の欲動が上回った場合に人は死ぬという。

これを一部精神分析学においては、生の欲動とは「己に欠けた何かを得ようとする=欲望」の対象を次から次へと乗り換えていく事であり、これが完全に満たされてしまった場合、すなわち「それ以上何かを得る気を持たない」状態こそが死と結びつくと唱えられた。

同時に「己に欠けた何かを得ようとする=欲望」を満たそうとする本能的な欲望こそが死の欲動であるともされた。


――ブルガリアには「吸血鬼の花嫁」と題される話が複数伝わっている。

他の多くの民話と同様に、この話は複数のバリエーションがあるが、メインとなるのは若い娘と、その娘の恋人の吸血鬼である。

結末にもバリエーションがある。

一つに、恋人を吸血鬼と知りながら、恋人の問いに嘘をつき続けた娘は、(まわ)りの人間と己が命を失う。

一つに、恋人を吸血鬼と知るも、娘を愛した吸血鬼は身を(てい)して他の吸血鬼から娘を守る。

一つに、恋人を吸血鬼と知り、吸血鬼から解放する(すべ)を知った娘は、勇敢にも恋人を吸血鬼から救う。

いずれにせよ、愛こそが物語の展開の契機である。

何もそれは吸血鬼に限らない。

たとえば、「美女と野獣」、「鷹フィニストの羽根」、グリム童話の「紅薔薇と雪白」、「歌って跳ねるヒバリ」、「マレーン姫」など枚挙(まいきょ)には(いとま)がない。

ワーグナーのオペラ、「さまよえるオランダ人」に(ほどこ)された、その呪いを()く「乙女の愛」という伝説の改変もまた、多くの受け手は自然と受け入れた。

多くの民話で、伝説で、物語で、それは、(ある)いはその証として行う行為は、あらゆる艱難辛苦(かんなんしんく)を乗り越え、呪いを()契機(けいき)であり、奇跡をも産む。

その愛は、恋愛に限らず、「鵞鳥白鳥(がちょうはくちょう)」、「七頭の竜」、「金の鳥」や「六羽のカラス」、「森の中の三人の小人」を見れば、友愛や兄弟愛、隣人愛も含む。

特に、おにいちゃんが生まれたヨーロッパでは。

きっとそれは、宗教的な影響も大きいことは明確だ。

だって、ルサールカの伝承のように、唯一神教下で許されぬ存在が愛(ゆえ)(おの)が身を滅ぼしたりするのだから。


――だから、おにいちゃんは、きっと定型(テンプレート)然として繰り返される、(それ)()けたんだ。

もうちっとだけ続くんじゃ。

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