魔物の軍勢
砦に入った翌日、俺達は早速外へ出て動き始めた。魔物の軍勢は一定の速度で進行していることから動きを予測しやすいため、騎士団は今日に合わせ迎え撃つ準備をしっかり整えていた。
「魔王との戦い以来、大規模な戦闘だな」
俺は移動中小さく呟いた……といっても魔王との決戦からそれほど月日が経過しているわけでもない。決戦は聖王国の領土内で行われたが、進撃を留めることはできたので聖王国の領土についてダメージはあまりなかった……が、今回の場合は野放しにしているとどうなるかわからない。
幸い敵は進軍を優先としているため、町や村への被害がないみたいだが……胸中で思考する間にとうとう戦場へと辿り着く。そこは見晴らしの良い平原……罠などを設置することも難しく、奇襲なども通用しにくい、平地だ。
そして俺達は魔物の姿を目の当たりにしたのだが……、
「異様な光景に見えてしまうな」
俺はそう感想を述べる。見えて「しまう」と表現したのは、その雰囲気を俺やニックは見たことがあるため、恐怖感などないためだ。
目前にある平原には、淡々と行軍する魔物軍勢がいた。数は……さすがに数えるのは難しいのだが、千は余裕で超えるだろう。
そうした数の魔物が平原を進む光景は、先ほど言った通り異様……ではあるのだが、以前見た魔王が率いる軍勢と比べれば……といったところ。
「これを見た人々は恐怖するのは間違いないな」
「で、包囲はできているのか?」
問い掛けてきたのはニック。俺はここで遠視の魔法を使用し、
「……ああ、四方から各砦から騎士が近づいている」
「なら、このまま攻撃開始すればいいわけだが……魔物の能力を確かめるにしろ、真正面からは厳しいよな」
「相手の進軍方向に対し、横側から近づけばいいだろ。俺が魔法を撃ってみて能力を推し量る。それをルードに魔法で伝えつつ、攻撃を開始する」
ここで俺は魔物の軍勢を見据える。遠目から見る限り、それほど凶悪な能力を持っている雰囲気はない。
「……ミリア」
俺は仲間の名を呼ぶと、彼女へ首を向けつつ、
「どこかに魔族がいるはずだけど」
「ええ、確認できたわ。ただごめんなさい、見覚えがないわね」
「魔力とかに何か特徴はあるのか?」
「今探っているけれど、私が把握している魔族の気配を発しているというわけではなさそう」
「少なくとも魔王の一派ではない?」
「そこは間違いないわ」
……ということは、やっぱり魔王と敵対していた勢力で、聖王国に打撃を与えて魔王の後継者として実績を得ようとする輩なのか……やがて移動を開始。俺の言葉通り進行方向の横側へ迂回する。
「こいつら、どうするつもりなんだろうな?」
ふいに、ニックが呟くように声を発した。
「確かに数は多いが、それでも王都を落とすには足りないだろ。万単位の魔物が必要じゃないか?」
「この場所にいる魔物だけで仕掛ける、というわけではないかもしれない」
と、俺は魔物を見据えつつ言及する。
「例えば、まだ捕捉しきれていない所に、同様の軍勢がいる可能性もある」
「波状攻撃、あるいは段階を踏んで攻撃を仕掛けるってわけか」
「実際、一度に現れるよりもそちらの方が効果的ではある。ここの戦いで終わらない場合厄介だが……」
その辺り、聖王国は対策を立てているのだろうか? 情報が入ってこないけど、問題ないことを祈るしかなさそうだな。
転戦するにしても、出現する場所によっては周辺の町や村に被害が出るかもしれないし、可能であればこの戦いと同時並行で対処してくれると助かるけど……。
俺達は魔物の軍勢に対し側面へ移動。一応行軍をせき止めるためにルードが率いる騎士団が待ち構えてはいるのだが、戦力的には数百騎くらいしかいないので、魔物全てを防ぐというのは無理だ。よって、包囲をする騎士達の頑張りに掛かっている。
「……んー」
俺は小さくうなりながら魔物に対し気配を探る。
「強さについてはばらつきはあるにしろ、一定の水準には達している。加えて、中心に行けばいくほど魔力に厚みが加わっているな」
「つまり、中央付近の敵が強いということ?」
尋ねてきたのはアルザ。俺は首肯しつつ、
「そうだ。まずは魔法を食らわせて相手の反応と、挙動を見る。全軍で襲い掛かってきたなら即座に退却だけど……移動を優先しているなら、一部だけ襲い掛かってくる可能性もありそうだ」
「その場合が理想的かな?」
「各個撃破できるからな。まあ、包囲しているとはいえ部隊の人数的に少ないのはこちらだ。敵の動き方に合わせて臨機応変に……という形で動くことにしよう」
俺達は平原の中に点在する雑木林の中へ隠れ、様子を窺う。魔法攻撃が十分届く距離であり、逃げるにも余裕がある距離だ。
俺は仲間やニック、さらに同行する騎士へ目配せをする。それで騎士の一人が頷いたので――作戦開始だ。
「……いくぞ」
俺は宣言と共に魔力を高め――それが巨大な火球となって、魔物の軍勢へと解き放った。




