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最強のおっさん魔術師、自分探しの旅をする  作者: 陽山純樹
第二章

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表現の場

 部屋を出た直後、濃密な魔力を感じ取り……なおかつ、部屋の外がずいぶんと広い空間であることがわかった。

 まるでそれは、最下層に存在するエントランス……円形かつずいぶんと広く、まるで舞踏場とさえ思わせるほどの大きさと、高い天井……そして、


「あれが……」

「最下層の、守護者」


 俺の呟きに対しレーテが発言した。

 円形の広間は一定間隔ごとにどこかへ繋がる扉が存在しているのだが、その中で両開きの大扉……そこを守るように、魔物が一体いた。


 それは俺達の上背を越える体格を持った人型の魔物……頭部は竜を模したものであり、なおかつまとう気配はまるで騎士を連想させるように洗練されている。

 装備は全身を漆黒の鎧で覆い、右手には大剣が握られている。大きな体を考慮すると、その斬撃は相応にリーチもあるし、体つきから魔力を伴わなくとも筋力だけで人間など複数人まとめて吹き飛ばすことができるだろう。


 ……俺はなんとなく、これまで見たこのダンジョンを作成した魔族に思いを馳せた。魔王から指示され調査を任された存在。けれど、このダンジョンについては彼の思想などが多く入っているはずだ。

 まるでこのダンジョンは、自らの表現の場とさえしていた風に思える……そうした中で最下層にいるあの魔物。その存在は、魔族の最高傑作にして魔族における理想型と呼べるようなものに仕上がっている雰囲気さえある。


 その中で俺は発する魔力からどういう能力なのかを推測し、


「……アルザ。前衛は任せた」

「うん」

「ミリアはレーテを守りつつ、場合によっては魔法で援護を。強化魔法を用いる以上、俺やアルザの動きにも対応できるはずだ」

「わかったわ」

「俺が強化魔法を用いた時点で魔力を大きく膨らむ。それに反応して魔物は動き出すはずだ。それを合図に――交戦を開始する」


 魔物は俺達を見据えてはいるが、まだ仕掛けようとはしていない。というより、おそらく魔力を発するか一定範囲に近寄らなければ動かないタイプなのだろう。

 俺は静かに魔力を高める。時間としては一瞬であり、すぐさま魔法を行使できる状況にはなったが、


「アルザ、俺が強化魔法を使った瞬間、全力で頼む」

「わかった」


 その言葉で俺が言いたいことがわかったらしい。彼女は頷き、鋭く魔物を見据える。

 そして――俺はミリア達へ強化魔法を付与した。動作は一瞬かつ、魔法発動も一瞬。だが、ミリアとアルザは相当な高揚感を得られたに違いない。使用した魔法はそれこそ、魔王との戦いで英傑達に使用したような……俺にとって全力の支援だ。


 そしてレーテにも魔法を使用する……とはいえ、彼女の魔力については分析できていないので、俺の強化魔法によって魔物が放つ余波とか、そういうのを防ぐための防御系強化。

 刹那、魔物が動く。竜をもした頭部にある瞳――紅い瞳が俺達を射抜く。


 そう思った直後だった。アルザが一歩足を前に出した矢先……魔物が、跳んだ。文字通り神速で、俺達へ迫ってくる。

 次の瞬間、俺は杖を振りアルザの真正面に結界を形成した。それは魔物の攻撃を防ぐというよりは進路を妨害するように壁を作って動きを止めるというもの。結果は……魔物は止まれず激突する。だが動きを止めるばかりか突撃によって結界を無理矢理破壊する!


「はっ!」


 だが、結界を破壊する際にわずかながら動きが鈍る――その隙を利用してアルザは踏み込んだ。ありったけの退魔の力が収束した剣を、先ほど見せた魔物の動きに劣らず恐ろしい速度で剣戟を見舞った。

 だが――魔物はそれを剣で防いだ。金属音が響き、アルザの攻撃は失敗に終わる。そこで魔物は反撃に出た。巨体とは思えない俊敏さで剣を切り返し、吹き飛ばされそうな剣風を伴い豪快な横薙ぎを放った。


 それに対しアルザは軌道を見極めてかわすと、さらに退魔の力を利用して剣を放つ。今度は懐へ飛び込むように――剣が、魔物を捉える。斬撃は鎧に叩き込まれ、金属が砕ける音が耳に入った。

 あの鎧は魔物の魔力によって生成されたと言えど、金属的な特性を持っているらしい……魔物は一気に後退する。退却を即決断した判断力に加えてアルザに追撃を許さないほどの速度。さらに言えば洗練された魔力……異界化して魔物も相応に強化されているはずだが、さすがに技量面については成長が難しいはず。それにも関わらずこれだけの能力を持っているというのは――


「……もしかすると、このダンジョンの作成者は相当人間の調査を進めていたのかもしれない」


 俺の発言に、ミリアは眉をひそめる。


「どういう、こと?」

「ダンジョンを作成し始めるより前から、ここを作成した魔族は人間の技術などを調査していた……そうした情報によって、ああした技術を持つ魔物が生まれた」

「……人間が持つ剣術。それを応用したということね。確かに魔族は人間と比べれば武術に関する知識は浅い。人間達から、情報を得ていた可能性は高そう」

「もし偶然魔族を倒していなければ……ここのダンジョンは、歴史を変えたかもしれないな」


 俺がそう呟いた直後、魔物は咆哮を上げた。


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