緊急要請
俺は馬の音を聞いてそちらへ向き直る。騎乗していたのは騎士で、何やら周囲を見回して誰かを探している。
しかもそれは、緊張感を伴った顔つきであり……何かあったのだろうかと訝しんでいると、俺達を見つけてそちらへ駆け出した。
「用があるみたいだな」
「ディアスじゃないのか?」
ニックが問い掛けてくる。それに俺は、
「心当たりはないんだが……」
「――ディアス様! ニック様!」
どうやら用があるのは俺達二人のようだった。
「まだいらっしゃいましたか……! 聖王国より緊急要請です」
緊急要請――その言葉を聞いて俺もニックも表情を変える。
その言葉を過去に聞いたのは少し前……魔王が侵攻を開始するという段階に入って情報が入り、戦士団に騎士が連絡をしに来た。英傑達全員に情報は素早く行き渡り、俺達は集い魔王との戦いへ向かった。
聖王国が緊急要請――しかも旅をする俺達の所にまでわざわざ来るというのは、よほどのことが発生した……こちらが沈黙する間に、騎士は語り出す。
「大陸中央部に、魔物の大軍が出現しました」
「大軍……?」
俺は眉をひそめる。そういった存在が現れるというのは、どういう理屈で――
「詳細は現在調査中です。現在周辺を封鎖して対処に当たっていますが、魔物を倒せる人員が非常に少ない」
「なるほど、そこで近い俺達に招集がかかったと」
俺の指摘に騎士は頷いた。
うん、理屈は通るのだが……経緯については、後々教えてもらえればいいだろうか?
「ニック、どうする?」
「さすがに次のダンジョンへ向かうのは中断だな。優先すべきは魔物の殲滅だ」
やる気を見せるニック。それに同調するかのように俺は頷き、
「俺も当然行くが……なんというか、偶然にしてはできすぎているな」
「ダンジョンを攻略した直後なのに、か?」
ニックの問い掛けに俺は頷くが……さすがに偶然の産物だろう。俺達は騎士から場所を教えてもらい、早速そこへ向かうことにする。
「ニック、一緒に行くか?」
「そうだな。魔物討伐に競争もクソもない……道中で情報を集めつつ、向かうとしようか」
――俺達はダンジョンのあった場所を後にする。ひとまず最寄りの町へ向かうと、既に魔物が発生したことは知れ渡っており、商人などが忙しなく動き回っている。物流が麻痺しないように色々対応しているのだろう。
「早期に解決しないと面倒になりそうだな」
俺は呟きつつ、仲間の表情を窺う。
アルザはやる気を見せているし、ミリアも同様……と、ここでニックは俺へ向け疑問を口にした。
「ミリアさんはいいのか?」
「その問答は既にしてあるから問題ないさ……それに、今回の相手は魔物だろ? 魔族達が生み出したものかどうかも微妙だし」
「こんなタイミングで自然発生したとは考えにくいけどなあ」
「ただ、魔王が滅んだ直後にわざわざ聖王国まで来て魔物を作成するのも変だろ」
俺の指摘にニックは「そうだよなあ」と答えはしたのだが……何か引っかかる様子だった。
「ニック、どうした?」
「あくまで可能性だが、魔王の意志を継いで何か行動を起こそうとしている魔族……とか、そんな可能性はないか?」
「あり得ない話じゃないが……ミリア、その辺りどう思う?」
「魔王を信奉していた人はいたから、否定できるようなことではないけれど……そもそも後が続かないし」
「後が、続かない?」
俺が聞き返すと、ミリアは解説を始める。
「聖王国にダンジョンを作成するのは、進行の足がかりとするため……魔物の発生だってそれは同じ。とにかく国内を混乱させてその隙に……というのがわかりやすいけれど、今回発生したのは大陸中央部。魔界で攻撃準備を始めているにしても、大陸中央部まで来るのは難しいはず」
「つまり魔物を大量に発生させても、それに対処されたら終わり……だから、魔王の意志を継いだ存在だとしても、考えにくいと」
「そうね。もっともこれはあくまで正常な判断ができていることが前提となっている。魔王が滅んだことによって魔族が暴走しているのなら、突拍子もない動きをしている可能性はゼロではない」
「そうである場合、かなり面倒そうだな……」
もしそういう形であれば魔族もいるはずで、交戦した場合でも滅ぼさない限り延々と攻撃が続くことだろう。
「……まず、戦場に辿り着いたら魔物のリーダーを探すところからだな」
俺の呟きに仲間も、ニック達も同時に頷いた。
思わぬ形で魔物討伐をすることになったのだが、不安感はなかった。なぜなら仲間に加えて今回はニックという存在もいるからだ。
「魔物の出方次第ではあるが」
移動の最中ふいにニックが口を開いた。
「敵のリーダー格を発見したら即座に倒せばいいんだからな、短期決戦することは可能だろ」
「大陸中央部で混乱しているだろうから、短時間で倒せるならそれでいいんだが……まあいい。ここで議論しても始まらない」
まずは現状を把握する……そう心に誓いつつ、俺達は魔物の発生場所へ移動を続けた。




