英傑達の考察
目的地へと到着するより前に、俺達は情報を取得する。魔物の軍勢は何者かから命令でも受けているかのように理路整然と、どこかへ向け移動しているらしい。方角は北。その近くには大陸中央部における物流の中心地が存在するのだが、そこへ向かうにしては方向がズレているとのこと。
「狙いは王都か?」
「その可能性は高そうだな」
移動の最中、俺の言葉にニックは律儀に答える。
「しっかし、確実に魔物は何かから命令を受けているぞ、これ」
「情報では読み取れなかったけど、行軍する魔物の中に魔族がいるんだと思う。そいつは魔王が滅ぶ前から潜伏していたのか、それとも滅んだ後からか……」
俺はそう呟きつつ、ミリアへ首を向ける。
「魔王が滅んだことによる弔い合戦、という見方がとれなくもないな」
「聖王国へ潜入していた存在が、姿を現したということね。にしては、もうちょっとタイミングがあると思うけれど」
ミリアの言及に俺は頷く……と、今度はアルザが口を開いた。
「今は魔王を倒した直後で戦勝ムードとはいえ、結構警戒してるでしょ?」
「そうだな、各地方にはまだ多数の騎士団が常駐しているみたいだし、今の段階で仕掛けるのは、愚策だな」
年単位……それこそ一年や二年くらい待った方が効果的だろう。時間が経てば経つほど聖王国としては油断するだろうし。
アルザの指摘はもっともだし、俺だってそう思うのだが……俺は以前ミリアから聞いた情報を考慮しつつ、言及する。
「他の可能性としては……アルザ、現在魔界は後継者争いをしている」
「うん、それはミリアから聞いた」
「誰が選ばれるにしろ、少なくとも魔界の同胞達から認められなければならない……そのためには一定の戦果を得るのが手っ取り早い」
「つまり、聖王国に潜伏していた配下を利用して攻撃を、ってこと?」
「あくまで推測だぞ。配下に指示を出し、攻撃が成功すれば……先代魔王ですら敗れた聖王国に打撃を加えた、ということで箔がつくんじゃないか? ミリア、その可能性はどうだ?」
「あり得ない話ではないと思うわ……実際のところ、魔王候補の中には人間を憎んでいる存在もいるし、魔王となるために利用しようと考える存在もいる」
「誰が主犯なのかはわからないか?」
「……魔物の詳細とか、あるいは率いている魔族が誰なのかわかれば推測できなくもないけれど、難しいのではないかしら」
そうしたコメントをミリアがした時……次に口を開いたのはニックだった。
「ミリアさん、魔界の事情というのはよくわからんが、人間を憎む候補というのは多いのか?」
「魔王候補だけを言えば、半数くらいは」
「ほう、なるほど。あり得そうだな」
うんうんと頷くニック……ちなみに、彼の仲間にもミリアが魔族であることは伝わっている。で、とりあえず問題は生じていない。
「ただなあ……なんだか違和感があるんだよな」
そしてニックは続けるのだが……ここで俺が質問をする。
「違和感というのは、具体的に何だ?」
「魔物の軍勢、なんて言う以上は数だって相応に多いはずだ。それだけの数を密かに溜め込んでいたってことは、だ。相当前から準備をしていたんじゃないか?」
「魔物の生成が得意な魔族ならその限りではない……が、ニックの言いたいことはわかる。魔王の配下だとしたら当然、魔物を準備していたなら魔王が攻撃を仕掛ける際に投入しているはずだ、と」
「ああ、その通り」
「けどそれはしなかった……となれば、魔王とは異なる魔族の誰かによる命令で、隠れていたということになるわけだが、問題はそう考えた場合今回出現した魔物の軍勢は、あえてこの時を待っていたかのように思えてくる」
「魔王の手勢じゃなかったとしても、人間に勝利するためには当然魔王との戦いの際に出てきたはずだが……このタイミングで、というのはどう考えても魔王が滅んだから打って出た、ということになる」
――魔王が人間側に勝利したのなら、魔物の軍勢など必要がなくなる。よって、事前に準備をしていると仮定した場合は、魔王が滅ぶのを待って進軍を開始したようにも思えてしまう。
ただ、そこについては――
「ミリア、魔王候補について詳しく聞いたことはなかったが……俺達が滅ぼした魔王を恨んでいた魔族もいるのか?」
その指摘に対し、ニックやアルザはミリアへ視線を集中させる。
「その辺り、どうだ?」
「そうね……確かに、先代魔王のやり方に反発していた存在。あるいは失脚した存在も含まれているわね」
「だとすると、魔王が負ける可能性を想定して準備をしていたって可能性もあり得るな」
まああくまでこれらは今ある情報で考察しているだけだが……権力争いをしているというのなら、状況が複雑怪奇になっても仕方がない。
ただ、やるならこちらを巻き込むなとも思う……ともあれ、俺達はまず目先の問題を解決しなければならない。よって、俺達はひたすら目的地へと進み続けた。




