中年の騎士
俺達がやがて到着したのは――聖王国内にある軍事拠点。堅牢な城壁に囲まれた砦だった。
「お待ちしておりました」
俺達が来る、という情報は伝わっていたらしく、砦を訪ねるとすぐに会議室へと通された。そこにいたのは中年の騎士が一人。
その姿に見覚えがあり、俺がまず口を開いた。
「久しぶりだな、ルード」
「ああ、久しぶりだディアス」
ルード……ルード=ラダーナという『暁の扉』の構成員だった人間だ。俺が戦士団に加入して五年後くらいに騎士にスカウトされて、以降は騎士団所属として幾度か顔を合わせたことがある。
やや腹が出ているし、丸みを帯びた顔に黒いひげもあんまり似合っていないのだが……、
「ルード、また太ったんじゃないか?」
「放っておいてくれ。これでも新米騎士を圧倒できるくらい剣は振れるぞ?」
「今回はその武勇、役立ちそうか?」
「あー、難しいな……持続力はないからなあ」
「もうちょっと痩せてくれよ、まったく……で、指揮官はルードなのか?」
「ああ、そうだ」
「確か出世するより危険が少ない場所に配属されたがっていたよな? その結果が中央の駐屯地配属だろ?」
俺が遠慮なく言うと、当のルードは苦笑する。
「ああ、その通りだよ。しかし実際はこんな事態に陥ったわけだ、ちくしょうめ」
「それはご愁傷様……ルードの下ならやりやすいし、こちらとしてはありがたいけど」
彼なら俺やニックの実力はおおよそ把握している。上手いこと動かしてもらえるはずだ。
「それで、状況は?」
俺の問い掛けにルードはまず、テーブルの上に地図を広げた。それは聖王国の地図……上から半分ほどが描かれたものだ。
「魔物の大軍が王都へ向かっているのは知っているか?」
「ああ、方角的にそうだろうな」
「聖王国としても同じ見解で、この駐屯地から部隊を派遣して、魔物と相対し殲滅する」
「殲滅が最低条件か?」
「周辺には宿場町も農村も多数ある。魔物の侵攻ルート周辺にいる人々には避難してもらっているし、幸いながら村などに侵入されることもなく、家屋などの被害もゼロだ。とはいえ、さらに北へ進めば町や村も多くなるし、被害が出るかもしれない。よって、中央部にいる内に仕留めなければならない」
……魔物を殲滅する、というのは数が多ければ難易度が高くなる。そもそも、魔物は現在理路整然と動いているが、それがいつ分散するかもわからない状況だ。
俺達は軍として動いていることから大軍の中に魔物を操っている存在がいると考えた。仮にそいつを倒した場合……当然ながら魔物の命令が解除される可能性が高く、四方へバラバラに散ってしまう可能性がある。
「魔物の大軍についての詳細は?」
俺の問い掛けにルードは懐から資料を取り出す。
「遠視魔法により観察したところ、魔物の大軍……その中軍付近に魔族らしき存在がいるのを確認した」
「そいつが魔物を操っているわけだ……どういう魔族なのかについてはわかるのか?」
「調査中だが、少なくとも魔王軍幹部クラスではないな」
俺は資料を手に取って読んでみる。魔族の特徴も書いてあるが、これだけではわからないな。
「魔物の種類は?」
「人型であるオークやゴブリンが中心だ」
「つまり、武器を所持していると」
「ああ。ただ中軍付近には魔法を扱えると思しき魔物もいた」
「完璧に軍だな……なぜ魔物が出現したのか、経緯については?」
「そこについても調査中だが、話によるとある日突如山の麓にいたらしい。調査隊が調べたところによると、そこにはダンジョンが一つあった」
「ダンジョン……?」
「昨日までに調査した情報だと、当該のダンジョンはもぬけの空だ」
「つまり、ダンジョンに魔物を隠していた?」
「そのようだな……顔つきから何を考えているのかわかるぞ。魔王が滅んだこのタイミングでなぜ、だな?」
「そこはここへ向かう途中にニックなんかと議論したよ」
「申し訳ないがその辺りも不明だ。ダンジョンを調べれば何か出てくるかもしれないが」
……今はとにかく、敵を倒すのが優先か。
「魔物の能力などはわかるか?」
「遠方から魔力を分析しているが、妨害魔法などもあって苦慮している」
「向こうも対策は立てているわけだ……ここで下手な戦力を投じて被害が出たら目も当てられないな……そこで、俺達の出番か?」
「そうだ」
頷くルード。つまり俺達に威力偵察を頼むと。
「作戦としては、周辺にある駐屯地から騎士を出して包囲する形で攻撃する。その前段階でディアス達は近づいて、能力を分析してくれ」
「俺達が攻撃してみて、実力を推し量ると……わかった、請け負うよ」
「悪いな、二人とも」
「このくらいは別に構わないさ。ニックもそうだよな?」
「ああ。ただその分、報酬はもらうからな」
「そこは上手いこと交渉しよう」
ルードの言葉に、俺とニックは同時に頷いたのだった。




